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参院選公示~各党の科学技術政策は?

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
参院選、各党の科学技術政策に関する公約を比較する(写真:アフロ)

参院選公示

参院選が公示され、選挙戦がスタートした。

18歳以上に選挙権が拡大されたことをはじめ、野党統一候補など、様々な話題がある参院選だが、私と仲間たち(サイエンス・サポート・アソシエーション)は、今年も科学技術政策に特化して選挙を見ていきたい。

私たちは2003年から、各党の公約を比較検討しており、2010年からは各党にアンケート(公開質問状)を送っている。

前回衆院選(総選挙)の際の各党の政策比較はこちら

アンケート回答はこちら

今年はサイエンストークスさんと共同で、アンケート調査を作製し、各党に送付した。回答があり次第ご紹介する。

まずは各党の科学技術政策に関する公約をみてみたい。

#科学技術政策には、環境、医療、原子力、教育といった分野も含まれるが、個別の課題は基本的に除いて、主に基礎科学、純粋科学を中心とする領域や、研究者の人材育成に絞りたい。とはいえ、課題が複数あり、混ざり合う場合もあるので、大まかな原則とする。

科学技術政策に関する記載はあるか

各党の公約リストは以下。

  • 与党

★自民党

自民党政策 2016

政策パンフレット2016(PDF)

総合政策集2016J-ファイル(PDF)

★公明党

参院選 重点政策(PDF)

  • 野党

★民進党

「民進党の重点政策:国民との約束」を発表

民進党政策集2016

★日本共産党

2016参議院選挙政策

36、大学改革・科学・技術――大学法人制度、高等教育無償化、総合的振興計画

力あわせ、未来ひらく ――日本共産党 参議院議員選挙政策

★おおさか維新の会

おおさか維新の会 2016 政策資料(PDF)

★社民党

参院選選挙公約2016

参議院選挙公約2016 総合版

★生活の党と山本太郎となかまたち

第24回参議院議員通常選挙 重点政策(PDF)(※報道用資料)

★日本のこころを大切にする党

政策実例を発表しました

★緑の党

【参院選パンフレット】「私たちの望む未来 THE FUTURE WE WANT」(PDF)

まず大前提として、公約で科学技術政策に触れているかいないかをみたい。

触れている党

自民党、公明党、民進党、共産党

その他の党は原子力、エネルギー、環境、医療等には触れているが、科学技術政策には記載がない。これらの党の科学技術政策に対する考えは、先に触れたアンケート調査で知ることができればと思う。

ということで、4党の政策比較を行う。

科学技術政策のあり方~トップダウンかボトムアップか?

まずみてみたいのが、科学技術政策をどう作っていくかということだ。「司令塔」を作って作っていくトップダウンの方法、現場の意見を集約して決めていくボトムアップの方法がある。たいていの場合、トップダウンとボトムアップがミックスされており、どちらの要素が強いか、というのが、比較ポイントとなる。

では比較してみよう。

トップダウンの要素が強い→自民党、公明党、民進党

ボトムアップの要素が強い→共産党

各党の記載を見てみる。

自民党は、第5期科学技術基本計画に沿って、総合科学技術・イノベーション会議の司令塔機能を強化する、「官邸の科学技術イノベーションに関する政治決定と科学的助言の機能強化を図る」「一段高い立場から科学技術政策を俯瞰し、イノベーションに関わる司令塔間の連携強化により、各省庁の縦割り排除をさらに進め」るとしている(総合政策集P10)。

公明党、民進党の公約には、総合科学技術・イノベーション会議に関する記載などがなく、判断が難しいが、公明党は「重点分野の研究開発を官民を挙げて推進」と記載していることから、トップダウンの要素が強いと考える。

一方、民進党は「命・暮らしを守るイノベーションを支援」(重点政策)と記載しており、推進という言葉よりは弱いので、トップダウンとボトムアップの中間(トップダウンより)と考える。

共産党は、特定の大学に資金が集中していることを批判し、「国が各大学の改革を誘導する資金を廃止し、独立した配分機関を確立する」「科学研究費補助金を大幅に増額」すると述べる。ボトムアップの要素が強いと考える。

若手研究者をどうするか?

