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小保方さん、今度は正直にいきましょう

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
ホームページを見た人が惑わされないように、正しいデータを示してほしい(写真:アフロ)

放っておけといったが…

前回の記事で、私は一般の人は小保方晴子さんが開設したホームページのことは放っておけと書いた。

だから、あまり触れたくないのだが、ここにきて、ホームページに掲載されている画像に加工があるのではないかという指摘が出てきた。

個人のホームページの画像なので、あくまで「イメージ画像」だとは思っているが、その画像が悪用されてはいけないと思い、あえて触れたいと思う。問い合わせ先も書いていないので。

では、その加工疑惑とは何か…説明しよう。

検証実験にないグラフ

STAP HOPE PAGEには、理研で行われたSTAP細胞の検証実験の結果が掲載されている

その中の棒グラフの図が、理研が公開している資料(STAP現象の検証結果について)とは異なっている。また、丹羽仁史博士が著者の検証実験の論文(プレプリント)にも同じ図はない。

この図は、マウスの脾臓にATPで処理をしたときに出現した細胞塊が、ES細胞、桑実胚で発現するOct3/4やnanogといった遺伝子が発現してくるのか、というのを定量PCR法で見ているグラフだ。小保方氏のホームページでは、この細胞塊がOct3/4やnanogなどを、ES細胞と同じ程度発現していることを示している。

これだけみると、「小保方さんいうところのSTAP細胞はあるのではないか?」と思えてしまう。

しかし、検証実験や丹羽博士の論文に示されている図では、これらの遺伝子の発現はES細胞に満たない。

検証実験では、マウスの肝臓にATP処理したときに出現した細胞塊は、Oct3/4やnanogを発現し、これらが作るたんぱく質も検出されている。しかし、検証実験にないデータであることは間違いない。ホームページに掲載されているデータの出所を明らかにすべきだと思う。

図に加工?

もう一つの疑義は、プロトコールのページの下のほうにある「Typical Result」と書かれた蛍光顕微鏡のデータだ。このデータを画像解析ソフトにかけると、加工の跡がみつかるという。

あくまでイメージ画像だと思うので、ここでは画像加工の疑いがあるとの指摘だけにさせていただくが、たとえこのデータが本当だとしても、たった一例の「チャンピオンデータ」だけでは意味ある結果とすることはできない。

緑色蛍光陽性細胞の出現が十分には得られなかった状況下において、再現性をもって自家蛍光と区別し、多能性細胞特異的分子マーカーの発現と対応づけることは出来なかった。

出典:STAP現象の検証結果について p11

とされている事実は大きい。

正直に、そして柔軟に

自分の立てた仮説にはこだわりがあるし、なんとか証明したいという気持ちは誰にもある。最後までその仮説に固執したくなるのも分かる。このような状況になっていたらなおさらだ。

けれど、仮説が証明できないときに、すっぱりと仮説を捨てられるのも、科学者としての姿勢の一つだ。

ぜひ小保方さんには、勇気をもって、理研の検証実験のデータのホームページや、昨年(2015年)にNatureに掲載された再現実験の論文など、自分の仮説に不利なデータも示しながら議論してほしい。

でないと、科学リテラシーの乏しい人たちが、「実はSTAP細胞は再現できていた」「陰謀だ」と騒ぐからだ。「STAP細胞詐欺」に使われるかもしれない。

そして、繰り返しになるが、やはり、「生命科学の研究の基礎的な知識がない人が研究内容にまで踏み込む」ことには反対する。せめてMolecular Biology of the Cell(細胞の分子生物学)か、Essential cell biology(Essential細胞生物学)を読んでから語ってほしい。

こういうことを言うと、私が普段科学技術の市民参加を訴えていることと矛盾するではないか、と言われそうだが、科学技術を社会や政治の文脈も含め考えることと、研究の内容にまで不確かな知識であれこれ言うことは明確に区別すべきだと思う。

私はさんざんSTAP細胞事件に厳しい言葉を向けてきたが、これはあくまでこの事件を生み出した構造に対してだ。小保方さんへの不当なバッシングには心を痛めてきたし、小保方さんの人生の再出発を応援している(研究者以外の)。だからこそ、これからは誠実かつ柔軟な姿勢で生きていってほしいと思っている。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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