Yahoo!ニュース

振られた彼女からクリスマスプレゼントは奪い返せるのか??弁護士が解説

福永活也福永法律事務所 代表弁護士
(写真:アフロ)

最近ますます寒くなり、街のいたるところにイルミネーションを見かけるようになりました。

この時期になると図らずも意識してしまうのがクリスマス。クリスマスは誰と過ごそうか、プレゼントはどうしようかなんて考えている人も多いかと思います。

今日は、よく冗談半分で質問される「男性から交際している彼女にクリスマスプレゼントを贈ったところ、すぐに振られてしまった場合にプレゼントを返せと言えるのか」という可哀想な男性のお悩みに真面目に答えてみたいと思います。

贈与契約について

まず、クリスマスプレゼントを贈るという行為は、法的には贈与に当たります。

贈与と言えば一方的に相手に物をあげる行為というイメージですが、贈与も二者間の契約であることに変わりはなく、あげる方ともらう方の双方が納得しなければ贈与は成立しません。

そうでないと、例えば、いらないゴミを一方的に他の人に押し付けることができてしまいますよね。

参照「民法549条(贈与):贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」

そして、贈与契約は、(書面を交わしていなければ)実際に相手に物をあげるまでの間は自由に撤回することができますが、すでにあげてしまった場合は撤回ができません。

参照「民法第550条(書面によらない贈与の撤回):書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りではない。」

ですので、プレゼントをもらった彼女は、クリスマス後にすぐ彼のことを振ってしまったとしても、基本的にはプレゼントを返す必要はありません。

逆に彼は、書面を作成していない限り、実際にプレゼントを渡すまでは自由に贈与契約を撤回できますので、プレゼントを渡さずにクリスマスを過ごした後、やっぱりプレゼントをあげなくても(法的には)問題ありません。

例外について

ただし、例外があります。

それは、クリスマス後も二人が交際を続けることを条件にプレゼントを渡し、もし交際が終わってしまえばプレゼントを返してもらうという約束をしていた場合です。

このように、ある特定の条件(「交際が終わる」という条件)が成就した場合に契約が解除されるような法律行為を、解除条件付法律行為と言います。

参照「民法第127条2項(条件が成就した場合の効果):解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。」

このような合意をしていた場合、もし彼女に振られてしまえば、あげたプレゼントを返して欲しいと言えそうです。

もっとも、実際には、二人が交際を続けるといっても、何をもって交際していると呼ぶのかが不明確で抽象的ですので、「交際が終わる」という解除条件は法的な合意として内容が特定されているとは言えなかったり、また、普通の男女交際における常識的な範囲でのプレゼントであれば、そもそも法的拘束力のある合意をしていたとは言えず、単なる道義的な約束に留まると認定されたりして、結局、プレゼントを返してもらうことはできないケースが多いのではないかと思います。

ただし、結局はケースバイケースで、交際の約束といっても、婚約や、それに近いような関係性を継続させることを合意していたり、相手にあげるプレゼントも凄く高価なものであったりすれば、法的拘束力のある解除条件が合意されていたと認定されることもあるかと思います。

不倫の場合はどうなる?

ちなみに、以上は真摯な交際を前提としたお話でしたが、ケースを変えて、不倫関係の維持のためにプレゼントを渡したものの、相手に振られてしまった場合はどうでしょうか。

日本では不倫関係は違法行為とされており、このような違法な関係を維持するため(不法な原因のため)にプレゼントを渡した場合にはその返還を請求することができないとされています。

参照「民法第708条(不法原因給付):不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。」

司法の世界にはクリーンハンズの原則、すなわち、司法の助けを求める者は綺麗な手をしていなければならない、というルールがあり、もしここで違法行為をした者を助けてしまうと違法行為を助長してしまうため、これを防いでいるのです。

例えば、違法な賭博行為をしておいて、いざ負けてしまったところで、賭博行為は違法で無効だからお金を返せ、という請求が認められるのはおかしいですよね。

ちなみに、クリーンハンズの原則の考え方は、給付した物の返還以外にも適用されます。例えば、愛人と婚約したものの一方的に破棄をされたから慰謝料請求をしたい、というような場合にも、そもそも愛人関係という違法な関係性は法的保護に値しないとして、慰謝料請求が認められないのが通常です。

ただし、これにも例外はあり、例えば、妻帯者である男性側が年齢も上で社会経験・恋愛経験が豊富である一方、愛人女性側が未成年で社会経験・恋愛経験が乏しいのをいいことに、その気もないのに妻と離婚して愛人と結婚すると嘘をついたり、専ら性的享楽の目的として愛人関係を維持していたりした場合には、一言で不法な原因(違法な愛人関係)と言っても、愛人女性の違法性の程度に比べて、男性側の違法性が著しく大きいと評価されて、慰謝料請求が認められた事案もあります(昭和44年9月26日最高裁判決)。

話が広がってしまいましたが、結論的にはケースバイケースながらも、真摯に誠実に相手と向き合っている人は、後から何か法的なトラブルになる可能性は少なく、その逆だと司法は助けてくれないということです。

ただ、男女交際に法律云々って話を持ち込みたくないですよね・・。そもそも一度あげたプレゼントを返してもらいたいなんて思っちゃダメですよね。

ちなみに、20代~60代の女性に聞いたアンケートで、女性が男性からもらいたいプレゼント価格の相場は約15000円で、逆に男性にあげたいプレゼント価格の相場は約11000円だそうです。男性陣、一緒に頑張りましょう!

※本記事は分かりやすさを優先しているため、法律的な厳密さを欠いている部分があります。また、法律家により多少の意見の相違はあり得ます。

福永法律事務所 代表弁護士

著書【日本一稼ぐ弁護士の仕事術】Amazon書籍総合ランキング1位獲得。1980年生まれ。工業大学卒業後、バックパッカー等をしながら2年間をフリーターとして過ごした後、父の死をきっかけに勉強に目覚め、弁護士となる。現在自宅を持たず、ホテル暮らしで生活をしている。プライベートでは海外登山に挑戦しており、2018年5月には弁護士2人目となるエベレスト登頂も果たしている。MENSA会員

福永活也の最近の記事