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【デビュー45周年】仲井戸“CHABO”麗市、ルーツミュージックへの深い愛情が生み出す“いま”の音

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
仲井戸“CHABO”麗市 写真:三浦麻旅子

仲井戸“CHABO”麗市、デビュー45周年。

2015年9月16日(水)、13年ぶりとなる、新作アルバム『CHABO』がリリースされた。RCサクセションで共にした忌野清志郎との友情の物語、ブルースを軸とした様々なバンド活動。継承という名の進化。日本ロック史に刻まれる、最新の仲井戸“CHABO”麗市ワークスを全曲解説で紐解いてみよう。

仲井戸“CHABO”麗市 写真:三浦麻旅子
仲井戸“CHABO”麗市 写真:三浦麻旅子

【1971年~】フォークデュオ古井戸としてデビュー。

【1978年~】忌野清志郎と組んだ伝説のロックバンド、RCサクセションへの参加。

【1991年~】ストリート・スライダーズの土屋公平とユニット、麗蘭を結成。

【2012年~】中村達也(D)、蔦谷好位置(KEY)、KenKen(B)、前田サラ(SAX)と共に活動する新たなバンド、the day。

古井戸やRCサクセション、ソロ名義での活動、麗蘭やthe day。そしてCHABO BANDとして「雨上がりの夜空に」、「ミュージック」、「My R&R」、「ガルシアの風」など数々の名曲を生み出し続け、ロックシーンを駆け抜けてきた45年。この他にも、たくさんのセッションを様々なスタイルでプレイし続けてきたのが、ブルースとともに生きる仲井戸“CHABO”麗市だ。

そして、2002年にリリースした名盤アルバム『TIME』以来、13年振りのソロ・アルバム作品を2015年9月16日にリリースした。タイトルはずばり自身の愛称である『CHABO』だ。アーティストのアルバムで、セルフタイトルが名付けられた作品には名盤が多い。本作ももちろん最高傑作だと断言しよう。

『いつからか分からないけど、ずっとCHABOって呼ばれる人生を生きてきたからね、もうこれはCHABOとして作品タイトルにしてもいいじゃないかなって思いと、ある種の覚悟があったかも知れない。』

その世界感は、ブラック・キーズやシェリル・クロウでグラミー賞ベスト・エンジニアリング賞を受賞したプロデューサーであるチャド・ブレイク、エルヴィス・コステロの傑作『King Of America』を手掛けたプロデューサー、T・ボーン・バーネットなどを彷彿とさせる。決して古さを感じさせずに、オルタナ・カントリー的な“いま”のロックの匂いを漂わせているのが魅力だ。

収録楽曲は、この5年の間にライブで披露してきたナンバーが中心。レコーディングは2015年6月~7月の間に行われたという。作品には、気のおけないCHABO BANDのメンバーである早川岳晴(B)、河村“カースケ”智康(D)、Dr.kyOn(Key)。そして盟友である土屋公平(G)、梅津和時(alt sax)、片山広明(Tenor Sax)が参加している。

仲井戸“CHABO”麗市 写真:三浦麻旅子
仲井戸“CHABO”麗市 写真:三浦麻旅子
仲井戸“CHABO”麗市 写真:三浦麻旅子
仲井戸“CHABO”麗市 写真:三浦麻旅子

アルバム『CHABO』は、1曲目「やせっぽちのブルース」から飛ばしていく。いまもなお尖った少年の目線で、ロックやブルースを追いかけているのだ。疾走感がたまらないアイリッシュな2曲目「祝祭」、ファンキーな4曲目「QUESTION」、ハードボイルドな7曲目「雨!」など濃厚なナンバーたち。そして、ミュージシャンはもちろん、新しく事を成そうとしているスタートアップなIT戦士含め、あらゆる表現者に響くであろう5曲目「「僕等のBIG PINK」で...」、新宿を描いた9曲目「マイホームタウンの夜に」など、リリックで時折感じられるRCサクセションや、それ以前の思い出の匂いを感じさせるサウンドが胸を打つ。

そして本編は、様々なベクトルの楽曲を経て12曲目「灰とダイヤモンド」へと辿り着く。それはまるでロードムービーのようであり、ロックとブルースへ向き合い続けた仲井戸“CHABO”麗市から愛すべきロックンロールへの返答のように思える。そして、深い人生を描き出す13曲目「川」。続くラストナンバー14曲目「Season」では、時空を超えてハッピーエンドを予感させる領域まで踏み込んでいく。まるで、ビートルズの傑作『Abbey Road』のラストへの流れを思わせる展開だ。

