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【連載】暴力の学校 倒錯の街 第27回 4章 暴力の学校 貧しい「指導」の記録

藤井誠二ノンフィクションライター

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第4章・暴力の学校 貧しい「指導」の記録

ここに陣内知美に対する「指導記録」がある。これを作成し、校長の山近博幸に報告したのは、知美の一年時の担任Nである。日付は平成六年十月二十七日。まず、「問題行動の内容」としてこういう記載がある。咎められた「非行」を知美がおこなったのは、その年の十月二十五日とある。

「放課後、新飯塚駅で一-七高田純子、美容専門学校の友だち、飯塚高校の生徒三人と話をしていた。十八時頃、N先生が喫煙していた高田とともに本人を学校へ連れて帰る。この時、本人は喫煙しておらず、タバコも所持していなかった。翌日二六日、この件を聞かれたH先生から連絡が入る。

十月十八日/中間試験最終日の二限目の自習時間、試験監督に来られたH先生が生徒が靴箱に教科書を入れているのを見つけ所持品検査をしたところ、陣内の制服の上着の内ポケットにタバコが入っているのを見つけ、本人と話し、今後真面目に生活すること、今度何かあった場合はこの件を公表すると約束をしていた」

そして「背景」として、1・性格、2・家庭状況、3・友人関係(問題行動に関わる友人関係など)に分けて次のように書く。

「性格/感情の起伏が激しいところがある。中学一年の冬頃からタバコを吸い始める。受験前から入学するまでの間は止めていたが入学後、五月頃、他の学校の友人などがタバコを吸っている姿を見て、また吸い始めるようになる。(朝や放課後に駅のトイレなどで一、二本程度)

家庭状況/父・母・兄の四人家族。父親は本人を大変かわいがっているが、怒るときは激しく、中学の頃、喫煙が見つかったときは顔が腫れるほど殴られ、母親が止めるほどだったという。兄も今年から働きはじめ、妹に洋服を買ってやるなどかわいがっているようだ。両親は高校入学後は生活が落ちつき安心していたが帰りが遅いのが気になっていたという。

友人関係/放課後新飯塚で二時間程度、友だちと話をして帰っていた。一‐七の○○○、高田や中学時から親しい、現在美容専門学校一年・○○○、またその友だちの友だちである飯高の生徒など顔見知りの友だちが増えていったようだ。この友だちらも喫煙をしていると言う」

私には、わざわざ教師が「非行」をつくっているという気がしてならない。タバコが「非行」の前触れという、古典的で手垢のついた「子ども観」にしばられ、生徒のアラ探ししかできない意識。学校の外の行動にまで口を出し、わざわざ連れ帰るとは、プライバシーの侵害であると同時に「いったいあんたは何様だ」と言いたくなる。喫煙が、他者に迷惑をかける本来的な意味での「非行」に結びつく証拠はない。ここに教師の「子ども観」がよく表れている。喫煙をする知美を含めて、その友人たちも「問題行動にかかわる友人関係」になってしまうのである。

そして「指導の経過」として、《二五日/学校に連れて帰ってから、父親を呼び、Y先生より注意していただき帰らせる。翌日、H先生から連絡を受け、本人から事情を聞く。その後、学校を続ける意志があるのか確認をし、続けるためにはタバコをやめ、学校の規則を守ること、生活態度を改めることを約束する。放課後、母親に来てもらい同内容のことを話す》とし、また「謹慎期間中の指導」として《朝八時までに登校させ、体育教官室横の部屋にて特別指導をおこなう。午前中、漢字の書き取り(原稿用紙五枚)と生徒信条を十回書かせる。午後からは掃除(体育教官室、廊下、自分の使用している部屋、階段)をさせ、その後ランニングをさせる。その後、親の迎えがあるまで午前中の課題の続きをさせる。勉強態度は良好で、漢字も一宇一字丁寧に書いている。謹慎中、様子を見に来てくれる教科の先生などと接し、今までの自分の行動を深く反省している。また他人の立場になってものを考えることができるように指導した》とある。

続きとして、「本人の変革・親の考え方の状況」「今後の指導留意点」も記してあり「今まで自分の部屋さえ掃除をしたことがなかったようだが、この謹慎中に掃除をするようになり、自分の良い面を発見できたようだ。また挨拶をするようになったりと基本的な生活態度が身についてきた。親も協力的で子どもが良くなることを望んでいる」「謹慎期間中は素直に真面目に諸活動に取り組んでいたが、クラスに戻り、集団生活になると、この状態が続くか不安は残る」と付け加えられている。

ここにあるのは教師(学校)=絶対善と生徒=絶対悪という図式だけである。校則を破ると、懲罰としてなんの関係もないランニングや掃除をさせ、それを「指導」だと思い込むという、貧しく、思い上がった精神である。百歩譲ったとしても、なぜその生徒が校則を破ったのかという視点は微塵もない。

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ノンフィクションライター

1965年愛知県生まれ。高校時代より社会運動にかかわりながら、取材者の道へ。著書に、『殺された側の論理 犯罪被害者遺族が望む「罰」と「権利」』(講談社プラスアルファ文庫)、『光市母子殺害事件』(本村洋氏、宮崎哲弥氏と共著・文庫ぎんが堂)「壁を越えていく力 」(講談社)、『少年A被害者遺族の慟哭』(小学館新書)、『体罰はなぜなくならないのか』(幻冬舎新書)、『死刑のある国ニッポン』(森達也氏との対話・河出文庫)、『沖縄アンダーグラウンド』(講談社)など著書・対談等50冊以上。愛知淑徳大学非常勤講師として「ノンフィクション論」等を語る。ラジオのパーソナリティやテレビのコメンテーターもつとめてきた。

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