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校庭に設置されているゴールが倒れて事故が起きた場合に学校はどのような法的責任を負うか?弁護士が解説

福永活也福永法律事務所 代表弁護士
(ペイレスイメージズ/アフロ)

1月13日(木)に、福岡県大川市で体育の授業中に児童がハンドボール用のゴールネットにぶらさがってバランスを崩して転倒し、直後に倒れたゴールの下敷きになって死亡するという悲惨な事故が起きてしまいました。

ゴールの杭3本、事故時は外れていたか 福岡の小4死亡

このように、学校などに設置してあったゴール(サッカーゴールやハンドボール用のゴールなど)が転倒して児童が怪我を負ったり死亡してしまったりした場合に、学校側はどのような条件の下、どのような責任を負うのでしょうか。

(上記ニュースに対する具体的な見解ではなく、一般的な事案を想定して、解説します)

一般的には、設置されたゴールが、本来的な使用方法をされた場合に十分な安全性を備えていたと言えるかどうかで設置者である学校側の責任の有無が判断されるのですが、では具体的に、どのような範囲であれば本来的な使用方法であったと言え、また、どのような安全性を備えていれば十分だと判断されるのかが問題となります。

そこで本稿では、過去の具体的な裁判例を考察しつつ、どのような場合に、学校側が責任を負うかについて解説します。

第1.岐阜地裁昭和60年判決

1.事案の概要

私立学校の校庭に設置されていたサッカーゴールのネットに複数の児童がぶら下がって遊んでいたところ、ゴールが転倒し、児童の一人が頭部を強打して病院に搬送されたものの、死亡してしまったという事案です。

転倒したサッカーゴールは、普段は四隅の脚の部分に鉄杭を打ち込んで地面に固定して動かない状態にされていましたが、事故の2週間前に行われた運動会で移動した際に杭が抜かれたものの再び固定されずに放置されていました。

2.責任の有無

転倒したサッカーゴールには、普段は打ち込んである鉄杭がされておらず、危険な状態にあったものと認定され、学校の責任が認められました。

3.賠償の具体的内容

被害児童の逸失利益(本来得られるはずだった収入)として約1200万円、両親にそれぞれ500万円(計1000万円)の慰謝料が認定されました(詳細は参照1)。

他方、この学校は、元々運営状況が悪く、人的・物的設備が不十分で、被害児童の入学も一度断ったものの、このような状況を知った上で再度申し込みがあったため入学を特別に認めたという経緯や、事故当時、学校側は被害児童を帰宅のためのスクールバスに乗せて待つように言っていたところ、被害児童自ら校庭に戻って遊び、かつ、被害児童の姉二人がサッカーゴールを揺すっていたところ、ゴールが転倒したという事情があったことから、被害児童側にも4割の過失相殺を認めました。

結果、約1500万円の賠償責任が認定されました(参照2)。

4.考察

転倒したゴールは、本来は杭で固定されているはずが事故当時はそれがされていなかったのは安全性に欠けると評価して、学校の責任を認めています。

他方、ゴールにぶら下がっただけでは、特別おかしな利用方法ではないことを前提としている点にも注目です。

第2.千葉地裁平成7年判決

1.事案の概要

市立中学校において、事故当時、ハンドボール用のゴールが、校庭で使用しないため校舎の裏側に設置されていたところ、この中学校の生徒ではない小学生が校庭を探検しに来た際、ゴールの前面に吊り下げられていたネットにぶら下がり、さらに、ブランコのように前後に揺れて遊んでいたところ、ゴールが転倒してしまい、被害児童がゴールの下敷きになり、脳挫傷、頭蓋骨骨折等の傷害を負ってしまったという事件です。

2.責任の有無

ゴールを設置した中学校は、設置管理者として、本来の用法に従って使用される限度で、事故が起きた場合には責任を負うが、校舎裏に設置された状態のゴールについて、被害児童らがネットを利用してブランコのようにして遊ぶことは本来の用法とは異なるし、学校がそこまでの事態を予測することもできないことを理由に、責任は否定されました。

