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餅をのどに詰まらせて死亡事故。製造業者は法的責任を負うか??弁護士が解説

福永活也福永法律事務所 代表弁護士
(ペイレスイメージズ/アフロ)

年末年始の時期には多くなる悲惨な事故ですが、本年1日にも、東京都内では餅をのどに詰まらせる事故が相次ぎました。

元日に餅つまらせ男性2人死亡、7人重体 東京

このような事故のケースで、製造業者は法的責任を負うのでしょうか?

(本稿では法的責任についてのみ触れており、社会的・道義的責任には触れません)

食品をのどに詰まらせる事故としては、こんにゃくゼリーが有名ですが、両商品を対比して解説してみたいと思います。

製造物責任法の概要

消費者が購入する商品は、通常、大きくは製造業者⇒販売業者⇒消費者と渡っていきますが、消費者は販売業者との間では売買契約という契約関係が直接成立していますが、製造者との間では何の契約関係も成立していません。

このような場合に、消費者が製造業者の責任を追及しようと思えば、本来、契約関係を前提としない不法行為としての責任追及をしなければなりません。

参照「民法第709条(不法行為による損害賠償):故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

しかし、不法行為責任を追及しようとした場合、消費者は、製造業者の過失を立証しなければなりませんが、商品の構造や製造過程等について専門的知識を持たない消費者が、製造業者の過失を客観的に立証するのは極めて困難です(ちなみに、契約関係がある場合の債務不履行責任については、業者側が過失がないことの立証責任を負うため、多少、請求が認められやすくなります)。

他方、産業が発展して、ある程度危険な社会活動が生じることが避けられない現代において、加害者にも被害者にもこれといった過失がないにもかかわらず、被害者に損害が発生してしまうケースも増えてきました。

そして、このように発生してしまう損害を被害者にだけ負担させるのは公平ではないとして、1995年7月に製造物責任法(PL法)が施行され、被害者は、商品に欠陥があることさえ立証すれば、製造業者の過失の立証を要しないこととなりました。

参照「第1条(目的):この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」

参照「第3条(製造物責任):製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。」

欠陥とは?

製造された商品に欠陥がある場合に、製造業者の責任が認められますが、ここでいう欠陥とは、「製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいいます(法第2条第2項)。

そして、欠陥の判断については、設計上の欠陥(製造物の設計そのものが安全性への配慮が不十分)、製造上の欠陥(設計そのものには問題なかったものの、製造の過程で危険が生じた)、指示・警告上の欠陥(製造物の特性上、一定の危険性が含まれることはやむを得ないものの、その危険を回避するための警告が不十分)等を総合考慮して評価されます。

製造物の特性も重視され、例えば、自動車や包丁のように、その製造物の効用そのものが一定の危険性を前提とする場合には、欠陥を否定する事情となります。

こんにゃくゼリーについてはどう判断されているか?

一般的に、餅とこんにゃくゼリーとでは、餅の方が長年日本の文化として親しまれてきて、かつ、のどに詰まらせる危険性のある食品であることが認識されているのではないかと思います。

そこで、餅に比べると、製造物責任を問われる可能性が高そうなこんにゃくゼリーの事案を調べてみました。

こんにゃくゼリーをのどに詰まらせてしまった事件について裁判になり、公表されているものは探した限り一件だけしか見つかりませんでした。

この事案では、被害者側からは、こんにゃくゼリーは、製品の外形上は、普通のゼリーと同じであり、食感も一見普通のゼリーと同じで、口の中で容易につぶせる食品であると認識されてしまう、幼児が食べることも想定されるが、ミニカップ容器に収まっているゼリーは勢いよく吸い込んで食べることが容易に想像できる、ゼリーには弾力性があってのどに詰まらないように小さく噛み切ろうとしてもうまく噛めずにそのまま飲み込んでしまうという特性がある等の危険性についての主張がなされ、他方、製造業者からは、客観的な統計資料ではこんにゃくゼリーよりも餅、ご飯、パンの方が事故率は高い、こんにゃくゼリーの商品の袋には、表にも裏にも警告表示が入っている、幼児が食べることはあるがその前に親等が商品を購入し安全性を確認して対応できる等といった危険性がないことの主張がなされました。

これに対して、裁判所は、事故があった当時(平成20年7月29日)、こんにゃくゼリーは広く消費者に認識されており、また、ただのゼリーとは商品特性が異なり一定の危険性があること、他方、それこそがこんにゃくゼリーの人気の理由であること、商品が収まっているミニカップ容器は左右非対称のハート型をしていて指で押して内容物を取り出せる改良がされていること、警告表示も十分であったこと等を認定した上で、製造業者の責任を否定しました(平成22年11月17日神戸地方裁判所判決)。

さらに控訴されましたが、やはり製造業者の責任は否定され、被害者の敗訴判決が確定しています(平成24年5月25日大阪高等裁判所判決)。

餅の製造業者の法的責任は?

以上のとおり、こんにゃくゼリーについては、製品の安全性に欠陥はないとして、製造業者の法的責任は否定されましたが、餅については、こんにゃくゼリーと比べて、はるかに昔から日本の食文化として受け入れられており、またのどに詰まりかねない粘り気こそが餅の特性であって、かつ、食べ方によっては一定の危険性が含まれていることも広く認識されていますので、基本的には製造業者の法的責任は否定されるのではないかと考えます(あくまでも一般論であって個別の事案によって、当然結論は異なります)。

ちなみに、商品が、製造業者⇒販売業者⇒消費者と渡っていった場合に、販売業者の責任についても問題となりますが、製造物そのものに欠陥がない以上、販売業者の責任を問うことも難しいのではないかと思います。

解説は以上ですが、もちろん、法的責任の有無に関係なく、事故が起きてしまうこと自体が悲しい出来事ですから、くれぐれもお餅等を召し上がる場合にはご注意ください。

※本記事は分かりやすさを優先しているため、法律的な厳密さを欠いている部分があります。また、法律家により多少の意見の相違はあり得ます。

福永法律事務所 代表弁護士

著書【日本一稼ぐ弁護士の仕事術】Amazon書籍総合ランキング1位獲得。1980年生まれ。工業大学卒業後、バックパッカー等をしながら2年間をフリーターとして過ごした後、父の死をきっかけに勉強に目覚め、弁護士となる。現在自宅を持たず、ホテル暮らしで生活をしている。プライベートでは海外登山に挑戦しており、2018年5月には弁護士2人目となるエベレスト登頂も果たしている。MENSA会員

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