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沖縄メディアは偏向しているのか 米軍の「交流」イベントから考える

藤代裕之ジャーナリスト
フライトラインフェスティバルに展示されたオスプレイ(DEEokinawa提供)

「沖縄メディアは偏向している」という意見が一部ネットを中心に存在している。沖縄県宜野湾市にある米軍海兵隊の普天間基地で開かれた交流イベントを事例に、報道の状況、米軍や地元紙の考え、街の声を大学生が取材した。

オスプレイ初公開イベントに7万人集まる

普天間基地で、2013年6月8、9日に交流イベント「フライトラインフェスティバル2013」が開催された。普段は立ち入る事が出来ない基地で、戦闘機やヘリコプターの展示などが行われる。入場ゲートは1時間以上の渋滞が発生、米軍によると過去最高の2日で7万人が訪れた。

目玉は、新型輸送機オスプレイの国内初の一般公開で、見学の行列が出来るほど注目を集めた。「フライトラインフェスティバル」でネットを検索すれば写真を公開している人もいて様子が分かる。来場者が皆オスプレイなどを見に来ているわけではなく、アメリカのような基地内の風景、ハンバーガー、チュロス、ミートパイといった食べ物、花火などを楽しむために家族で訪れる人も多いようだ。

大きな影響力を持つ地元紙

沖縄には琉球新報と沖縄タイムスという2つの地元紙がある(石垣島には八重山日報と八重山毎日新聞、宮古島には宮古新報と宮古毎日新聞がある)。

読売新聞の広告ガイドによると、両社とも発行部数は約16万で世帯普及率は27%、次に売れている新聞は日本経済新聞だが、発行部数は約6000で世帯普及率1%。読売新聞に至っては部数が1000を切っており、世帯普及率はたったの0.14%しかない。沖縄の人たちへの情報提供に2紙は大きな影響を持っていると言って良いだろう。

琉球新報と沖縄タイムスともに新聞協会賞などを獲得し、報道は高い評価を受けている。琉球新報は2012年に「米海兵隊のオスプレイ配備に抗う一連の報道」の連載で平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF)賞奨励賞を受賞。沖縄タイムスは2013年に「オスプレイ強行配備をめぐる一連の報道」で新聞労連ジャーナリスト大賞特別賞を受賞している。

「偏向報道」の指摘も

琉球新報に掲載された意見広告
琉球新報に掲載された意見広告

だが、これらの報道姿勢はまとめサイトやブログといったネットや一部の国会議員から「偏向報道」との指摘を受けている。

2013年3月に朝日新聞は自民党国防部会での小池百合子元防衛相の発言を「「戦っている相手は沖縄のメディア」小池元防衛相」との見出しで取り上げた。記事によると小池元防衛省は「沖縄のメディアの言っていることが本当に県民をすべて代表しているとは、私ははっきり言って思いません」と述べたという。

菅義偉官房長官は4月に就任後初めて沖縄入りした際に、普天間基地の県内移設に理解を求めるため、2紙と民放テレビ局を回り幹部と懇談する異例のメディア行脚を行っている。

「フライトラインフェスティバル」を地元2紙はどう報道したのだろうか。

沖縄タイムスは掲載なし。琉球新報は「オスプレイ展示 「普天間」一般公開、不安払拭狙いか」と報じている。戦闘機などの展示を紹介するだけで、交流面は取り上げていない。イベント当日にオスプレイ反対の意見広告を全面に掲載している。

米軍、地元紙の意見、そして街の声

海兵隊太平洋基地政務外交次長のエルドリッヂ氏によると、米軍基地では音楽イベントやフェスティバルなども開催、地元中学生の職場体験や東日本大震災の被災地の子供たちを沖縄に招待したホームステイなども行っているが、報じられることは少ない。「メディアにはプレスリリースを行ない知らせているが良い取り組みはメディアに取り上げて貰えない」と言う。

そこで、TwitterやFacebookの日本語アカウントを作り、基地の取り組みや、日常生活を発信している。 在日米海兵隊のTwitter(@mcipacpao)のフォロワーは2万を超える。

沖縄タイムスの平良武編集局次長は、偏っているという指摘に対して「立場の違いであり、沖縄県民の立場になって取材・報道しているだけで、それを偏向と呼ぶかどうかは読者しだい」と述べる。普天間基地移設問題についての報道でも、反対派だけでなく賛成派の声も掲載している。「賛成派は目立った行動はしないため、デモや集会で、目立つ活動の多い反対派のニュースが自然と増える」という。

街頭で行ったインタビュー
街頭で行ったインタビュー

地元の人たちは沖縄メディアをどう見ているのだろうか。街頭でアンケート調査を行ったところ圧倒的な支持を得ていた。

45人に聞いたところ沖縄メディアを信頼している人は32人。一方、信頼していない人は13人で「基地問題を過剰に煽っている気がする」との理由が多かった。地元の大学生は「基地容認であっても言いにくい雰囲気がある気がする」と沖縄になんとなく存在する空気について話してくれた。

注:この記事は、法政大学社会学部藤代ゼミ生による取材を基にしています。ゼミ生は米軍取材時に昼食の提供を受けました。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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