3.考察

この裁判例では、ゴールは杭などで固定はされていなかったものの、ゴールの利用方法が、単にぶら下がったり、ゴールを移動しようとしたりして転倒したのではなく、ゴールのネットにぶら下がった上、ブランコのようにして前後に揺さぶった結果、ゴールの前方に児童の体重が一気にかかってしまって転倒したことを重視し、ここまでの利用方法は予想できないとして、責任が否定されました。

このように、ゴールを設置管理する安全性の程度については、本来の用法に従って予想される使用方法において安全性が確保されていたかが問題となり、あまりにおかしな利用方法をしたために事故が生じたとしても、学校側の責任は否定されます。

第3.鹿児島地裁平成8年判決

1.事案の概要

本件は学校の校庭ではありませんが、市が運営する一般公開前の運動公園内にサッカーゴールが設置されていました。

そして、複数の児童らが無断で公園内に侵入し、ゴールを使ってサッカーをしていたところ、ゴールの置き場所を移動させようと、前方に倒しかけたところ、ゴールの重さを支えきれずに一気に倒れてしまい、児童の1人がゴールの下敷きになり、病院に搬送された後、死亡してしまったという事案です。

2.責任の有無

被害児童らは一般公開前の公園に無断で侵入していましたが、公園には立入禁止のロープが張られていたものの、事実上自由に出入りできる状況で、好奇心の強い年頃の児童らが侵入することは予測できたこと、また、ゴールは立てたまま放置されていたが金具等で固定して保管されていたわけではなく、利用者がゴールの移動を試みて危険が生じることが予測できる状態だったといえ、通常備えるべき安全性を欠いていたと認定され、市の責任が認められました。

3.賠償の具体的内容

逸失利益としては約3700万円、両親にそれぞれ1000万円の慰謝料(計2000万円)などが認められました。

他方、被害児童も一般公開前で立入禁止であることを知りながら公園に入っていたこと等から、被害児童側にも2割の過失相殺を認めました。

結果、約3000万円の賠償責任が認定されました。

4.考察

一般的な感覚では、立入禁止の公園に入って事故が起きたのであれば、賠償責任なんて認められないと思う人もいるかもしれません。

ただ、立入禁止だったとしても、事実上、出入りすることが予想できるようなケースでは、それも予想した上で安全対策を講じなければなりません。

そして、金具等で固定されていなかったことから、公園側の責任を認めています。

第4.札幌地裁平成15年判決

1.事案の概要

市立小学校において、隣接する中学校に通っていた児童らが、無断で、校庭の脇にあったサッカーゴールを校庭内に移動させ、サッカーの自主練習をしていたところ、ゴール付近で遊んでいた児童らにより、ゴールが転倒し、その際、被害児童がクロスバーで強打し、骨折等の傷害を負ってしまったという事案です。

2.責任の有無

まず、裁判では、被害児童らがどのようにしてゴールを倒してしまったかについて争いになりました。

被害児童側は、事故時の状況について、ゴール内に被害児童が入り、ネットに背を向けてネットを両腕で掴んでいたところ、被害児童とネットの間にいた別の児童に背中を押されたところ、その勢いでゴールが転倒したと主張していました。

しかし、裁判所は、仮にそのような態様でゴールに力が加わったとしても、それはゴールを前方向へ水平に押し出す方向にのみ働き、ゴールを倒せるだけの力が働くとは思えないし、被害児童らも事故時の記憶があいまいで本当の事実関係についてはわからなくなってしまっているとして、どういう状況でゴールが倒れたかは不明であると判断しました。

そして、ゴールが倒れた具体的な状況が不明である以上、一般的にゴールが前方に倒れやすいものだったかどうかについて判断することになるものの、これまでこのゴールが倒れた事故が起きたことはないし、他に特にゴールが倒れやすいと評価できる事情はなく、ゴール転倒を予想して固定器具を設置する必要があったことも言えないとして、学校側の責任を否定しました。

