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SF映画級の驚異のシアトリカル体験! 〜TM NETWORK30周年コンサート報告書

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
TM NETWORK

『TM NETWORK 30th 1984〜 the beginning of the end』

2014年5月20日18時開場/19時開演 @東京国際フォーラム ホールA

●TM NETWORKがデビューしたのは1984年

小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登による3人組ユニット“タイムマシンネットワーク”こと、TM NETWORKがデビューしたのは1984年だった。日本ではアイドル&ロックバンド全盛時代、これまでに類のないコンセプチュアルな“3人組ユニット”としてシンセサイザーによるサウンドをベースとしてスタートした音楽プロジェクトは斬新だった。それこそ、海外のヴィジュアライズされたMTVムーヴメントと完全に同時代的にシンクロした次世代を見据えたアーティストだったのだ。

●タイムマシンのような宇宙船

そんな、TM NETWORKの39枚目のシングル作品となった新作ミュージックビデオ『LOUD』は、昨年さいたまスーパーアリーナ2DAYSでおこなわれた2013年『FINAL MISSION-START investigation-』のラストシーンから続いている。物語は、地球を調査する為に訪れた3人の潜伏者(テツ、ウツ、キネ)が1950年代のアメリカでのひと騒動をくぐり抜け、トレイン型タイムマシンのような宇宙船へ乗船するシアトリカルな演出がなされ、宇宙船内部のシーンが描かれいているのだ。

TM NETWORKの新曲『LOUD』は、TMならではのプログレッシヴかつファンタジーなポップチューンであり、歌詞は311を経て生み出された楽曲だ。人間を描いた深い意味合いを持っているメッセージ性の高さに注目したい。

とめどなく溢れる涙は拭かずに 僕らはもっともっと エモーショナルでいいのさ

出典:by 「LOUD」

●30周年公演スタート。セットは宇宙船内部!?

そして、時は2014年春。TM NETWORKは、30周年ツアーの1st seasonと設定した『TM NETWORK 30th 1984〜 the beginning of the end』公演のラストを、5月20日(火)東京・国際フォーラム ホールAでおこなった。

プロジェクトのプロデューサーである小室哲哉が影響を受けてきた、レジェンドなSF映画『未知との遭遇』や『2001年宇宙の旅』を彷彿とさせる、2時間のSF映画体験をコンセプトとしたステージ。会場には“回想”や”引き返す”という意味を持つタイトルの「Retrace(Opening)」が流れ、映画のようなオープニング映像からイントロダクションがはじまる。その映像が投射された半透明な幕があがると、そこには新作ミュージックビデオ『LOUD』の舞台である宇宙船のセットがあらわれたのだ。昨年の、さいたまスーパーアリーナでのステージが、壮大な森を表現していたこと同様に衝撃的な体験だった。今回は、コンサート翌日の即あげ報告書という事で、妄想力全開で謎を補完していきたいと思う。

宇都宮隆
宇都宮隆

●半透明なモニターがクールな近未来的ガジェット

オープニングの『LOUD』後には、制作途中なヒューマノイドらしき光る物体がおさめられた大きなポッドがあらわれ、TM NETWORKメンバーであるウツとキネが椅子に座り、半透明なモニターがクールな近未来的ガジェットを前に、プログラミングをはじめるシーンへ。物体は、コンサートの時間経過によって徐々に人間らしき形から女性へ。そして少女から赤ちゃんへ。時間を逆行するかのように姿を変えていく不可思議な生命体。いわゆる、謎かけのようなSFテイストな物語を、コンサートを通じて演出していく試みが、実験的ながら刺激的だ。

●ナイル・ロジャースとの親和性

「Come on Let's Dance 2014」、「Kiss You」など初期TM NETWORKの世界観を体現したファンキーなステージングは、それこそ洋楽アーティストであるパワーステーションやプリンスを彷彿とさせるかのようなアグレッシヴなパフォーマンスを体感させてくれる。キネが、ナイル・ロジャースばりのギターカッティングを魅せたことは、エレクトリックなダンスミュージックを奏でるユニット、ダフト・パンクがグラミー賞を受賞(※ナイル・ロジャースも参加)したことへのオマージュだろう。なお、TM NETWORKは1989年にリリースしたリプロダクション・アルバム『DRESS』で、ナイル・ロジャースとコラボレーションしている。