次にみてみたいのが、若手研究者育成に関する記載だ。

自民党は「優秀な若手研究者の育成・確保、研究マネジメント人材等の多様な科学技術イノベーション人材の育成・確保、即戦力社会人や企業マインドを持つ人材の育成、女性研究者の活躍促進に向けた支援の拡充、さらには次世代を担う人材の育成等を進めます」「海外に出る研究者への支援や、優れた外国人研究者の受け入れを一層促進します」(総合政策集P11)と述べる。また、若手研究者の活躍促進(総合政策集391、P93)にもふれ、「若手研究者の安定的なポストを大幅に増やす」「キャリアパスを多様化する」と述べる。

公明党は「若手や女性の研究者等が大学や研究機関、企業等で活躍できる環境を整えることで、「人材立国(一億総活躍社会)」に貢献します」と記載する。

民進党は「我が国が強みを持つ学問分野を結集したリーディング大学院の拡充を図り、成長分野などで世界を牽引するリーダーとなる博士人材を国際ネットワークの中で養成」(政策集成長戦略・経済政策)「大学などの理系カリキュラム改善やインターンシップを産学官連携で推進し、またテニュアトラック制(任期付き研究者が審査を経て専任となる制度)の普及などにより優秀な若手研究者を支援します」「研究者が研究に専念できる環境を整備するため、補助員の配置などに対する支援を検討します」「女性研究者が能力を最大限発揮できるようにするため、研究環境の整備を行います」と述べる(政策集科学技術)。

また、民進党は女性研究者の支援に関する記載が多く、「社会問題化している教育・研究現場でのアカデミックハラスメント及びセクシュアルハラスメント対策を推進し、意識、慣行の見直しを促進します」「研究活動と子育ての両立を実現するため、妊娠・出産・育児支援体制の整備を確実に進めます」と踏み込んだ記載をしている(政策集内閣(男女共同参画・子ども)

一方共産党は「大学・研究機関の人件費支出を増やし、若手研究者の採用をひろげる」「博士が能力をいかし活躍できる多様な場を社会にひろげる」「若手研究者の待遇改善をはかる」「女性研究者の地位向上、研究条件の改善をはかります」と、雇用や待遇改善を中心の記載をしている。

人文・社会科学への取り組みは?

昨年、文系学部が廃止されるのではないかと議論が沸騰したが(拙稿「国立大学の文系見直しとは何なのか」参照)、この点を各党はどう考えているのだろうか。

自民党は総合政策集の403(P97)を「自然科学のみならず人文・社会科学の振興を」にあてている。共産党は「人文・社会科学を含む科学・技術の総合的な振興計画を確立する」と述べる。

ほかの政党には記載がない。

国立大学法人運営費交付金はどうなる?

国立大学法人に交付される運営費交付金は、大学にとっては競争的な研究費に頼らない重要な資金源だ。近年運営費交付金は削減され続けている。

運営費交付金をどうするか。記載があるのは自民党、民進党、共産党だ。

自民党は総合政策ファイル389(P92)で「国立大学法人運営費交付金の安定的な確保」について述べる。「重点支援の枠組みを新設し、評価に基づいたメリハリある配分を実施」「学長裁量経費を新設」と記載し、競争を促す。

民進党は「大学運営費交付金減額の議論については、授業料の値上げ等につながらないよう、維持増額を図ります」と述べる。

共産党も運営費交付金の増額を述べるが、自民党と異なるのが、「「3つの重点支援」や学長裁量経費枠は廃止し、各大学の標準的な経費をもとに積算し、教育・研究費や人件費などを十分に確保するしくみに変更」という点だ。

軍事国防研究は?

大学に所属する研究者が国防、軍事にかかわる研究を行うべきか、議論が起こっており、日本学術会議なども検討を進めている。この点に関して、各党はどう述べているか。

自民党の政策ファイル428(P102)は「技術的優越の確保と防衛生産・技術基盤の維持・強化」だ。「技術の多義性(デュアルユース性)も念頭に、安全保障関連技術に関して政府全体を統括する司令塔を設置するとともに、防衛省と関連府省庁・各種研究機関の連携強化や研究ファンドの大幅拡充等により、基礎研究の優れた成果や優れた民生技術の活用を促進し、自主的な先端技術・防衛備品等の研究開発を拡充・強化します」と述べる。

一方共産党は「経済効率と軍事利用の科学技術政策から、非軍事・学術発展へ調和のとれた振興策に切り替えます」と記載する。

科学技術政策は争点にならない

以上、ざっとであるが、各党の政策をみてみた。ほかにも、どの分野を重視するのかといった違いがあるので、ぜひ各党の政策をご自身の目でみていただきたい。

しかし、政策比較ができる政党が限られているのは残念だ。これは政策比較をはじめた2003年からそれほど変わっていない。「科学技術立国」をかがげる国としてはさみしい限りだ。

もちろん記載していないだけで、科学技術に関する何らかの政策はあるだろうから、アンケートで明らかにしたい。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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