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営業とは、困っている人を助けるスーパーヒーローだ

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

興味深い記事を見つけた。10月11日付「なくなる? なくならない? 営業職はAIに代替されにくい仕事なのか?」という記事だ。

人材会社のエン・ジャパンは、転職サイト「ミドルの転職」の35歳以上の利用者に対し、AI(人工知能)によって代替されにくい職業についてアンケートを取った。結果は、1位に営業系、2位に経営企画系、3位にクリエイティブ系であった。

同社は転職コンサルタントに対してもアンケートを取ったが、それによると、1位に経営者、2位に経営企画、3位に営業であった。

注目すべきは、これがAIにおける一流の研究者の見解とは異なることだ。オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授らの研究では、いわゆる営業系の仕事はむしろAIに代替される可能性が高い。そしてこれは、最も信頼できる研究として広く認知されている。

エン・ジャパンの調査では、営業が代替されない理由として、「個性」や「キャラクター」などが顧客との関係構築には重要だと思われていることが挙げられている。ここで、調査が正しいかどうかを判断する材料を提供したい。それは、営業とは何なのか、何であるべきなのか、どのような価値があるのかに関係している。

結論からいおう。営業とは、困っている人や、困っていることに気づいていない人を助ける、スーパーヒーローである。

ヒーローは、困っている人を見つけることから始めなければならない。困っている人を実際に助けなければ、ヒーローとしての資格を失うからだ。

しかし困っている人は、突如現れたヒーローを信用しない。本当に助けてくれるのかと、つねに疑心暗鬼である。もしかしたら悪魔のささやきかもしれないとすら思っている。なぜか。そう思ってしまうような経験を繰り返してきたからだ。彼らはヒーローだと思っていた人に、何度も裏切られてきたのである。ヒーローならば、目の前にいる人を絶対に裏切ってはならない。

よってヒーローは、彼らを安心させることから始めなければいけない。ヒーローがヒーローたる第一の条件が、これである。

いまだ疑いは晴れなくとも、助けを必要とする人が見つかったならば、もちろんヒーローは現場に直行する。映画「スパイダーマン」のピーター・パーカーが、まさにそうしている。とはいえ、映画を観た人ならばご存知のように、多くの場合、現場に行かなければその人の困っていることはわからない。それでも、私はヒーローだ。目の前の人を助けるのがヒーローだ。自分のもちうる能力を駆使して、何とかして助けなければならない。

できるかどうかはわからない。だが、ここでヒーローが言うべきセリフはただひとつ。「もう大丈夫、私が来た」。ジャンプで連載している漫画『僕のヒーローアカデミア』におけるナンバーワンヒーロー、オールマイトの言葉である。本当は大丈夫でなくても、うろたえていても、この言葉を口にしなければならない。辛いであろう。実際、きついはずだ。それでも言うのがヒーローというものなのだ。救うべき人がいる限り、ヒーローである自分が救わなければならないのである。

救うと決意したのだ。だから、何としてでも救うのである。現状、その力があるかどうかは関係ない。やると決めたのだから、自らのもちうる力のすべてを用いて、あるいは他のヒーローやスタッフと連携して、目の前の人を助けるのである。

ヒーローには使命がある。使命なくしては、ヒーローとはいえない。

営業をヒーローだと言った。しかし現実には、そうでないヒーローも少なくない。それは、ノルマの達成が目的化しているヒーロー、困っている人を助けることに目を向けないヒーローである。

そのような者を、本当にヒーローだといえるだろうか。ヒーロー協会のようなものがあったとして、それはヒーローの評価を行う機関に違いない。そこで高い評価を得ようとし、点数稼ぎが目的になっているヒーローは、もはや困っている人を助けることを目的としてはいない。彼らは、できる限り助けやすい人を助けるであろうし、点数にならない事案は無視したりもする。

これが営業におけるノルマである。たしかに数値的目標は大切だ。しかし、目標はやはり目的とは異なる。目的を果たすために目標があるのだ。たしかに筆者は最初の職場で、このようなことを教えられた。

そして困っている人は、点数稼ぎに没頭するヒーローを見抜く。「間に合っています」と言って拒絶する。そのようなヒーローには、ヒーローとしての資格は与えられないのである。目的を忘れたヒーローなど、世の中にとって有害でしかない。

かくしてAIに代替されるのは、ヒーローの資格を失ったヒーローであろう。つまり、無感情なAIに任せたほうがマシなヒーローである。そのようなヒーローが跋扈するのは、どのような業種であろうか。

AIに負けてなるものか。私たちは人間だ。人間らしさをもった人間だ。感情を持ち、信念を持ち、たとえ合理的でなくとも人のために尽くすことを優先することができる。それが人間というものであると、筆者は強く主張したい。

営業は変わらなければいけない。人間的価値を取り戻さなければいけない。AIに負けないよう、もっとスーパーになるために精進しなければいけない。明日の人びとの幸せをつくるのは、スーパーヒーローたる営業職である。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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