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リーダーがメンバーを育成するのに必要なもの 不安感や危機感の前に

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

11月15日付のダイヤモンドオンラインに「リーダーがメンバーの育成に必要なのは「危機感」?それとも「不安感」?」と題する記事が掲載された。不安感は人を縮こまらせることがあるため、危機感を喚起すべきだ、という記事である。

たしかに恐怖や不安は人の心をかき乱し、むしろ行動意欲を減退させる。それに対して危機感は、このままではいけないという気づきから始まり、回避する方法を模索するようになる。記事によれば、危機感を喚起するには次のように言うべきだという。

「このままでは来週の目標を達成するのは難しいと思うよ。でも、なんとしても達成したいよね。じゃあどうすればいいと思う?」

しかし考えてみてほしい。このアプローチ方法は、すでに達成意欲が高い人にしか有効ではない。世の中にはそうでない人のほうが多い。彼らは、この質問を投げかけられても「まぁ今回は無理そうだからいいかな」と心のどこかで思ってしまう。

危機感を募らせる前に、やっておかなければならないことがある。それは、二つの「使命感」の喚起である。

リーダーとしての使命感を喚起する

リーダーとは何か。先導する人のことである。人を先へと導く人のことである。いうまでもなく、人を先導するには、自分が先に行かなければならない。そして何らかの目指すところ、指針を示さなければならない。

人を導くということは、人を先へ行かせるということである。すなわち、人を育てるということである。すべての教育の目的は、人間的成長である。リーダーが人を育てる際にも、たんに成果を上げさせることを目指すのではなく、人としての成長を目指さなければならない。

よってリーダーが示すべき指針は、人の成長のための指針である。したがってまたリーダーは、人として先に行かなければならない。人としての魅力を発揮しなければならない。

第一にリーダーが、自らに対して、人を成長させる使命感を喚起させなければならないのである。そのために自らが、人として成長しなければならない。そうでなければメンバーは、リーダーを信頼しない。目の前のリーダーが自分のために言葉を投げかけているとは思わない。「この人は数字を達成したい人なんだな」と思われるだけである。

人にいう前に自分がやる。自分が成長する。それがリーダーというものである。

メンバーとしてではなく、人としての使命感を喚起する

いかにすれば人は成長するのか。多くの人は、役割を与えることと答えるかもしれない。あるいは、役職を与えることだと答える人もいるだろう。

それらは十分ではない。人が成長するには、何よりも使命感が必要である。使命を果たすために、役割とか役職といったものがある。よって、いくら役割を与えても、その役割を貫徹しようという意思、使命感がなければ、機能することはない。

人としての使命感を持つということは、自らは誰を助けるのか、いかにして助けるのかを決めるということである。これは人生において果たすことを決めるということである。人間は、社会にあって、誰かに貢献することで生きている動物である。お給料は、顧客から「ありがとう」と言われた結果である。誰かに満足を与えたときに、人として生きるための原資を得ることができる。

ゆえに自らの使命のもと、より多くの人に「ありがとう」と言われたときに、高い成果を上げることができる。机上の空論ではない。人間はやる気がなければ行動しない。やる気は、何のためにやるのかがなければ生まれない。リスクではなく、機会に目を向けなければ、困難を乗り越えることはできない。

人は何かにつき動かされて行動する。その原動力の大きさこそが、成果を決める。

「使命感を持って事にあたれば、不安や恐れには負けない。」松下幸之助の言葉である。

ノルマ、達成すべき数値目標は、それだけではモチベーションにはならないのである。何のために仕事をしているのか。その数字の意味するところは何か。その目標は使命感といかに関係するのか。人としての成長にいかに貢献するのか。リーダーは、それらを示さなければならないのである。

リーダーが投げかけるべき言葉はこうである。

「一緒に世の中をよくしようじゃないか。そのために、求められた目標をどうにかして貫徹しようじゃないか。お客さんの喜びをつくるために、もう少し頑張ろうじゃないか。大丈夫。やるだけのことをやるために、一緒にどうすればいいかを考えよう。自らの成長のためにも。」

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皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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