「中成長」期の中国経済、企業債務の膨張に注目/神津多可思・リコー経済社会研究所所長に聞く

(写真:ロイター/アフロ)

2008年のリーマンショック後、世界経済を引っ張ってきたのは、紛れもなく中国を牽引車とする新興国だった。しかしその中国も北京オリンピック(2008年)、上海万博(2010年)を過ぎたあたりから、息切れしている。

2017年秋には中国共産党大会が開かれる。そこに向けて、政権内部での権力闘争も最終段階を迎えるということになるかもしれない。その意味では将来の経済見通しが好転するのか、それとも中央政府の施策があまり効果を発揮できず、6%台の成長率がさらにずるずると低下していくのか、極めて重要な意味を持っている。

巨竜中国の動き方によっては、いまだ足下のふらつく日本経済にも大きな影響があるだろう。中国経済の現状と見通しをどう考えているのか、リコー経済社会研究所の神津多可思所長に聞いた。

2020年過ぎには潮目が変わるか

藤田_中国を外部から見ていると、成長率がじりじり下がっているため、思い切った構造改革ができず、重荷を引きずっているようです。たとえばIMF(国際通貨基金)が12月に出したWorld Economic Outlookでは、中国の2016年成長率は6.6%、2017年は6.2%とさらに下がると見ています。この現状をどう考えたらいいでしょう。

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神津_中国の成長率がじりじりと下がっているのは、やはり中国経済のそのものがこれまで高成長してきた結果でしょう。二桁成長がいつまでも続くはずはないし、実際、日本だってそういう道をたどってきたわけです。

問題はむしろ、いつ中国がさらに低成長の時代に陥るのかというところにあります。中国の人口動態を見ても、生産年齢人口(15~64歳)が減り始めたとはいえ、全人口に占める割合はしばらく比較的高い状態が続きます。65歳を超えた人々の割合が急速に高まるにはまだ少し間があります。その面からすれば、今年とか2018年に中国経済が深刻な状況に直面するとまでは言えないでしょう。

ただ今後いわゆる従属人口比率(14歳以下の子どもと65歳以上の老人の人口が生産年齢人口に占める割合)が上がってきます。しかも上がるスピードは日本の1990年代後半から2000年前後にかけてと同じぐらいに急速に上昇します。その頃は本当に大変なことになるでしょう。

(図表1)中国の従属人口比率の推移

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(出所)World Population Prospects, the 2015 Revision The United Nationsを基にリコー経済社会研究所で作成

藤田_たしかに、日本も二桁成長の時代が終わって中成長期に入り、そしてバブルが弾けて以来、成長力をまったく失ったような感じになりました。中国も同じような道をたどるだろう、ということですか。

神津_現在の中国の成長率が下がっているのは、オイルショックの前と後で日本の平均成長率が低下したのと同じです。経済の構造が大きく変わっているときに外的なショックが入ると、構造変化の影響が如実に顕在化するようなところがあります。中国経済はおそらく2008年のリーマンショックを境に、高度成長期から中程度の成長期に移行したということでしょう。

日本経済も、オイルショックの後、それまでの二桁成長から5%前後の安定期に入りました。そしてその後バブル崩壊の後始末をやっている最中に生産年齢人口が減少し従属人口比率が上昇してきたということです。1997年、98年と金融危機を迎え、その後は大きく成長率が下がりました。中国がいつ次のシフトダウンを迎えるのかはよくわかりませんが、今の中国がいきなり日本と同じように低成長になることはないでしょう。

藤田_いま日本は人口オーナス(従属人口の比率が高くなって経済の負担が大きくなっていること)の時期に入りました。中国は一人っ子政策のおかげで、日本より早いペースでそうなるかもしれませんね。

不良債権問題には注意が必要

神津_日本とは20年ぐらいの差があるでしょうから、いまから5年ぐらいはまだやっていける可能性もあると見ています。ただその一方で、中国の不良債権の増え方は日本とちょっと違っています。ここには少し注意しておかなければならないと思います。

(図表2)中国の銀行の業種別不良債権比率

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(出所)中国銀行業監督管理委員会のデータを基にリコー経済社会研究所で作成

日本の場合、銀行貸出が不良債権化した業種は建設、不動産、卸小売が御三家でした。土地を担保にしたオーバーローンというのが不良債権問題の本質でした。いま中国の統計を見ると、卸小売もそうですが、製造業の不良債権比率が上昇しています。もちろん経営効率の悪い国有企業もそこに含まれています。しかし、不良債権としてまず顕在化している企業は、国有企業と違って国の支援がないところです。逆に言うと、国の支援がなくなれば国有企業の不良債権も表に出てくるということです。