『13年振りのアルバムなんだけど、本当はもっと早い時期にレコーディングしたかったんだよね。でも現実の自分としては、スタジオに入る気力というか、必要性とか、簡単に言うとそんなじれったいことをやる気になれなかった。それに自分が置かれた環境では出来なかったんだ。自分の出来る仕事っていうのは日銭を稼ぐためにステージ立ってギター弾いて歌うっていうね。……自分の両親の問題もあったりね。こんなことは言わないほうがロックっぽいんだけど。そういうことから逃げていた現実を叩き付けられていたから、スタジオなんか入ってる余裕ねーよって思っていて。でもスタッフがね、背中を押してくれたんだ。具体的に45周年っていうことを言ってくれて。それでライブがメインなんだけど、やっぱりアルバム作品も残しておきたいなって思ったんだよね。』

9月6日、仲井戸“CHABO”麗市は、今年で改装される思い出深い渋谷公会堂にて、古井戸~RCサクセション~麗蘭~ソロ~CHABO BANDの楽曲をプレイするアニバーサリー・ライブを行った。このライブを経て、集大成と言える傑作アルバム『CHABO』をリリースしたのだ。現在64歳。前人未到のロックンロールのワインディング・ロードは続いている。仲井戸“CHABO”麗市が指し示す芳醇な音楽の羅針盤に、僕は“いま”とても興味を持っている。

『俺の場合、ビートルズとの出会いが人生の決定打だったんだ。自分にとってのアイドルだよね。まぁストーンズやキンクスやビーチボーイズみんな含めてなんだけど、やっぱり象徴としてのあの4人はどう考えても決定的な人たちだった。ガキの頃はもうファッションとか、ズボン細くていいんだとかね。先公の言うこと聞かなくていいんだとかね(苦笑)。そういう無邪気な憧れだと思うけど、たくさんのことを学んだんだよね。』

仲井戸“CHABO”麗市の最新アルバム作品『CHABO』について、アルバム発売前に本人にロングインタビューした発言をまとめた全曲解説をお届けしたい。読んでから聴くか、聴いてから読むか。全曲のリリックビデオとともに、アルバムの楽しみ方のガイドにしてもらえれば幸いだ。

【アルバム全曲解説】『CHABO』仲井戸“CHABO”麗市

1.やせっぽちのブルース

濃密な世界感を持つ、ロカビリー・タッチでマイナーなイメージのロックンロール・チューン。前に出てくるギターサウンドなど、ライブを意識されたであろう音作りがテンションをあげてくれる。

『今回、プリプロはDr.kyOnと2人でやったのね。基本的にはアルバムすべてのイメージは俺が持っていて。まず2人でスタジオに入って、デッサンしながら作り上げていったんだ。この曲にはこだわりがあって、ある種自分をトータルに象徴出来るような……、それは詞の世界かもしれないし、テンポ感かもしれない、まぁ演奏かもしれないんだけど。この14曲の中で頭に持ってくるのはこの曲しかないなって思っていたんだよね。歌詞はね、俺は昔からいつもノートを持って歩いてるヤツだからね(苦笑)。自分がその時思った断片をちょこっとずつノートに書いていたの。結局歌にしたいってことなんだ。そこから逃れられない自分を知っちゃっているからね。ともかく歌にしないと自分はおさまらない。ただそれを歌にするのはやっぱりなかなか大変で。もっと言えば曲ばっかりたまっちゃっているから(苦笑)。言葉はほんとに後になるワケ……。この曲は、“やせっぽちのブルース”ってフレーズがあったんだよね。なんかこうバラバラに書いた言葉が、ある日急にまとまりだしたんだ。レコーディングも3テイクぐらいで勢いよくパーンといった気がするな。』

2. 祝祭

ライブでも、よくやられているオープニング感あるナンバー。イントロから鳴り響くヒーロー感がたまらない。実は、the dayでもライブで披露された事がある楽曲。レコーディングされようとしたこともあったという。

『俺にしちゃ、ちょっと元気風なナンバーかな。アッパーに持っていきたかったんだよね。アルバムってバランスだと思うから。シリアスな、どっしりとした、ヘビーな曲があったら対極な楽曲を作りたくなるんだよ。でも、詞自体は軽くはないんだ。アッパー感はDr.kyOnかな。いろんな楽器が出来るから、アコーディオン弾いてよとか、マンドリン弾いてよとかね。ちょっとアイリッシュの匂いを出してもらって。早川(岳晴)もウッドベースが出来るし、みんなちょっとずつ違う楽器が出来たりするからいいよね。』

3. オーイっ!

