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突然の死は血管が原因~阿藤快さんの死から考える

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
私の父の死亡診断書。心筋梗塞による急死だった。解剖していただき確認した。

突然死のショック

人気俳優の阿藤快さん(69)が亡くなった。親族の方が自宅で亡くなっている阿藤さんを発見したという。

死因は大動脈破裂で、14日ごろに死亡したとみられる。

出典:阿部寛さん「下町ロケットの皆ショック」 阿藤さん急死

誰にもみとられることなく亡くなった阿藤さんのご冥福を心よりお祈りする。直前までドラマに出演するなどお元気だったので、ご遺族、ファンにとってはショックが大きいだろう。

実は私の実の父も、死んでいるところを発見された。第一発見者は母で、朝10時になっても起きてこないので部屋を見に行ったら、すでに冷たくなっていた。解剖していただいたところ、心臓を栄養する血管(冠動脈)が詰まって、急性心筋梗塞を起こして死んだことが分かった(写真参照)。寝ている間に発生したという。

死の前日まで普通に暮らしていたから、こういう突然の死は、病死、不慮の死といった原因に関わらず、遺族にとってはつらい。まだ病死は誰のせいでもない、と思えるので、テロや事故などの死ほどではないが、それでも、かなり動揺する。普段から「太く短く生きる」と公言していた本人にとっては、「ピンピンコロリ」の死であり、本望なのかもしれないが…

今年の9月には、プロ野球阪神タイガースの中村勝広ジェネラルマネージャー(GM)(享年66歳)が、同じく急性心筋梗塞で急死された。

23日正午前に球団関係者との待ち合わせ時間に現れなかったため、ホテル従業員らが客室に入ったところ、ベッドで倒れている中村GMを発見した。通報を受けた救急隊が到着したときには心肺停止状態で、全身が硬直していたという。

出典:急死の中村勝広・阪神GM、死因は急性心不全 ホテル従業員が客室に入ったときにはすでに…

今日お会いしたある方も、友人がくも膜下出血で突然亡くなったので動揺し、深い悲しみを抱かれていた。その方も言われていたが、がんのように亡くなるまでの時間が分かっていたほうが、親しい友人や遺族にとっては心の整理ができやすいのかもしれない。

突然死は血管が原因

このような突然死=急死の多くは、血管が原因だ。

私の父やタイガースの中村GMは急性心筋梗塞。心臓を栄養する太い血管が詰まってしまうことにより、心臓の筋肉に血液が届かなくなり、酸素不足、栄養不足で心臓の筋肉が死んでしまう。このため心臓が動かなくなり、死んでしまう。

阿藤さんの場合は大動脈破裂だ。大動脈瘤が以前からあったか、解離性大動脈瘤(急性大動脈解離)が起こったことが原因だろう。

大動脈瘤は動脈硬化などにより、大動脈が次第に大きくなっていくことにより起こる。解離性大動脈瘤は、主に動脈硬化が進むことにより、大動脈の壁が弱くなり、大動脈の壁が裂けてしまうことにより起こる。避けた部分に血液が流れ込む。

これらの原因により弱くなった大動脈の壁が、血液の圧力に耐えかね、破れると、大動脈から大出血を起こし、死亡する。

くも膜下出血は、脳の動脈にできた「こぶ」(動脈瘤)が突然破れることによって起こる。

突然死に「予兆」はあるか?

こうした死は突然訪れる。果たして防ぐことができるのだろうか。

実は突然死の前に「予兆」があることがある。

急性心筋梗塞が起こる前には、階段の上り下りなど、運動をしたときに、胸が締め付けられるような痛みが数分から10分程度生じる「狭心症」が起こっていることが多い。私の父は狭心症があり、胸が痛くなった時に血管を広げる薬(ニトログリセリン)を服用していた。

大動脈瘤の場合、大動脈が徐々に大きくなり、周囲の臓器を押すことで何らかの症状が出ることがある。

阿藤さんは背中を痛がっていたという。

最近は疲れ気味で背中を痛がり、湿布を貼ったりしていた。ただ8日、映画の舞台あいさつで訪れた福岡で受けた「気を当てるマッサージ」が効いたようで、翌9日の都内仕事先でマネジャーに「元気になった」と話していたという。

出典:阿藤快さんのマネジャー無念「病院に行くよう勧めたが…」

この背中の痛みが、大動脈瘤による影響だった可能性もある。

しかし、こうした予兆がないこともある。解離性大動脈瘤は予兆のないまま突然発生することがある。また、脳動脈瘤があることに気が付けない場合も多い。

血管の健康を

突然死を防ぐためには、結局日ごろ血管が健康になる生活をするしかない。つまり、生活習慣、つまり食生活に注意し、たばこはやめ、運動をするなど、「メタボリック症候群」を防ぐ生活を送るしかない。ここでは詳しくは延べないが(詳細はこちらなど参照)、血管が健康な人は長生きするというのが、私たち病理医の実感なのだ。

また、予兆があった場合は、なるべく早く医療機関を受診することをお勧めする。予兆がないことも多いので、定期的な健康診断も重要だ。人工血管を移植するなど、重大な事態が発生する前に打てる手はある。

結局、上で述べたことはどれも常識的なことばかりで、なんだ、そんなことか、と思われたことと思う。しかし、「こうすれば健康だ!」などという安易な方法などない。もしそんなものがあれば疑ってかかるべきだ。

血管がおかしくなるまでに、長い時間がかかる。長い長い生活習慣の蓄積の先に突然死がある。遠い未来のために今行動できる人は多くない。常識的なことを行うことは簡単ではないのだ。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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