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バズフィードが閉鎖的な日本のメディア業界に「革命」を起こすかもしれない3つの理由

藤代裕之ジャーナリスト
バズフィード日本版の記者会見に詰めかけた取材陣

おバカ記事からシリアスなジャーナリズムまで幅広いコンテンツを扱う新興ニュースサイト「BuzzFeed(バズフィード)」がアメリカから上陸、20日に日本版開始の記者会見が行われました。朝日新聞や毎日新聞、ロイター通信、NHKなどが記者会見の模様を報じておりメディアの関心が高いことが伺えます。会見に参加して、バズフィードは閉鎖的な日本のメディア業界に大きな変化をもたらす可能性があると感じました。その理由は「技術と編集の融合」「グローバル」そして「ソーシャル」です。

バズフィード日本版のトップページ
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記者会見の概要については各社の記事をご覧ください。

1.技術と編集の融合

ニュースサイトにおいて欠かせないのは技術です。いくら記者が良い記事を書いても、各デバイスに最適な表示をしなければ読者には届きません。さらに、ソーシャルメディアを通して記事を読む機会が増えているいるため、ソーシャル拡散への技術的な対応も求められています。

読者だけでなく、ニュースサイトの記者・編集者にとっても技術は重要です。記事を投稿して表示する仕組みはCMS(コンテンツマネジメントシステム)と呼ばれるのですが、CMSが使いにくいと記者にストレスがたまります。変化の激しいウェブニュースの世界で生き残るためには、技術者(エンジニア)と連携して、システムの開発、運用、アップデートを絶え間なく行っていくことが重要なのです。

しかしながらこの技術と編集の融合はあまり進んでいません。両者は水と油のような存在で、考え方、文化も異なるからです。

2014年に出版を中心とした既存メディアKADOKAWAと、ニコニコ動画などを展開するウェブ企業のドワンゴが統合した際に記者会見で、「編集者のとなりにエンジニアが座って一緒に仕事をするイメージ」というコメントがありました。また、川上量生会長はインタビューに新人研修にプログラミングを導入すると答えています。「え!そんな単純な話し?」と思った人もいたかもしれませんが、それほど各社とも苦心しているのです。

バズフィード日本版の古田創刊編集長は、CMSについて聞かれ、写真を記事のどこに置くか細かく設定ができること、クイズや写真スライダー機能について最初から用意されていると回答していました。さらに「エンジニアたちから何か必要なことがあったら僕達に行って欲しいと言ってくれた。ローンチのために、ニューヨークから来てくれている」と後ろの席にいるエンジニアを紹介していました。

このエンジニアとの「近さ」。既存メディアどころか、ネットメディアでもなかなか出来てないのではないでしょうか。

使い勝手が良いCMSはウェブを舞台に戦う記者や編集者の強い武器になります。バズフィードを手強いと感じた最も大きなポイントです。

2.グローバル

ふたつ目はグローバルです。

バズフィード日本版は世界で11カ国目の展開。グローバルなネットワークを使って、世界から日本へ、日本から世界へと記事を展開するとのこと。これは読者が国内にかぎらず世界に広がるということです。古田創刊編集長が、その一例として紹介したのが下記の記事です。海外版で公開されているのを見て、すぐに邦訳したとのこと。

バズフィードは、ローンチの記者会見にエンジニアだけでなく、オーストラリアの編集長など他国のスタッフも来ていました。バズフィード日本版の関係者はニューヨークで、研修を受けたり、パーティに参加したり、しています。古田創刊編集長によると、各国の編集長同士のミーティングも定期的に開催されているとのこと。エンジニア同様にグローバルが「近い」と感じました。

日本のメディアは日本語という言葉のカベがあり閉鎖的な市場が形成されており、グローバルなシステムの上に、グローバルなコンテンツを展開するニュース・メディアは、日本経済新聞がFT買収のチャレンジなど一部をのぞいてほぼなかったといえます。

古田創刊編集長は、日本への注目が海外から高いことを会見で紹介し、「海外メディアの特派員の人たちの情報ばかりが世界に発信される状況は悲しいと思っていた」と話していました。縮小する国内市場だけでは、ビジネスは拡大しようがありません。どれだけ日本のコンテンツを海外発信出来るのか注目です。

3.ソーシャル

なぜ、バズフィード日本版のスタッフがニューヨークに行っているのか知っているかというと、ソーシャルメディアで発信されていたからです。

古田創刊編集長は、朝日新聞からバズフィードに移籍してから、オフィスの様子や新しい記者や編集者が採用された際には記念撮影して紹介、記者会見でもソーシャルで随時発信していました。会見に海外からきたバズフィードのスタッフも、スマートフォンで撮影をして、ソーシャルで発信していました。バズフィードの編集部はソーシャル発信が徹底されているなと感じました。

ソーシャルメディア時代のニュースサイトの媒体力は、媒体の基礎力×記者・編集者×ファン(読者)=媒体力、という公式で考えられると思います。マスメディア時代の媒体力は、媒体力そのものでしたが、ソーシャル時代は、媒体力に加えて記者・編集者、ファン(読者)の拡散力を掛け合わせたものになります。国内では朝日新聞がTwitterを積極的に活用していますが、編集部の様子まで紹介している人はほとんどいません。

バズフィードは、ソーシャルメディアで普段から編集部の様子や取材の様子を発信することで、記者・編集者のソーシャルパワーを向上させ、ファンも獲得しようとしています。

課題

「技術と編集の融合」「グローバル」「ソーシャル」これら3つは、ソーシャルメディア時代のニュースサイトに不可欠な要素ですが、新聞やウェブ含めて国内のニュースメディアでは出来ているところはほとんどありません。これら基本を踏まえた上で、次はコンテンツです。

システムやソーシャル対応が出来ても、おバカコンテンツばかりでは媒体の価値は上がりません。さらに、この記事にも使った「◯◯の3つの理由」といったタイトルはバズフィードメソッドですが既に日本では多様されており、おバカコンテンツを扱うバイラルメディアも数多く存在しています。

鍵になるのは編集部のオリジナル記事でしょう。毎日新聞から移籍した石戸諭記者による福島原発ルポが公開されていますが、少ない編集スタッフでいかに質が高く、他のメディアが扱わないテーマや切り口の記事をどれくらい出していけるかが勝負でしょう。

3つの要素とジャーナリズムとして優れた記事が書け合わされば日本のメディア市場に大きな影響を与えるでしょう。

最後に、バズフィードはバナー広告を使わずにネイティブ広告を収入源にしていることでも知られています。しかし、そのバズフィードのネイティブ広告は、本国アメリカの連邦取引委員会(FTC)の規制強化で広告表記が不十分さが指摘されています。日本でもネイティブ広告の広告表記の不十分さは昨年「ステマ(ステルスマーケティング)問題」として大きくクローズアップされました。適切な表記が行われるかも注視していく必要があるでしょう。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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