CHABOが敬愛するCCRを彷彿とさせる、骨太な質感のギターリフがインパクトあるナンバー。歌詞では“老い”をテーマにしながらも、ロックで笑い飛ばすかのような、爽快なロックンロールに仕上げている。

『これはね、村上ポンタと吉田建とのトリオで3Gっていうバンドを、短い期間だけどやってたんだよね。その時に生まれた曲。3Gでアルバムを作ろうって言ってたんだけどなかなか実現出来ずで……。3,4年前になるのかな。でも、残したい曲はいくつかあったんだ。CCRのカバーは昔からやっていたんだけど、オリジナル曲で欲しいなって。ジョン・フォガティが大好きでね。で、“オーイっ!”なんて言葉が生まれたんだよ。でも、笑い飛ばすようなね気分でね。この年齢で書ける歌をいろいろ探していたんだ。年齢的には最高峰のチャック・ベリーが上にいるけど、80歳になろうが女の子と車乗っていてね。それはもうすごくて(苦笑)。その域に辿り着いてみたいけど、それははるかな道のりだから(苦笑)。でもやっぱり俺は40歳なら40歳、50歳なら50歳、60歳なら60歳で良いことも悪いことも、その日1日を歌にしたくなるタイプだから。いまさら40歳の歌を書こうと思っても自分じゃリアル感が無いから書けないしね。そしたらやっぱり腰がいてえな~、なんだか視力落ちたな~とか。それをシリアスに歌う場合もあるし、こんな風にちょっとロックで飛ばしてみたりね(笑)。で、40歳のヤツには書けないだろうみたいな。まぁ40歳のヤツも書きたくもないだろうけど(苦笑)。だけど、こんな歌を書いてる自分はまだまだ小僧だと思うね。大人ぶって書いてるような顔して歌ってるけど、全然小僧だと思っている。ほんとに感じていたら歌えないはずだからね。だからまだ全然小僧なんだって思ってるよ。』

4. QUESTION

ニューウェーブ色を感じさせるナンバー。俯瞰で疑問を投げかける歌詞の魅力。最後の「未来という時間の量と、過去という時間の量じゃどちらが多いんだろう」という考察。大人はもちろん、子供たちにも聴かせたい楽曲だ。

『大昔ね、「なぜだろう なぜかしら」って子供向けの本があったの。俺のガキの頃だから相当昔だけど、ずっと頭に引っかかってた本があって。なんか大人になっても“なんでだろう?”ってことが多くってさ。そんな発想から生まれた曲なんだ。なんかね、いくつになったって、この世界で悲しい人と嬉しい人、どっちが多いのかな?みたいな……。アレンジは、もともとスカというか、速いレゲエみたいだったんだけど、なんかちょとサウンドを変えたくて。ヒップホップじゃないんだけど、ちょっと好きなギタリストでロニー・ジョーダンって人がいて、そのアルバムを聴いてる時に、こんなタッチで出来ねぇかなーって発想があって。Dr.kyOnにアイデアを相談したら発展したんだよね。梅津、片山君も入ってくれて、ちょっとソウルの匂いというか、ファンキー系だね。この曲も4,5年前かな。なんでその頃の曲が多いかというと、当時、大好きな南青山の曼荼羅を拠点にして、セッションをいろんなヤツとたくさんやってたんだよね。結果、その時代に産まれた新曲が多いんだ。』

5.「僕等のBIG PINK」

ロマンティックなナンバー。何者でもない人間が、何かを始める時の覚悟を感じさせてくれる歌。いまでは、スタートアップを試みる人たちにも刺さるかもしれない。音楽はすべての文化に溶け合い、時代を越えていく

『これはある種アコースティックな。アルバムのバランスでいうと、こんなタッチの曲もきっといいなって思ったんだよね。曲調からしてちょっと豊かなあたたかいサウンドかな。タイトルの“BIG PINK”っていうのは、ザ・バンドとボブ・ディランが一時借りていた住居の通称なんだ。ザ・バンドが俺たち、清志郎くんも大好きで、ザ・バンドは一つの目標だったんよね。とてもあんな風には出来ないんだけど、ザ・バンドが大好きで。ウッドストックっていう街がニューヨークから2時間くらいのところにあって、“BIG PINK”って大きなアトリエがあって、そこに彼らは籠って音楽を作っていたって話に憧れてさ。1980年頃かな、自分たちもそんなアトリエがあったらいいねって話をしていたのよ。結局それは憧れで終わったんだけど、そんな僕らの“BIG PINK”への思いを歌にして……。こんな夜があったんだ。屋根に上っていた、みたいなね。』

