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毎日「おかえり」を言ってもらえる未来を想像してほしい 孤独をなくそう

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:ロイター/アフロ)

1月8日、4日間開催されたCES 2017が終了した。CESは米国ネバダ州のラスベガスにて毎年開催される、エレクトロニクス分野における世界最大の見本市である。

CESでネット検索すると、様々なニュースが出てくる。これらを眺めるだけでも、テクノロジーの行く先が想像できて、面白い。できれば行ってみて、触れてみたかったところだが、さすがにベガスまでは行けなかった。

その中に「CESにたくさん出ている退屈なテレビ、しかしSonyの新型Braviaだけはおもしろい」というニュースがあった。SonyのBraviaのデザインがクールだ、というニュースである。

CESに関する様々なニュースのなかでは、比較的面白味のないニュースではある。しかし、記事の最後に、Acoustic Surfaceと呼ばれる新たな技術が取り上げられていた。これは、スクリーンそのものから音が出るという技術である。

ここで筆者は、「環境と環境」、「場と場」をつなぐIoTが少し先に進んだかな、と感じた。例えば、単身赴任のビジネスマンは想像して欲しい。毎日家族から、直接「おかえり」と言ってもらえる未来を。この技術は、より臨場感をもってそれを実現することのできる技術である。

CESを契機にテクノロジーの可能性を考えたければ、製品そのものを視るのではなく、製品の機能と、そしてその社会的価値を視ることが重要である。製品は、ただその技術が使われている媒体にすぎない。一つの表現物にすぎない。

技術マネジメントの分野には、MFTフレームワークというものがある。Market、Function、Technologyの頭文字を合わせたもので、テクノロジーと市場の間にあるファンクション(機能、役割)に着目することで、技術を活用できる市場を広く検討するためのフレームワークである。

テクノロジーとマーケットを直接結びつけようとすると、そのマーケットでしかアプローチができなくなる。つまり「これはテレビの技術だ」と考えてしまうと、発想がそこで終わってしまうのである。そうするとビジネスの機会もまた、小さなものと考えられてしまうことになる。

しかし、間にファンクションを入れることで、様々な市場に目を向けることができるようになる。テクノロジーから生み出されるであろう社会的な機能、役割を考えることで、いかなる市場、いかなる場面において活用できるかを想像することができる。例えば「すこぶる画質がきれいだ」という利点をもつ技術があるとする。ではその利点は、社会的にいかなる意義があるのだろうか。誰が幸せになるのだろうか。これを考えることが、機能、役割を考えるということである。そうすると、新たなビジネス機会を創出することができるようになる。

また、このフレームワークは、テクノロジーの有用性を冷静に考えることにも貢献する。とかく新たな技術は、それが画期的だとか、斬新であるといった理由でもてはやされる傾向がある。しかし、すでに満たされている機能、置き換えてもメリットがなさそうな機能には、その技術を応用しても仕方ない。その画期的な技術は、いかなる場面であれば最も効力を発揮するのか。それを考えることでテクノロジーを、活用する目的と結びつけることができる。

さて、記事にあるAcoustic Surfaceは、製品に目を向けてみると、スピーカーを別に取り付ける必要がない、という利点がある。画期的だ。デザインもクールである。しかし、それが求められるかといえば、そのシーンはさほど見当たらない。

では、画面から音が出るということには、いかなる役割が与えられるのか。そのメリットは臨場感である。すでに映画館では、スクリーンから音が出る。スピーカーが映像から離れていると、違うところから音が出ていることが感覚的にわかってしまい、違和感が生じる。その違いを意識させないために、画面から音が出るというわけだ。では、テレビのサイズで、そのような臨場感が得られる場面には、どういったものがあるだろうか。これを考えることで、テクノロジーは活かすことができるようになる。

色々考えてみた。面白かった。テクノロジーの可能性は楽しんで考えるとよい。その中で筆者は、わかりやすい例として、単身赴任のビジネスマンという顧客を取り上げてみたい。彼らに提供できる臨場感、あわせてその価値は「いつでも家族と一緒にいるというリアルタイム性」である。この世の中から孤独をなくそうではないか。

4Kテレビの大きな画面と、高精細のカメラを家の中に設置しよう。帰宅して、家の電気が着くと同時に、カメラのスイッチが入る。そうすると、奥さんや子供たちから、「おかえり」という声が返ってくる。目の前にいる家族が、直接話してくるのだ。幸せな毎日じゃないか。

考えることは、こんな簡単なことでよいのである。この世の中には、寂しさを覚えていたり、悲しんでいたり、不満を持っていたりする人がたくさんいる。彼らを幸せにするには、どうしたらいいのだろう。それにはいかなる道具を使えばいいのだろう。そのように考えることが、イノベーションの源泉となる。

だからイノベーションを生み出したければ、イノベーションを生み出そうなどと考えてはならない。そうではなく、小さな幸せを生み出そうと考えるのである。幸せを積み重ねることで、大きな幸せになる。そうすれば結果として、大きな社会変化が生まれることになる。

IoTは手段にすぎない。しかし、それが実現するのは、新しい世の中である。これから技術が発展していく。様々なものが生み出される。それらを組み合わせることで、新たな幸せを創出できるようになる。最初に考えるべきことは、誰を、どのように幸せにしたいのかである。新しい幸せのビジョンを考えるのである。

可能性は無限に広がる。それを見出すのは、私たち「人」である。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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