スキーバス事故から見える社会の課題ー若者と高齢者の貧困が交錯する場所ー

スキーバス事故と大学生や若者の経済的貧困

2016年1月15日未明、長野県軽井沢町で14人が死亡した大規模なバス事故が発生した。

学生を中心に、多くの死傷者を出した凄惨な事件に言葉を失ってしまった。

わたし自身も学生時代や20歳代は、頻繁に夜行バスを利用し、まさに「長距離移動の足」として活用させてもらっていた。

そのような長距離バスの需要はいまも根強くあることが理解できる。

わたしも学生時代に学費高騰などの影響もあり、金銭的な余裕がないため、安価な移動手段を求めたことを思い出す。

限られたバイト代などのお金だから、一円でも安くスキー場に行きたい、海外に行きたい、飲みに行きたい、遊びに行きたいと思っていた。

また、友人に金銭的な余裕がなければ、その友人の予算で行ける範囲内で遊び方や生活の仕方を試行錯誤するものだ。

飲み屋に行けない時はスーパーで食材を買って友人宅で宴会をした。BBQも安い食材を工夫して楽しんだ。

旅行などは当然、夜行バスを含めた一円でも安い代理店に頼んだり、青春18キップを利用したことも多数である。

つまり、若者が「安く楽しく過ごしたい」というニーズは共通するものであるといえる。

その学生は、わたしの時代よりも、さらに金銭的な貧しさは進行している。

学費の高騰が続いているからである。大学生のなかには自分で生活費や学費を工面している者もいるだろう。

そして、その証拠にいまや奨学金を借りている学生は半数を超えた。それも大半は有利子の奨学金で「ローン」である。

わたしも奨学金を借りていたし、自身や家族だけでは、すぐに大学学費は支払えないことは珍しいことではない。

大学学費の推移
大学学費の推移

この大学学費の高騰について異常だといえるのは、消費者物価指数の伸びとの比較である。

つまり、物価はさほど上がっていないにも関わらず、大学学費だけ、うなぎ登りなのだと理解できる。

(図は文部科学省ホームページより)

学費と消費者物価の比較
学費と消費者物価の比較

そのような日本の学生は、高速バスが危険で何度も事故を繰り返しているにも関わらず、その移動手段を選ばざるを得ないといえる。

なぜこのような危険を承知でその選択をするのか、責めても意味はない。

もちろん、安全を損なってはいけないに決まっているが、一円でも安く移動したいという需要がある以上は、運営会社もその顧客の指針に応えてしまうことに問題の根深さが横たわる。

当然、そのような運営を求めた場合、そこで働く労働者は賃金が安く、厳しい労働環境になる。

その労働者の提供するサービスや安全の質を劣化させることは言うまでもないだろう。

端的にいって、安全で充実したサービスは安価では買えない

今回のように毎回、規制をしても安全を売り渡してしまう事業者が後を絶たない問題は、複合的な視点が必要だといえる所以だ。

繰り返される高速バス事故に対して、改めて事故の多角的な検証作業と再発防止を徹底いただきたいと心から願いたい。

そういう意味においては、引き続き、経過を注視していくことが重要だ。

高齢者の労働者と過酷な労働

もうひとつの視点は、労働者であるバス運転手が比較的高齢であったことに注目したい。

2人の運転手のうち、一人は50歳代後半、もう一人は60歳代の高齢者である。

まず、前提として共有しておきたいのは、いかに夜間労働が過酷かということである。

若者であっても深夜労働は心身に堪える。介護や看護の宿直勤務後に、1日休みになる形態をとるのは、労働者の心身の回復を待つためでもある。

今回のように夜行バスは深夜勤務になる。運転手は交代制にしても、深夜に働くということは、心身に大きな負担を与えるだろう。

若い頃は徹夜しても平気だった身体が、だんだんと年を取ると徹夜が苦しくなるという経験をしたり、知人から聞いたこともあるのではないか。

そのような過酷な労働を高齢で、ましてやルーティン業務で行っている場合、十分な労働者の健康管理と休息や配慮が必要になるのは当たり前のことである。

少し気を抜けば、大事故につながることは容易に想像ができる雇用形態ではないだろうか。

そもそも、高齢者でもこのような過酷な労働に従事しなければならない人々は近年増加の一途である。

背景にあるのは、もちろん年金支給額の低さにともなう生活困窮や生活費のためである。

労働内容が過酷であれば、当然、その賃金は比較的高い。だからその労働に従事せざるを得ない高齢者もいて当然である。

年金だけでは暮らせない高齢者の問題の改善に取り組まなければならないと改めて強調しておきたい。

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さらに、平成24年の高齢雇用者の「非正規の職員・従業員」は179万人となり、高齢雇用者の69.1%を占めている。

つまり、働き方はほとんどが非正規雇用であり、働いた分だけ給与が支払われる場合が多い。

働かなければ暮らしていけない高齢者ほど、過酷な労働に身をゆだねることとなる。

場合によっては、健康を害したり、病気を隠しても、暮らしのために無理して働く場合もあるだろう。

(図はいずれも総務省統計局より引用)

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裏側にある高齢者の貧困を同時に解消しなければならない問題も見えてくる。

実際には報道で下記のように、高齢者の運転手は孤立しており、周囲の家族に頼ることが出来ない状態である労働者像がみえてくる。

亡くなった運転手2人について、勝原運転手の遺体は16日、自宅に送り届け、夫人に引き渡した。運転していた土屋運転手については、同社で遺族を把握できておらず、遺体を引き渡せていないという。

出典:遺体安置所で遺族に謝罪も遺族「絶対許さない…」

いずれにしても、スキーバス事故をめぐる議論を眺めている際に、わたしには若者と高齢者の貧困が交錯する場所という印象を強く持たざるを得なかった。皆さんはこの事件をどのように見ているだろうか。

このような悲惨な事件を繰り返さないためにも、多くの視点から検証をしていきたいものである。

最後に、わたしも大学で教鞭をとっている者として、決して他人事として見れない苦しい事件であり、亡くなられた学生・関係者に対して、心から哀悼の意を表したい。