藤田_貸し手の側は、銀行といわゆる「シャドーバンキング」の2つがありますね。とくにシャドーバンキングのほうは不良債権の総額で数百兆円とか言われています。「シャドー」と言われているだけあって、実態はいまひとつはっきりしないのですが。

神津_きちんとした不良債権の統計があるのは銀行だけで、シャドーバンキングのほうはよくわからないのです。そうした不良債権をどう処理しようとしているかというと、以前とは違って最近は、全体的には企業をより潰すような方向になってきていると思います。行き詰まった製造業や小売業の企業を潰すということですね。

藤田_日本は2001年に小泉政権が成立して、不良債権処理を促進し、ゾンビ企業(実質的に立ちゆかないのに、銀行が生き長らえさせているような企業)を潰せという大号令をかけました。それと同じような状況になるということですか。

神津_中国はまだそこまで行ってないと思います。日本は1989年12月に株価がピークをつけ、それから1~2年ほど遅れて不動産価格がピークをつけました。そしてそこから実際に金融危機になるまでに5年以上かかったわけです。その間は、みんなまた元の成長軌道に戻るのではないかと思っていました。90年代後半に銀行危機になって、ようやくやはりこのままではダメだということになり、将来展望のない企業が潰れ、その企業への融資が銀行の不良債権になり、その処理に耐えられない銀行は退場することになるというプロセスをたどったわけです。

藤田_日本の教訓とか偉そうなことを言っていいのかどうか分かりませんが、日本はバブルが弾けて以来、10年以上ぐずぐずやってきたために、かえって負担が大きくなったと言えるかもしれません。その意味では中国も何とかなると思って手をこまねいていると傷を深くすることになりませんか。

まだ「のりしろ」がある中国

神津_ただ中国の場合、名目で年率6%程度で成長しているということはまだ「のりしろ」があるということです。日本も、のりしろがなくなって、つまり名目成長率が落ちてきたときに、「誰かが損をかぶらなくてはいけない」という不良債権処理の本質がはっきりしたわけです。その点、中国は統計上疑義があると言う話もありますが、とにかく収入は増えています。6%の名目成長率があれば、たとえばその半分でも3%の成長率分は不良債権処理に回せます。それができる間はまだ大丈夫だと思います。

藤田_確かに成長していれば、たとえ不良債権処理で傷を負っても、その傷は相対的に小さくなっていくわけですね。日本の高度成長期はまさに失敗してもその負担が小さくなったために、うまく行ったように見えただけだと、昔の日本興業銀行のトップに取材したときに聞いた覚えがあります。

神津_その意味では低い成長率、つまり所得があまり増えない中で、不良債権を処理する、つまり誰かが損を被るというのは大変なことなのです。昔だって大型倒産はやっぱりありました。安宅産業とか山陽国策パルプなどなど。しかし所得が増える(経済が成長する)中で、そういった傷は癒えていきました。

中国は最近、結構、倒産をちゃんと出す方向にあります。中国最高人民法院という裁判所があって、2016年の第1四半期に受理した企業破産案件は1028件(前年同期比52.5%増)になっています。これまで中国は、企業倒産をあまり表に出してきませんでした。言ってみれば、日本のバブル崩壊以前のやり方と同じです。企業を倒産させないで何となく保たせていれば、やがてなんとかなるというやり方です。しかしさすがにここにきて「過剰生産能力削減」を中央政府が言い出しているので、裁判所が破産として受理する案件が増えているのだと思います。実際問題、中国で近代的な破産法ができたのは2006年です。それまでは地方政府が非公開で「破産」させてきました。そういう意味では近代的な破産がこれから増えてくるでしょう。だからといって、すぐ日本のバブル崩壊のようなものをイメージするのは間違いだと思います。

藤田_ゾンビ企業が少しずつ処理されて、中国経済の重荷が減ってくるというように考えていいのですか。

神津_そうです。ただ一方で、重荷が増えてくるという側面もあります。それは企業の債務比率の上昇です。いま国有企業を中心に企業は債務を増やしています。将来、成長率が下がったときに、この債務は不良債権につながりかねません。つまりBIS(国際決済銀行)なども問題にしているのですが、片方で不良債権を処理しながら、片方で将来の不良債権の種を蒔いているという面もあるのです。