6. 何かいい事ないかな?子猫ちゃん

遊び心あるロック・アレンジにリリックの言葉選びのセンス。曲自体は古く、麗蘭の活動時にセッションで生まれた楽曲だという。リバプールサウンドを彷彿とさせる、自身の琴線を振るわす時代を感じさせるナンバーだそう。

『これは60年代の洋画の映画のタイトルなんだ。ウディ・アレンが脚本・出演で、面白いタイトルだなって思って。主題歌をトム・ジョーンズが歌ってヒットしたんだよね。俺、ずっと猫を可愛がっていたからね。歌詞は言葉遊びだよね。“あのいかれた連中”は、“Let You Down”からね(苦笑)。それこそ俺が一番聴いて育ってきたリバプール・サウンドに近いかな。ビートルズやストーンズ、ロンドンやニューカッスル、マンチェスターを含めて当時リバプール・サウンドなんて呼んじゃってたんだけど、そんなサウンドへの自分の想いかな。』

7. 雨!

イントロからギターリフが強烈。ハードボイルドな展開に注目したい。ライブでキラーチューンになりそうなナンバー。背景としては、3.11の影響で生まれた楽曲だという。歌詞を読み解けば、その真意が伝わるはずだ。

『これはね元々ストーンズのカバーでやっていた日本語詞があって。いつも俺、カバーって大体そうなんだけど、ミックの書いた詞とは全く違くなっていて(苦笑)。テーマは、実体験の嫌な雨をイメージしていて、ストーンズの楽曲にこの詞を乗せていたのね。ある時期からライブでポイントになる曲になっちゃって。そのままレコーディングしたかったんだけど、いまは権利的にストーンズの曲は日本語詞に絶対できないからね。でもこの詞は残したくて、今回曲を新たに書いて形にして……。イントロのギターは、元々のストーンズの曲が強烈なリフだったんだ。なのでテイストを残してみた。』

8. ま、いずれにせよ

ジャズな匂い。人生を歌っているナンバー。the dayでも、違う詞で近いタイプの曲をやられている。メンバーが違う事でニュアンスは大きく変わっている事にも注目したい。人のチカラで、色合いが大きく変わってくるのだ。

『基本的に俺は、楽曲がしっかり出来ていないとスタジオ入れないんだ。8割方自分の中でみえてないとレコーディングには入れなくて。この曲はDr.kyOnにイメージを伝えてプリプロして。“ま、いずれにせよ”なんて日常でもよく使う言葉だし、ある種の便利な言葉で、確信がないときにちょっと使っちゃうようなね。そんな発想なんだ。ライブでもやりはじめている曲なんだけど、ちょっとビート感が他と違うから、アルバムの中でもバランスとしていいかなって。』

9. マイホームタウンの夜に

ポエトリーディング風に、CHABOが愛する新宿の街、時代を歌っているナンバー。バイクや街の音、SEが醸し出すリアルな雰囲気。アコーディオンが哀愁漂わせるドラマティックな情景を、最終バスに希望を込めて描き出している。

『これも(村上)ポンタと(吉田)建とのバンド3Gで生まれたんだよ。俺は生まれも育ちも新宿でね。新宿で遊んで新宿でとっつかまってとかそういう子だったから(苦笑)。ずっと新宿の歌を書いてきたんだけど、実際のふるさとは家としてはもう無くて。おふくろもオヤジもいなくなって。でもいまだに新宿を彷徨っちゃうんだよね……。この曲は、3Gをやってる時に、建が電話してきてヒントを与えてくれて生まれた曲なんだ。それこそ新宿に映画を観にいって、帰りのバスを待ってる時にね、建が電話してきたんだよ。何やってんのCHABO?みたいな、うるせえ今バスを待ってんだよ!くらいの感じで(苦笑)。オーティス(レディング)なんかを聴いてたんだよね。建、今オーティスを聴いてバスを待っているんだよ、奥さんといっしょにね。とてもいいシチュエーションだから電話切るぞ!みたいなこと言ったら、建が、今CHABOが喋ってることはとてもいい話だから歌にしろって。おい、簡単に言うなよ、お前うるせえな(苦笑)。って切ったんだけど、とてもいいことをあいつ言ったなと思って(苦笑)。なんか自分でも、その夜の事を歌にしたくなったんだ。自分にとってのふるさと新宿の景色を描いたっていう。だから建ちゃんには感謝してる(笑)』

