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ファンも美酒に酔いしれた? K-1の夜

藤村幸代フリーライター

K-1代々木大会は4800人超満員札止めに

格闘技会場はノドが乾く。

会場の乾燥した空気もそうだが、密閉された空間を観客が埋め尽くし、しかもペットボトルを口に運ぶ暇がないほど白熱した試合が続けばなおさら、ノドは干上がる。

11月21日の国立代々木競技場第二体育館は、まさにその状態だった。開催されたのは『K-1 WORLD GP 2015 IN JAPAN ~THE CHAMPIONSHIP~』。超満員札止め、4800人の観客が見守る中、繰り広げられた3大タイトルマッチは、すべてが「衝撃」や「戦慄」の二文字が似合うKO決着だった。

こうなると、会場を一歩出た瞬間からもう、小走りになる。少しアルコールを含んだ水分の補給場所へと急ぐ。もちろん、ノドをうるおす目的もあるが、それ以上にやりたいことがある。右手にジョッキ、左手に大会パンフレットを持ちながら、今この瞬間の興奮を誰かと共有したいのだ。

盛り上がりに欠けた大会の後は、宴席もしめりがちになる。淡々と杯を進めながら、それぞれが下を向いて粛々とSNSをチェックする時間が続いたりもする。だが、盛り上がった大会の後は、ノドをうるおす間もなく、声を枯らしながらの“感想合戦”が延々続く。この日の夜は、もちろん後者だった。

K-1の2015年最終興行は超満員の観客を沸かせた(C)M-1 Sports Media
K-1の2015年最終興行は超満員の観客を沸かせた(C)M-1 Sports Media

スター誕生あり、禁断の兄弟対決あり

口火を切ったのは同席したA氏。

「あの場面で倒し返すかどうかで、スターかそうじゃないかが明確になると思ったけど。まさか本当にやってくれるとはね」

武尊(たける・24)についての弁だ。-55Kgタイトルマッチで17戦無敗のチャールズ・ボンジョバーニ(フランス・29)と対戦した武尊は、初回に左ストレートを食らい痛恨のダウンを喫してしまう。しかし2ラウンド、ボンジョバーニの左をかいくぐりながら躊躇なく前に出続けると、高速回転の連打でダウンを奪い返し、とどめの左フックで逆転勝利をやってのけた。

「K-1、イコール武尊にする」「自分こそスター」と公言していた男の有言実行劇場。判定が続き、緩みがちだった会場の空気を、一瞬で引き締め、爆発させてみせた。

セミファイナルは王者・卜部功也(うらべ・こうや・25)vs挑戦者・卜部弘嵩(ひろたか・26)の-60Kgタイトルマッチ。兄が弟に挑戦するという禁断の兄弟対決だった。

「俺が息子に格闘技をやらせたら、殴られるのも見たくないけど誰かを殴る姿も見るのがつらい。それを兄弟同士でやるんだから……親御さんの気持ちを考えると切ないよなあ」

自身と重ね合わせてそう語ったのはB氏。すべてを飲み込んだ上で対決のリングに立った二人は、「兄弟なりの闘いに終わるだろう」という周囲の予想を裏切る闘いを演じ、最後は兄が跳びヒザ蹴りで弟を倒し切った。

リングに横たわる弟、魂が抜けたようにマットに大の字になる兄。そのとき、モニターには二人の息子を必死に覗き込もうと立ち上がる両親の姿が映し出され、両親の思いを代弁するかのように、王者を認定する前田憲作・K-1プロデューサーが嗚咽し……。名場面尽くしの一戦は、数時間の宴席でとても語り尽くせるものではない。

格闘技好きの醍醐味とは

ゲーオ・ウィラサクレック(タイ・31)と木村“フィリップ”ミノル(22)によるメインイベントの-65Kgタイトルマッチは、初回決着となった。左ストレートからヒザを突き立て、木村を175秒で葬った“ムエタイ最強伝説”ゲーオ。「あれだけビッグマウスで挑発していただけに、木村にとっては痛すぎる負けでしたね」と私が言うと、C氏は即座に否定した。

「いや、俺はあの負けの瞬間、木村の新しいストーリーが始まると思ったよ」

ビッグマウスの内に秘めた木村の重すぎるプレッシャーと尋常でない覚悟をC氏は切々と訴え、「おい、みんなミノルのこれからに期待してくれよ。これからがミノルの本当の闘いなんだよ」と、酔いのままにミノル愛を爆発させ続けた。

終電のタイムリミットが近づき、宴たけなわとなったが、話は尽きない。「じゃあ、とりあえずテレビで見直すということで」の一言で、ようやく席を立つ踏ん切りがついたのだった。

生観戦→大興奮→宴席で反芻→テレビでさらに反芻。これが面白い試合を目撃した格闘技好きの醍醐味だとしたら、この日のK-1はその醍醐味を十二分に堪能させてくれた。

【大会放送予定】

GAORA SPORTS

『K-1 WORLD GP 2015 IN JAPAN ~THE CHAMPIONSHIP~

11.21国立代々木競技場第二体育館』

初 回:11月22日(日) 12:30 〜 17:00

再放送:11月29日(日) 21:00 〜 25:30

テレビ東京

『新K-1伝説』

毎週木曜25:35~26:05

フリーライター

神奈川ニュース映画協会、サムライTV、映像制作会社でディレクターを務め、2002年よりフリーライターに。格闘技、スポーツ、フィットネス、生き方などを取材・執筆。【著書】『ママダス!闘う娘と語る母』(情報センター出版局)、【構成】『私は居場所を見つけたい~ファイティングウーマン ライカの挑戦~』(新潮社)『負けないで!』(創出版)『走れ!助産師ボクサー』(NTT出版)『Smile!田中理恵自伝』『光と影 誰も知らない本当の武尊』『下剋上トレーナー』(以上、ベースボール・マガジン社)『へやトレ』(主婦の友社)他。横須賀市出身、三浦市在住。

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