●プロジェクションマッピング風の映像によって様々な表情を演出

FANKS(※TMファンを意味する名称)号泣なレアナンバー「永遠のパスポート2014」や、デビュー曲である「金曜日のライオン 2014」(※中盤のラップテイストな早口ワードやアレンジは、テツと同い年であるプリンス「I Would Die 4 U」にも通じるハイセンスな展開!)、スペーシーな映像とともにEDMテイスト満載なシンセ・リフを強調した四つ打ちアレンジが絶妙な「Rainbow Rainbow 2014」、そしてコアファン以外にも知られるアルバム収録のヒットナンバー「Be Together 2014」では、楽曲の決め所でメンバー3人がクルっと回転するなど、見所も満載のステージングだ。今回、宇宙船内部を彷彿とさせるセットは、プロジェクションマッピング風の映像によって様々な表情を演出されていくのも見物だ。

木根尚登
木根尚登

●大人なTM NETWORKの歌詞の魅力

ここで、いっぱくの間が空き、MCが入るかと思いきや、そもそもTM NETWORKの主要ライブはショーに徹する事を目的とし、MCもアンコールもないことをお伝えしたい。そして、暗闇の中、ウツが宙に手を掲げながら、キネ作曲によるアコースティックながらもエッジーな名曲「CUBE」が突如披露される(※歌詞がマイナーチェンジされていた)。ラストにボーカロイド風な謎の音声メッセージを残していたのも気になるポイントだ。TM NETWORKのコンサートは常に謎かけの連続なので、一切気を許せない緊張感がある。そして、そのままメッセージ性の強い「I am 2013」へと続いていくところが、復活後の大人なTM NETWORKの魅力であることは言うまでもないだろう。そして、「I am 2013」ラストにウツに、ビビっとノイズが入り込むシーンにも注目したい。

What’s going on? It’s gonna be alright 大国のトップがシャウトしたって ほとんど世界はほほえまないから

出典:by 「I am 2013」

昨今のテツによる歌詞は、時代性をあらわしたメッセージ性の強い作品になっている。とはいえ、入り口はEDMセンス溢れるキャッチーなポップミュージックに仕上げているところは、時代に応じてヒット曲を産み続けてきたミュージシャンシップのあらわれなのかもしれない。とはいえ、楽曲のイントロやアウトロが延長され、プログレッシヴ・ロックのようにテクニカルにバンドセッションされるシーンは鮮烈だ。

●小室哲哉が鍵盤をハイキック

ストーリー展開において勝利宣言ともとれる「Just One Victory 2014」が披露され、テツによるソロコーナーが、「TIME TO COUNT DOWN」のピアノソロによるイントロダクション、そしてギターテイストな音色を奏でるシンセサイザーの進化を感じる映画『ぼくらの七日間戦争』のサントラを意識された「SEVEN DAYS WAR」のフレーズへと続いていく。そして、新曲かと思わせたフレッシュなEDMテイストなフレーズがリフレインしながら、テツがシンセサイザー上段に足を振り上げ鍵盤をハイキックすることによって特効が爆発し、TMアンセム「Get Wild 2014」へ突入する。神々しくもあるイントロのフレーズは、いまや海外へも通じるアニメーション文化を経由したヒット曲として、一人歩きしたナンバーとなっている。

●CAROLの存在とは!?

会場大熱狂な放電状態ななか、ふたたびウツとキネがプログラミングを開始。ヒューマノイド風物体が、1988年にリリースされたコンセプトアルバム『CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜』の主人公であるCAROLに近しい存在であることが映像で示唆される。もしかしたら、音楽を通じて“人間らしさ”や、“正しい心”をインプットすることが今回のコンサートのテーマなのかもしれない。そのまま、セッション風なプレイによって神曲「Self Control 2014」へと続いていく。

教科書は何も 教えてはくれない 明日のことなど誰もわからない おもいきり泣いておもいきり笑って 君をとりもどせ 夢をとりもどせ

出典:by 「Self Control 2014」

そして、ツアー初日である府中公演からの最大の進化のあらわれともいえる、「Beyond The Time」の荘厳で印象的なイントロダクションへ。ここでライティングを魔法のように操るウツのパフォーマンスの素晴らしさにも注目したい。