10. MY NAME IS CHABO

アルバムのタイトル、自身の愛称であるCHABOをテーマにした遊び心あふれるナンバー。それこそベックなど“いま”のセンスを感じさせるナンバー。レコーディング・マジックから生まれる瞬間の録音芸術の面白さ。

『俺にとってビートルズはレコーディングの教科書なんだ。ビートルズは短い曲をたくさんやっていたよね。特に『ホワイトアルバム』なんかで。そういうことが俺には染み込みきっているからさ、スタジオでの遊びっていうかね。そんな話をDr.kyOnに話して作ったナンバーなんだ。「MY NAME IS CHABO」っていうのは渋谷公会堂でのライブのタイトルでもあるんだ。スタッフが付けてくれた。楽曲としても残したいんだっていうことだね。』

11. 歩く

手掛かりの積み重ねで一歩ずつ前に進めるという、自らの経験を歌にした想いの強さ。テーマは、大事な事を継承していく連鎖の大切さ。人を思いやる心。時代は続いていくという想像力の重要性。元気を貰えるロックナンバーだ。

『これは麗蘭として、(土屋)公平くんと数年前からやり始めた曲なんだ。歌詞としても、作品として残しておきたかった曲で。京都で年末にやった麗蘭のライブ盤にも入れてるんだ。でも、スタジオ版で作っておきたかったんだよね。公平に承諾を得てね、参加もしてもらって。それこそ麗蘭は、元々セッションやろうよって始まったんだけど、RC(サクセション)よりも古井戸よりも長く続いているね。大体いつも10年くらいで終わってるんだけど、公平くんとは20年以上続いているね。それは2人がバンドを経験してきただけに、バンドの良さも難しさも知っている2人だったから続けられたような気がする。難しいことを抱え込んだら壁を乗り越えるのはやめよう、終わろうって前提で付き合えていたからね。結果的に長くなって。しょっちゅう会ってないからこそ逆に新鮮だったりね。大事な友人でもあるし。それこそ、あいつは誠実なヤツだから、俺みたいないい加減にやってきたヤツにとっては突きつけられるようなヤツだったんだよ(苦笑)。年は10個も違うけど、たくさん彼から学んだことがあるね。この曲はね、自分の年齢からして歩くってこと自体をテーマにするのはまだちょっと早いかなと思ったんだけど、まだヨタヨタはしてないけど、そういうことを少し背中には感じているんだよね。自分の年齢からすると、歩くっていうことは人生の一つの象徴なんだよね。歩いていかなきゃなとか、歩いていきたいなとか、歩けなくなった連中もたくさんいるとかね。それは音楽に限らず、俺は自分の子供はいないけど、何か自分で学べたことが誰かに伝わってくれたらいいなって思ったんだ。』

12. 灰とダイヤモンド

45年の歴史で、バンドマンCHABOが辿り着いたひとつの答えなのかもしれない。イントロから泣きのギターがたまらない。レゲエ風なリズム、響く電子音のサイケデリックさ。そして、センチメンタルな感情を誘発させる言葉たち。

『タイトルは映画からだね。タイトルが良いなと思って、そんなテーマから生まれた曲なんだ。灰のイメージは、ある種人間として終わっていくような……。人間だけじゃないけど、そんな場面にいろいろ遭遇したりね……。自分が本当にいなくなる時に、何が残るのかな、灰が残るのかな? イメージとしてはしょうがないヤツだったけど、ロックンロールってスピリットくらいは残したいなっていう。そんな自分の想いみたいなことを歌に残したいなって思ったんだ。バンドマンの誇りだよね。バンドマンなんて世の中的には厳しいじゃない?(笑) 過去にも描いているんだけど、この年齢であらためて残しておきたかったんだよね。楽曲のイメージは、スライドギターはジョージ・ハリスンなんだ。ジョージ(ハリスン)のスライドが大好きで、そんなアレンジの外枠は出来ていて。最後の方ではトーキングで“アイアムバンドマン、マイビジネス”みたいなことを録音して。聴こえ方が少しサイケデリックなのは、もう少し聴こえづらくしたいっていうかな、あんまり生々しくバンドマンが俺の仕事だっていうのは言わなくていいんじゃないかって思ったんだよね。音の作りに関してはそんな発想があって。でも力強く宣言したかったって裏腹な想いもあって。でもさ、俺はバンドマンとして生きてきましたっていう。やっぱり誇りに思いたいよね。』

