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行政に文句を言って公務員の仕事を増やす前に、クレーマーを責めよ

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(ペイレスイメージズ/アフロ)

1月8日付の読売オンラインに「「うるさい」と保育施設に苦情、自治体の75%」と題する記事が掲載された。

保育園の子供たちが出す音や声についての苦情を受けた自治体は、全国主要146自治体のうち109自治体、全体のおよそ75%にも及ぶのだという。また、苦情が原因で保育施設の開園を中止・延期したケースは、16件にもなる。

これで明らかになったと思う。保育園が作られないのは「自治体の住民への説明不足が原因」とする意見もあるが、そうではない。私利私欲しか考えていない住民、公のこと、若者のことなどどうでもいいと思っている住民がいるから、保育園は作ることができなかったのである。そういう人たちは、自分の権利を脅かすものがあれば、なんだかんだイチャモンをつけてこれに抵抗する。自治体はクレームが寄せられたら対応せざるを得ない。それが仕事だからである。

保育園を作れない原因を我が国の行政のせいにし、「日本死ね」などと言っている人たちは、怒りの矛先を間違えている。敵はクレーマーである。隣人の、あの人である。保育園を増やしたければ、彼らをこそ、黙らせるべきなのである。

公務員の仕事が増え、財政が圧迫する

自治体にクレームが入れられると、自治体職員は何らかの対応策を考えなければならなくなる。あるいは直接的にクレームが入れられなくても、そういった空気が蔓延している昨今においては、あらかじめ何らかの策を考えておかなければならなくなる。

そうすると、職員の仕事は増える。残業が増える。人の数を増やさなければならなくなるかもしれない。つまり、人件費が増えるということである。職員の数が減ってきていることもあり、自治体の経費における人件費の割合は年々減少傾向にある。この流れを止めてはならない。

ようするに、支離滅裂なのである。少なからぬ国民が、一方では公務員の給料を減らせと言い、他方では問題が生じたときの責任は行政にあると言う。もっといえば、問題は公務員の給料が高いか低いかではなく、財政が圧迫していることであるから、給料を減らすかどうかは関係ない。公務員の給料を20%下げて優秀な職員が来なくなることを目指すよりも、無駄な仕事を30%削減して公務員の数を減らすことを目指したほうが、はるかによい。そうであるから、職員のやらなくていい仕事を増やし、本当に大切な仕事に手が回らなくさせている人たちこそ、非難されるべきなのである。

クレーマーは行政に文句を言っているのと同時に、われわれの家計をも圧迫しようとしている。これ以上税金を増やさないためにも、クレーマーを見つけたら、住民自身が対処しなければならない。

自治の精神を取り戻す

お役所の事なかれ主義 そもそも期待をするからいけない」の中ですでに述べたが、重要なのは行政に期待しないことである。

怒りは期待することによって生じる。期待を裏切られるからこそ、憤る。腹に据えかねて、声を発する。そうすると、行政の仕事が増える。そうではなく、公の諸問題は自分たちの手で解決しようと考えることである。彼らに仕事をさせないことである。彼らに余計な仕事をさせようという人を、たしなめるべきである。

それから、保育園は需要に対して供給が少ないのだから、ビジネスにもなる。横浜市などは民間企業が参入したおかげで、待機児童問題はほとんど解消されているという。保育園の問題については行政が種類ごとに色々とルールを決めていて、設立するのは大変だ。しかし、もしそこに余計な規制があると思うならば、断固として戦うべきである。それはクレームではなく、社会改善である。それは私憤によるものではなく、公憤によるものである。そういった姿勢が、自治の精神を育む。

すでに行政は動き出している。言ってはなんだが、行政はこの問題に対して結構本気である。頑張って保育園を増やしているし、保育士不足の解消にも対策を講じた。あとは待遇の問題だ。対策の内容のよし悪しについては言うべきこともあるのかもしれないが、いずれにせよ解決のために動いていることを忘れてはならない。

最後に、そうはいってもうるさいと思う人はいるのだろう。「最近の子供はしつけがなっていないのが多く、ギャーギャーとうるさい」という意見もわかる。近隣に住む人も大変だろう。したがって、税金で防音対策をしようではないか。こういったことに使う税金には、誰も文句を言わないはずである。また、あまりにうるさい子供は保育園から追い出す方針にしたらいい。そうしたら親も、子供のしつけに真剣に取り組むだろう。保育園の問題によって、子供の育て方を考えるきっかけにもなればと思う。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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