3.考察

裁判では、本当の意味での真実はわからず、あくまでも当事者が主張した事実を基に、事実を認定して、法律をあてはめて判決を出していくのですが、この裁判のように、原告である被害児童側が主張した内容が不合理で認められなかった場合には、事実が認定されずに不明であるという前提で判決が出されてしまうため、不利になってしまうこともあります。

例えば、仮にゴールの上にぶら下がったところ、ゴールが倒れてしまったというのが真実で、そのように主張していれば、もしかしたらサッカーをしていてゴールにぶらさがることはサッカーにより好奇心と興奮が高まっている児童の行動としては予想できることで、それを前提とした安全性を確保しなければならないという判断がされたかもしれません。

結論としては、ゴールが特に危険性を有する状態であったことの立証がされていないことから、学校側の責任が否定されています。

総評

複数の裁判例を基に、学校などに設置してあったゴールが転倒して児童生徒が怪我を負ったり死亡してしまったりした場合の学校側の責任について考察していきましたが、ゴールが転倒しやすい状況にあったかどうかと、児童によるゴールの利用方法が予想できるものであったかどうかが判断の分かれるポイントとなりそうです。

具体的には、例えば、安全性については、本来は杭で固定することが想定されているにもかかわらず杭がされていない場合には安全性に欠けると判断され、また、利用方法については、児童がゴールにぶら下がったり、ゴールを移動させたりする最中にゴールを転倒させたのであれば、予想できる利用方法の範囲内と評価される可能性が高く、学校側の責任が認められるものと考えられます。

他方、体育の授業の前などに、ゴールにぶら下がることをきちんと注意していた等の事情があれば、責任が否定されたり、過失相殺が認められたりする可能性もあるかと思います。

いずれにしましても、ゴール転倒の事故はかなり多いようですので、学校や家庭で日常的に注意を促して、事故を未然に防いでいきたいですね。

参照1

亡くなった児童は就業前でしたが、少なくとも、当時の18歳の平均年収に相当する約140万円を、18歳から67歳までの約50年分は稼いでいたと認定されました。

ただし、児童が生存していたら、収入は得られるものの逆に生活費も発生していたはずということで、収入の半分が実際に得られたはずの利益と認定されました(つまり、約140万円÷2×約50年分)。

さらに、約50年かけて得られる収入を事故時に一気に請求できる分、割引がされ、結果、逸失利益は約1200万円と認定されました。

* 例えば、今、100万円持っていたとして、これを毎年運用していけば、10年後には200万円になっているかもしれません。逆に言うと、10年後の200万円は現在の100万円と同じ価値といえるわけです。このように、お金の価値は、それが実際にもらえる時点がいつなのかによって価値が変わると考えられており、逸失利益の賠償金額を算定する場合にも、本来は将来受け取るはずのお金を前倒しで一気にもらえる分、金額が割り引かれることになっています。

参照2

賠償額には弁護士費用分が付加されています。日本の民事裁判では、弁護士をつけることは義務となっていないため、弁護士に依頼をして弁護士費用がかかることになっても、これは損害には含まないことが原則です。ただし、今回のような不法行為の賠償請求については、例外的に弁護士を依頼するための費用も損害として認められ、通常、他の損害額の1割程度が弁護士費用の損害として認められます。

※本記事は分かりやすさを優先しているため、法律的な厳密さを欠いている部分があります。また、法律家により多少の意見の相違はあり得ます。

福永法律事務所 代表弁護士

著書【日本一稼ぐ弁護士の仕事術】Amazon書籍総合ランキング1位獲得。1980年生まれ。工業大学卒業後、バックパッカー等をしながら2年間をフリーターとして過ごした後、父の死をきっかけに勉強に目覚め、弁護士となる。現在自宅を持たず、ホテル暮らしで生活をしている。プライベートでは海外登山に挑戦しており、2018年5月には弁護士2人目となるエベレスト登頂も果たしている。MENSA会員

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