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3世代同居は有効な少子化対策となるのか

藤村美里TVディレクター、ライター
(写真:アフロ)

国土交通大臣が就任インタビューで触れた『3世代同居推進』について、SNSで大きな話題となっている。

そのほとんどが「3世代同居は少子化対策にはならない」という否定的なものだが、そもそも一体どんな話なのだろうか。

石井国土交通大臣は、9日、就任にあたって行われた報道各社とのインタビューで、「安倍総理大臣からは、希望出生率1.8の実現を目指し大家族で支え合うことを支援するため祖父母・親・子どもの3世代が同居したり近くに住んだりすることを促進するような住宅政策を検討・実施するよう指示があった」と述べました。

そのうえで、石井大臣は、「具体的な検討はこれからだが、今年度末までに行う住宅政策の基本計画の見直し作業の中で課題を検討していきたい。早期に実施が可能なものは着手したい」と述べ、具体的な取り組みの実現を急ぐ考えを示しました。

出典:NHKニュース

2人目以降を迷う理由は、他にある

ワーキングマザーへのインタビューを続ける中で、実両親や義両親に助けてもらっている方が多いということは実感している。私自身も、実家の近くに引っ越した経験があるし、近居・同居している共働き家庭は少なくない。

国土交通省所管の「UR・都市再生機構」が管理する賃貸住宅では、2世帯が近くに住んだ場合には家賃を割り引くという制度を導入している。今後、3世代同居住宅などの助成制度ができた場合、活用する人たちも一定数はいると思われる。

だが、果たしてこれは有効な少子化対策となるのだろうか。

育児と仕事を両立している子育て世代において、同居や近居している家庭の出生率が飛び抜けて高いということではない。

2人目以降を迷っている理由についてアンケートをとると、上位に来るのは、保育園の待機児童問題、職場での労働環境、そして金銭的な問題だ。共働き家庭や高齢出産が増えたことに加えて、ベビーカーのトラブルなど、育てにくい社会の雰囲気も間接的な要因だろう。

現在でも、通勤圏内に実家がある人たちは、推進されなくても、既に何らかの形で助けてもらっている。

そもそも、同居や近居が必ずしもベストな環境というわけではない。祖父母世代と親世代の距離感というのは、家族によっても違い、それぞれが手探りでベストな方法を見つけていくもの。

3世代同居のメリットはもちろんある。ただ一方で、その同居がストレスでしかない場合もあるということを忘れないでもらいたい。

保育園や介護施設不足を補うための三世代同居推進

自民党や安倍首相が想定しているのは、昭和の古き良き三世代同居なのかもしれないが、いま実際に増えているのは母方の祖父母との同居だ。それは、夫婦にとって本当に子どもを育てやすい環境なのだろうか。

この推進策が検討されるとして、それが少子化対策としての導入だとはどうしても思えない。近年、日本が少子化対策の改善例として学んでいたのは、フランスや北欧など欧州の政策だったはずだ。なぜ急に時代に逆行するような話が出てきたのか。

それは、団塊世代が老いていく中、病院も介護施設も足りなくなる未来が迫ってきたからだ。圧倒的に足りない人手、でも外国人に手伝ってもらうのも厳しい現状…。確かに、育児も介護も個々の家庭でやってくれたら、保育園や介護施設が足りなくてもなんとかなる。

そのための『3世代同居推進』なのだろう。

ただ、『少子化対策』と銘打って打ち出すべき政策は、もっと他にあるはずだ。

介護対策であるならば、『少子化対策』という耳障りの良い言葉でごまかすのではなく、想定される現実をハッキリと伝えてもらいたい。

保育園も介護施設も足りないまま、どれほど大変な時代に突入して行くのか、私たち子育て世代は気づいているのだから。

TVディレクター、ライター

早稲田大学卒業後、テレビ局入社。報道情報番組やドキュメンタリー番組でディレクターを務める。2008年に第一子出産後、児童虐待・保育問題・周産期医療・不妊医療などを母親の視点で報道。2013年より海外在住。海外育児や国際バカロレア教育についても、東京と海外を行き来しながら取材を続ける。テレビ番組や東洋経済オンラインなどの媒体で取材・執筆するほか、日経DUALにて「働くママ1000人インタビュー」などを連載中。働く母たちが集まる場「Workingmama party」「Women’s Lounge」 主宰。Global Moms Network コアメンバー。

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