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「災害ボランティアには、農業支援がないのをご存知か?」災害報道研修会が熊本で開催

藤代裕之ジャーナリスト
徳野貞雄熊本大学名誉教授によるレクチャー=御船町恐竜博物館

災害発生時の支援団体と自治体、メディアの連携を深めることを目的にした災害報道研修会「災害時に何をどう発信するのか~メディア、NGO、自治体による効果的な災害対応のために~」(マスコミ倫理懇談会全国協議会、ジャパンプラットフォーム共催)は、2月16日熊本地震で大きな被害を受けた熊本県御船町、西原村を視察。災害ボランティアと農業支援の課題を聞きました。

災害ボランティアには農業支援がない

中間支援組織である「ふるさと発 復興会議」の呼びかけ人であり、統括である徳野貞雄熊本大学名誉教授によるレクチャーが行われました。

「災害ボランティアには、農業支援がないのをご存知か?神戸で震災が起きてボランティアが活躍した。それでマニュアルを作ったら、農業、農村支援が入らなかった。してはいけないとは書いてないが、制度的な不作為になっている。ボランティアは都市型になっている。家の瓦礫を片付けるだけでなく、生活のためには農作物の収穫も必要だ」

「震災にはマチ型とムラ型があり、熊本地震はマチ型とムラ型の複合型だから、被害が見えにくい。支援活動でも、よく仮設住宅に入っている一人暮らしの老人をサポートするというが、ここでは近くにいる子どもや孫が助けている。老人を支えている子どもたちをサポートする必要もある。生活は一人ではなく、集落でやっている。東京とは違う。それを分かっていないことがある。震災が起きると農村のことを分からない若手記者が東京からやってくるからマチ型の被害がクローズアップされて報道されてしまう」

「ふるさと発 復興会議」は、行政と住民の間に入り課題の整理などを行っています。徳野さんは「役場が出ると要求でキツイことを言われるのは目に見えている。どうするかというノウハウを提供する」と言います。具体的には、「自分のこと」「世帯のこと」「家族のこと」「家(財産)のこと」「隣保組のこと」「行政区のこと」「旧小学校区のこと」「町全体のこと」といった項目を作ったシートを作って要望を聞いています。

「いきなり話すと、町の財政がどうなる、国道がいつ回復するのか、という話になる。しかし、身近なことを入れたシートを使って書き込んでもらうと、不安や家族の病気、など自分の話になっていく」

ヤフオクで石を売り作業道を復旧

続いて「ふるさと発 復興会議」の河井昌猛議長による復興事例報告が行われました。

崩れた水路の復旧や農作物の苗付けなど、農家から助けて欲しいと依頼を受けて対応しようとしましたが、ボランティアを統括する社会福祉協議会は農業は営利事業で対応出来ないという返答だったといいます。

「水路に土石が流れ込んだだけなのに支援はできませんと言われ、福岡の山登り団体にボランティアに来ていただいて手伝ってもらった。お昼はおばあちゃんが作った豚汁とお弁当を食べた。最終的にきれいに水が流れるようになったが、最初は高齢化しているし、今年の農作業は諦めようという感じだった」

河井さんは地震で私道の作業道を塞いだ巨石をヤフーオークション(ヤフオク)に出品して全国的な話題となったアイデアを発案した人物です。

「石は100トンぐらい。見に行って、根拠はないが、世の中の金持ち買うんじゃないかと思った。で、ネットオークションで売ろうと。地区の人に20人ぐらい集まってもらってヤフオクで売ろうと思うというと、売れるとか売れないじゃなくて、ヤフオクってなんですかという反応。実は自分も、出品したことがなかった。初めて出品したのが石。ヤフーのトップに掲載されて、マスメディアがたくさん報じてくれた。最後は2,400円で落札して頂き、観音堂の敷石に使ってもらえた」

河井さんは「下を向いていた地域の人が元気になる。建物がたつ、道ができるとかでなくて、自分の足で、前向いてやっていく、というのが復興なのかなと感じた」と話していました。この後、町民との意見交換や現場の見学なども行われました。

支援者を支援するのがメディアの役割

御船町は、県社会福祉協議会が、安全面などを理由にボランティアを控えるように呼び掛けている中、ボランティア団体を受け入れてネット上で批判を浴びた町です。

藤木正幸御船町長の話を聞く災害報道研修会の参加者=御船町恐竜博物館
藤木正幸御船町長の話を聞く災害報道研修会の参加者=御船町恐竜博物館

藤木正幸町長は、「私たちはメディアに大きく左右される。県は一ヶ月ボランティアを入れないと決めたが、160人の職員しかいない町が壊れそうだから、ボランティアを受け入れた。そうすると、批判の電話でパンク状態になった。次はメディアがやってきて電話がパンクした。メディアやSNSの対応で住民を向くことができなかった。ただ、メディアには正確な情報を出してもらって助かったことがあった。震災でメディアの良いところ、悪いところ、を感じた。支援者を支援するのがメディアの役割ではないでしょうか」と挨拶で呼び掛けていました。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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