13. 川

シンプルながらも深い歌詞。人生で最も大事なものを描いたリアルな想い。後半、時空を歪ませるようにギターサウンドにダブなエフェクトが色濃くかけられていく。音楽は時代を越えていくタイムマシンである事を思わせてくれた。

『これもここ4,5年で書いた曲だね。ライブで梅津和時が遊びに来て、横で吹いてくれたことがあって、その時はもっと長い詞だったのよ。いろんな展開もあって。でも、作品にする時にこれは余分だな、この部分だけあればいいかなって、最後に残ったのがこの詞だったんだ。川っていうイメージのもとに残した言葉、いろんな背景で生まれた歌かな。あ、ジョン・レノンのイメージでもあるかな……。曲調としての作り方というか、ジョンの「GOD」というか。質感がとても好きで、サウンドもそういうことを狙いたかった。リンゴ・スターのシンプルな刻みとベースね。あとは何もなくていいっていう。音のイメージにはそういうのがあったね……。エンジニアの山口くんには、最後は混沌としちゃいたいんだみたいなことを伝えたね。油絵で言えば、凄く濃い絵の具を塗っちゃうようなねイメージというか。歌詞の友達っていうことでは、(忌野)清志郎君でもありつつ、清志郎君じゃない友人でもあるし、自分も含めて皆にとって友達ってどういうことかな?って想いもあったりね。』

14. SEASON

イントロの高揚感あるピアノから、幸せな気持ちを伝えてくれる。アルバムの中で、一番最後に生まれた曲だという。サウンドは、ビートルズ的でもあり、コーラスはクロスビー、スティルス&ナッシュを感じさせる。

『幸せな気分の曲だって言ってくれるのはとても嬉しいね。それこそ新宿に映画を観に行くような景色。曲のイメージをDr.kyOnに伝えたら、コーラスをDr.kyOnが考えてくれた。この曲を、最後に置いたのには意味があって。それこそ「川」で終わろうかとても迷ったんだよ。でも、「川」だとちょっと重たくてね。もっと救いがあって終わりたいなって。少し幸せな歌で終わりたかったから。聴いてる人にもそれを感じて貰えたら嬉しいね。音楽が好きで良かったなと思える曲。自分もそういう風に思いたいんだ。曲順はね。ほんとに考えたね。もともと俺は、ライブもそうだけど曲順は死ぬほど悩むんだよ。それこそ今はダウンロードで曲が買えるじゃない? すると、作る側がどれだけ考えてもポンポンって飛ばして聴く、自分だってそういう聴き方してるところがあるけど、アルバムは1曲目から最後まで流れを大事に作りたいんだよね。楽しんでもらえたら嬉しいね。……こうやってアルバムが完成して、9月6日に渋谷公会堂でライブをやるんだ。初めて古井戸が大きなリサイタルをやったホールなんだよ。RCで初めてお客さんが総立ちになったとかね、とても思い入れ深い小屋で。なので、壊されてしまうのは残念だね。でも、時代の流れだよね。街の風景も大きく変わったもんな。そんななか、こうやって45年も音楽活動できているのは幸せな事だよね。すごくそう思う。感謝しかないよね。』

2015年8月12日(水)/渋谷にて

仲井戸“CHABO”麗市 オフィシャルサイト

アルバム『CHABO (+ボーナスCD)』仲井戸“CHABO”麗市

仲井戸“CHABO”麗市『CHABO』 写真:おおくぼひさこ
仲井戸“CHABO”麗市『CHABO』 写真:おおくぼひさこ

【収録曲】

1. やせっぽちのブルース

2. 祝祭

3. オーイっ!

4. QUESTION

5.「僕等のBIG PINK」で...

6. 何かいい事ないかな?子猫ちゃん

7. 雨!

8. ま、いずれにせよ

9. マイホームタウンの夜に

10. MY NAME IS CHABO

11. 歩く

12. 灰とダイヤモンド

13. 川

14. SEASON

-Bonus Track CD-

・NOW I'm 64

・ブルース2011(LIVE)

・セルフポートレート2015

※【HMV限定特典】 特製A5クリアファイル

ローチケHMV

音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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