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企業はIR、PRのほかにARにも尽力を アナリストの評価は株価と収益を左右する

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(ペイレスイメージズ/アフロ)

企業が投資家に向けて経営や財務の状況、業界に関わる情報を伝えることを、IRと呼ぶ。また、一般の消費者に対して行われる活動は、PRと呼ばれる。

我が国ではあまり重視されていないし、そもそも知らない人も多いようだが、企業にはもう一つの情報提供機能がある。AR、アナリストリレーションズである。

ARとは何か

アナリストは信頼できる情報をもとに、レポートを発信し、また顧客にアドバイスをする。したがって、アナリストの所属するリサーチファームに情報を提供することで、アナリストは自社の事業や商品についての詳細な情報を、顧客に伝えようとする。ようするにアナリスト自身が、こう言ってよければ、自社をプロモーションしてくれるのである。そのために行うのが、ARである。

その効力たるや相当なものである。例えば、筆者が所属していたITに関する世界最大級のリサーチファーム「ガートナー」のレポートは、破壊的な影響力を持つ。実際に、IBMはガートナーのレポートにおいて高い評価を得たことで、株価を2.80%も上昇させたことがある。こういうことを理解しているから、IBMのARチームはかなりの数で編成されているし、またきわめて優秀である。

我が国の企業は、IR、PRのほかに、ARにも力を入れなければならない。自社の評価を決めるのは、株主、消費者とともに、社会的な地位のある専門家である。

何を伝えるべきか

ARで伝えるべきことは、事業や商品の特性・特徴だけではない。まずもって重要なのは、ビジョン、展望、先見性である。

なぜか。先読みが出来ていなければ、そこに向けた活動を行うことはできない。戦略を練ることができないのである。いまはビジネスが順調でも、将来においてもそうであるとは限らない。アナリストは言動に責任を持たなければならない。先行き不安な会社を、手放しに称賛することはできない。

また商品は、一定の期間使われるために採用される。採用する側は、今後もその商品が価値を持ち続けるかが不安である。ゆえにアナリストは、顧客からの質問に答えるために、企業の展望や戦略が適切かどうかを評価する。商品開発の方向性が適正であるかどうかを判断する。そして良し悪しを、実際に顧客に伝えるのである。

そうであるからARは、第一にトップマネジメントが行うべきである。トップマネジメントが、自身の見定める業界の将来像、自社の進もうとしている道、強い思いを、アナリストに直接伝える。そのための戦略を、彼らに理解させる。何のための事業なのか。自社の商品はいかなる意味をもつものなのか。それらのことについてトップマネジメントは、アナリストの理解を得られるよう努めなければならない。

ゆえにトップマネジメントは、自らと、自らの周辺を取り巻く環境について、よく知っていなければならない。深い知識を身につけ、思考し、見識を磨かなければならない。業界、自社の事業について、専門家であるアナリストとやりあい、彼らの見方を変えることができるくらい、熱心に学ばなければならないのである。

最後に、相手がいかなる人なのか、何を考えているのかを知らなければ、その人に何かを伝えることはできない。ソクラテスの言うように「大工には大工の言葉を使わなければならない」。したがってトップマネジメントは、アナリストの執筆したレポートを読み込んでいなければならない。彼らの使う言葉を知り、視野や考えを理解しなければならない。そうでなければ、アナリストとの対話は行き違いになってしまう。最悪、評価が下がってしまい、競合他社に負けてしまうことになる。

目的、ビジョンがあって、戦略がある。単にいまやっていることを伝えても、それが将来においてもなお健全であり続けるかどうかは分からない。結局のところ、経営においてつねに重要なのは、目的とビジョン、成し遂げることは何かに目を向け、そのために事業を展開しているのだと意識することなのである。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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