(図表3)中国の非金融企業債務の対GDP比率

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(出所)BIS、IMFのデータを基にリコー経済社会研究所で作成

藤田_中国企業は積極的に投資をする環境にないと思いますが、なぜ企業の債務が増えるのですか。

神津_国の資本が入っている企業は投資をしています。逆に言えば、そういった企業しか投資しにくいのが現状のようです。

藤田_これからの成長率がどうなるかが中国の先行きを占う上で大切だということになりますか。

神津_国内で国有企業を中心に統合して巨大化し、競争力をつけて海外に広げていくという戦略もみえます。こうした中で、どうしようもない企業については破産させて将来の不良債権化を防いでいくということです。

ただ国民から強い反感が出ない程度にしか供給サイドの調整を進めることしかできないという制約もあります。調整を進める力と制限する力の差し引きはどうかということが問題ですが、中国の外から見る限り、やはり「問題の先送り」という側面のほうが強いというのが、IMFやBISの見方になっていると思います。

藤田_そうすると、今後の中国の成長率がどのくらいの期間、たとえば6%台といった水準で推移するかが、不良債権処理がどの程度進むかを左右するということですね。

神津_そうです。これからの成長率がそんなに落ちなければ将来の負担は軽くなるし、急速に落ちてしまうと重くなる。そういう関係にあると思います。

ただ、このところ中国からの資本流出が続いており、最近では米国の長期金利上昇もあって人民元安が進んでいます。政府は資本移動への制限や短期金利の高め誘導などで、それが行き過ぎないよう努めていますが、金融市場がどう反応するかはなお不透明です。海外からの投資に支えられて高成長を続けてきた中国経済であるだけに、こうした動きが成長率に与える影響も気になります。

他方で今の中国はニューエコノミーとオールドエコノミーのコントラストがはっきりしてきています。とくにこれは鉄鋼などの供給過剰に如実に表れています。中国の東北地方などにある装置産業は構造不況業種なのです。こうした業種を保たせるかどうかは成長率にかかるところがあります。日本も成長率が落ちたときに、構造不況にある産業を支えることができなくなりました。

だからといって、中国経済全体がだめなわけではありません。上海などに行くと、とても元気なのです。ITを中心にした新しいビジネスはかなり活発です。たとえば、中国人の「爆買い」が減ったという話がありますが、これなどeコマースによって、別に日本に来なくても日本の物が買えるようになったことも影響しているでしょう。現金を使わずにスマホで決済するのは、上海のほうが日本よりはるかに進んでいます。

他にもサービス業では、上海の有名レストランの食事を自宅まで運んでくれるというのもあります。そのレストランがデリバリーサービスをしているのではなく、注文を受けてレストランに発注し、デリバリーする業者がいるのです。そういう新しいものを開発して拡大していくという元気さが上海にはあります。

ベンチャーが育っていく余地というのは、日本よりも中国のほうがはるかにあるようです。中国の人はよりリスクテイクに前向きですから。株式に投資する人が多いことが表しているように、リスクマネーもあります。たしかに東北地方は重厚長大産業が多いですが、上海とか広州、杭州などでは新しい産業が拡大しています。産業の違いが地域の違いになっていますから、十把一絡げで中国経済はこうだとは言いにくいのです。

また、農村人口をさらに減らしてそれを新しい都市化により吸収し、住宅販売で地方政府が収入を得るというビジネスモデルを延命させようともしています。「国家新型都市化計画」と呼ばれるものです。まず137の地域を「試点」として新型都市を造ってそこに人を集めるということです。

さらに、中国は経済発展につれて高コストとなり「世界の工場」としての地位を失いつつあるわけですが、それを補うべく西に向かってマーケットを拡大していこうというのが「一帯一路」ですね。地方中核都市に集められた人々に、この新しいマーケットに向けた製造業を担ってもらおうというのが、いま北京の考えていることだと思います。それに人口の減少を食い止めるべく、一人っ子政策を止めました。ただそれで出生率が上がるかどうか、かなり疑問符がつきます。他の国を見ても、平均所得が上がってくると出生率は下がっています。

藤田_中国は従属人口比率が急激に上昇する前に、いかにソフトランディングできる態勢に持って行くか。それが重要だということですね。かなりの政治的リーダーシップも必要だと思いますが、習近平政権にそれができるかどうか、秋の共産党大会までの推移を見守りたいと思います。どうもありがとうございました