Yahoo!ニュース

小保方氏がホームページで伝えたかったこととは?

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
全文英語のホームページに込められた意図とは?(写真:アフロ)

突如公表、すぐさまダウン

小保方晴子氏がホームページを突然公表した。その名も「STAP HOPE PAGE」。

全文英語のそのページの公表に、世間は騒然となった。いったい本物なのか。何の意図があるのか。

アクセスが殺到したためか、一時的に閲覧ができなくなったが、4月2日朝の時点では閲覧可能だ。

大学研究室のページのよう

ホームページの作りは、大学の研究室のホームページのようだ。トップページには挨拶が書かれている。まずは謝罪からだ。

First of all, I would like to express my deep remorse and heartfelt apology over the STAP papers which were published in Nature in 2014. I feel a strong sense of responsibility for the STAP papers, and, as a scientist, I am ashamed of my careless mistakes.

(まずはじめに、2014年にNatureに発表された論文に関して、深い良心の呵責と、心からの謝罪を表明したい。科学者として、不注意による誤りを恥じている)。

出典:STAP HOPE PAGE

研究不正と言わず、不注意であると言っているところは、著書「あの日」と同じだ。その点は納得いかない。

ホームページ公表の目的は…

My goal in starting this webpage is to provide the information to the scientific community that may allow for solid proof of the production of STAP cells to be achieved. Therefore, I am openly providing my protocols for creating STAP cells, in the hopes that another scientist will be able to bring them to reality.

(このホームページを立ち上げた目的は、科学コミュニティがSTAP細胞作製を証明するための情報を提供するためだ。それゆえ、STAP細胞作製のプロトコルを公表する。ほかの科学者がSTAP細胞を作製することを願っている。)

出典:STAP HOPE PAGE

このページは科学コミュニティに向けたものであることを明言している。小保方氏自ら、このページは「あの日」を読んで「小保方さん信じます」という人たち向けではないことを言っていることになる。

ホームページには、研究のバックグラウンド、STAP細胞作製のプロトコル、再現実験の結果などが掲載されている。今後徐々にページを充実化していくという。

プロトコルでSTAP細胞が作れるか?

公表されたプロトコルでSTAP細胞は作製できるのだろうか。

ページをみると、使った試薬のメーカー名も含めて手順が書かれている。これはよく見る生命科学実験のプロトコルの形式を踏襲している。この通りにやってみることはできるだろう。とはいえ、書かれた通りやってできるかは、やってみないと分からない。これに限らず、プロトコルというものはたいていおおざっぱなので、細部が重要な場合がある。そういう場合は、著者に問い合わせたりするが、連絡先が書かれていないので、どうしたものか…トラックバックも送れないようだ。問い合わせ先を掲載したら、いやがらせが殺到する可能性があるので、仕方ないとはいえるが…

「この量ではATPは溶けない」といった指摘がなされたりしているが、オープンに議論するのはよいことだ。

ともあれ、あれだけ追試実験が行われて、誰も成功していないので、やってみようという研究者は簡単には現れないだろう。研究には時間とお金と人手が必要だからだ。そもそも論文でもないホームページに従って研究をやるというのは、かなりリスキーなことなのだ。失った信用は簡単には取り戻せない。

もう放っておこう

著書「あの日」で、小保方さん信じます、という人が多数出ている。表現の自由だから、本の出版やこうした感想を持つことをとやかくいうつもりはない。ただ、STAP細胞ありなしは、信仰では解決しない。

科学コミュニティで研究成果を認められるということは、簡単なことではない。信じる、信じない、墓場まで持っていくなどは意味がない。根拠を持って証明するしかない。そして今のところ、それはできていない。

小保方さん自身それを分かっているから、こうしたページを公表したわけだ。

だから、もう科学コミュニティ以外の人は、あれこれ言わず放っておくほうがよいのではないか。もちろん研究不正に関する部分には厳しく対処する必要があるが、研究の知識がたいしてないのに、陰謀論を唱えたり、どこぞの研究者がSTAP細胞を証明したとかなんとかいうのは、まったく意味がないし、小保方さんを応援することにすらならない。

本当に小保方さんを支持しているのなら、一般向けの記事であれこれ言ったりするのではなく、クラウドファンディングでもなんでもいいから、お金を集めて、このホームページに従って研究をやってくれる研究者を探したらどうだろうか。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

榎木英介の最近の記事