We belong to Earth 遥かな宇宙のもと コバルトに光る地球がある 悲しみはそこから始まって 愛しさが そこに帰るのさ

出典:by 「Beyond The Time」

●黒いバトンのようなモノリス

そして、生まれついてのエンタテイナーであるテツは、1987年の武道館公演『TM NETWORK FANKS CRY-MAX』でもキーワードとなった黒いバトンのようなモノリスを再び起用した。そのバトンはCUBEを司るキネ、そしてエモーショナルなオーラを発するウツの手へ渡り、スターチャイルドなCAROLがおさめられた小型ポッドへ。宇宙船から地球へ向けて降下していく映像美。ここで、TMが1988年に主題歌を担当したアニメーション映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』におけるワンシーンが思い浮かんだFANKSも多いことだろう。そしてシンクロするメビウスの輪をこえていく音像美。SFとは、人間の行いに対する神の介入に関する暗喩である。そんな難解なストーリーを、説明を一切する事無くシーンは展開されていく。

●タイムマシンによって時をこえていく大河ドラマ

そして、画面に浮かぶのは「Forward to London 1974」の文字。昨年のコンサート『FINAL MISSION-START investigation-』では、1950年代のアメリカにて黒服の潜伏者に連れられタイムマシンであらわれたはずのCAROLが、TM NETWORKの3人によって宇宙船でヒューマノイド?として育成され、そしてロンドンへと発射される。タイムマシンによって時をこえていく大河ドラマのような、ストーリーテリングの妙に驚かされる。

●“CAROL 2015”、“CAROL 1991”

なお、会場で販売されていたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』を生み出したGAINAXとのコラボレーションによるTシャツには、二人のCAROLが描かれ、それぞれ“CAROL 2015”、“CAROL 1991”とイメージされていたのは、パラレルに平行する二つの時代が交わるかのような今後への大きなヒントなのかもしれない。

目の前にあらわれた謎の少女CAROL。時にはヒューマノイド的物体、時には完成系の少女の姿。しかし、1988年を生きた僕らは答えを知っている。1991年に人類を救ったCarol Mue Douglasの存在を……(※木根尚登著 小説『CAROL』に注目!)。不可解な出来事がもたらす不安、潜伏者と名のるTM NETWORKの3人は宇宙人なのか? 地球人なのか? 未来人なのか? そんな未知なる存在が奏でるヒューマニティ。たたみかけるメロディが解き放つ、人類を導いていく旋律。しかしながら、誕生したばかりのCAROLという名のスターチャイルドは、キネに導かれ、よちよち歩きもそのままに、ヴォーカリストであるウツより赤いバトンを受け取り、無重力空間へと消えていく……。

小室哲哉
小室哲哉

●シアトリカルで型破りなコンサート

ひと月前の、初演である府中の森芸術劇場公演から進化を感じられるステージング。秒単位で変化する演出の数々に、コンサートは生き物だということを見せつけられた一夜だった。シアトリカルで型破りなコンサートながらも、ストーリーを紡ぐ起承転結のキーワードの数々を、80年代の歴史を彩ってきたTM NETWORKによるヒット曲がメッセージを浮かび上がらせる発明のようなセットリスト構造。こうして、物語の1st seasonである『TM NETWORK 30th 1984〜 the beginning of the end』公演は幕を閉じた。

そして映し出された2nd seasonの予告メッセージ「NEXT TM NETWORK WILL BE WINTER 2014 TO BE ANNOUNCED」。

その後、最終日のみ投影された「THANKS The FANKS!!」の文字。希代のコンサートを生み出すメンバー&スタッフから、TM30年の歴史を支えてきたFANKSへの感謝の想いを感じた瞬間だった。常に時代の先端を走り続けてきたTM NETWORKのコンサートは、シアトリカルな映画のような表現を取り入れることで、さらなる進化の領域へと足を踏み入れている。

TM NETWORKとは、究極のフィクション・プロジェクトなのだ。

2nd seasonなど今後の展開、そして作品としてのBlu-ray化を楽しみに待ちたい。

<SET LIST>

M01. Retrace(Opening)

M02. LOUD

M03. Come on Let's Dance 2014

M04. Kiss You

M05. 永遠のパスポート 2014

M06. 金曜日のライオン 2014

M07. Rainbow Rainbow 2014

M08. Be Together 2014

M09. CUBE

M10. I am 2013

M11. Just One Victory 2014

M12. TK Keyboard Solo

M13. Get Wild 2014

M14. Self Control 2014

M15. Beyond The Time

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音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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