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「ラスカ熱海」開業は11月25日 熱海は今後どうなるのか

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(ペイレスイメージズ/アフロ)

JR熱海駅の新しい駅ビル「ラスカ熱海」の開業まで、とうとう残り10日を切った。老朽化を理由として2010年3月に一たび幕を閉じた駅ビルが、再始動する格好になる。

かねて筆者は、この開業が、もしかしたら熱海にトドメを刺すことになるのではと危惧していた。市場のパイが増えないところに一挙に出店がなされるということは、熾烈な競争が始まることを意味するからである。

もし熱海の観光地としての魅力を高める施策がないのであれば、結果は既存店舗と駅ビルとの共倒れになる。さしあたり既存店舗が勝っても、駅ビルのテナントが勝っても、結末は熱海の衰退である。ネット上では駅舎のデザインの良し悪しばかりが取り上げられているが、問題はもっと深いところにある。

熱海に観光客が来る理由は、いうまでもなく熱海を観光するためである。しかるに今回、駅ビルは出来上がったものの、観光名所や新たな魅力は増えていない。駅ビルはあくまでも駅ビルである。これを目当てに新規顧客が開拓されるということはない。

PR効果のおかげで、数年のうちは目新しさを求めて観光客は増えるかもしれない。しかしPRとは、内実を表すことである。中身の質と量が変わらないのであれば、効果は一過性のものとなる。

旧ラスカは、23店舗で運営されていた。古い店舗で運営されていたから、ある意味で駅外の店舗とバランスが取れていたと感じる。これが真新しくて都会的な装いになり、また36店舗に増えた。

全36店舗のリストはすでに明らかである。36店舗中、実に15の店舗がお土産屋である。5店舗が食事処。カフェ・甘味処が3店舗。残りはコンビニや旅行関係、100均などが並ぶ。ようするに、多くは熱海のまちに出れば手にすることのできるものが出店されている、ということである。これは共食いの構図である。

駅ビルが勝つ場合が、最も悲惨な結末を生む。駅を一歩出れば、シャッター街が待ちうけることになるからである。観光地はひとまとまりで観光地であり、個々の店舗が繁盛すればよいというものではない。観光地に来たときのワクワク感がなくなれば、その観光地に行く人はいなくなる。人がいなくなれば、もっとまちは寂れる。

駅ビルが負けても事態は悪化する。空きテナントが多くなったからといって、駅ビルを建て直すことはできない。そうすると無理にテナントを埋めようとして(多くは商売っ気のない行政がそれをやる)、魅力のない駅ビルができ上がる。

駅ビルには多くの地元企業が出店している。駅ビルが負けるということは、彼らの体力を削ぐということである。しかし地元企業は悪くない。駅ビルを建ててしまったならば、そこにテナントを出すしかない。そうでなければ、よその企業に市場を奪われるだけである。駅ビルがなければ、彼らは出店する必要などなかったのである。

観光客が減れば、駅は利用されない。駅ビルの利用客は減っていく。JRにとってもよくない結果が待っているだけである。ようするにJRは、今回のことで自らの首を締めた。まちの魅力を上げ、必死になって観光客を呼び込まなければ、熱海は終わりを迎える。

まずもって、JRはテナント戦略を変えなければならない。パイの奪い合いではなく、ともにまちの魅力を高める方法を模索しなければならない。共存の道を探り、まち全体を盛り上げる方法を考えなければならない。

単純に駅ビルをショッピングセンターにするというのでは、まちの魅力は高まらない。いまの熱海にないものを見出し、テナントとして埋めていくべきである。そうすれば、既存店舗と駅ビルとの相乗効果によって、熱海に人は来るようになる。

ここで必要な観点は、まち全体を面で捉え、人の動線を描くことである。よそ者である筆者の与太話を言えば、レジャー施設化はどうだろう。駅ビルで温泉地らしいレジャーを楽しむ。腹が減ったらまちに繰り出す。夜は旅館に宿泊し、帰りはまちのお土産屋で買い物をする。そういう人の流れ、ストーリーが生まれることになる。

突拍子もないことを言っていることは理解している。しかし、すでに大きな駅ビルを建ててしまったのだ。どうにか活用し、まちの魅力を高めるしかない。熱海をよく知っている地元民、地元企業に、その方法を考えてほしい。よそ者は地域の担い手では絶対にない。まちを維持・発展させるのは、そのまちの人たちにほかならない。

JR東日本は、街歩きツアー「駅からハイキング」を実施するという。期間は一ヶ月。そのようなもので、本当に熱海をもり立てることができるだろうか。さいはすでに投げられた。まちとJR、総力を結集して、ことに当たってほしい。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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