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秋元康×前田裕二(SHOWROOM) 気になるテレビの未来、ネットの未来のこれから。

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
カルチャー雑誌『SWITCH 5月号』〈SWITCH PUBLISHING〉

エンタテインメントの再構築とでもいうべき、動画配信サービスが活性化してきている。いちはやく認知を勝ち取ったNTTドコモとエイベックスによるdTV、格安な年会費で別途サービスも魅力なAmazon プライム・ビデオ、日本テレビが運営に関わるHulu、アメリカから上陸したNetflixなどの定額制の動画サービスなどが、“スマホ世代”を中心に利用者を増やしている。

そんな群雄割拠の動画配信戦国時代に、サイバーエージェントとテレビ朝日が仕掛ける無料で1日24時間24チャンネルを売りにしたインターネット・テレビ局AbemaTVが話題を集めている。きっかけはサービス開始直後に起った熊本での地震だ。24時間、報道をオフィシャルに届けるニュース・サービスが需要にマッチしたようだ。

https://abema.tv/

レンタルビデオを借りるように楽しむ見放題型の動画サービスと、テレビ番組のプログラムをネットに置き換えたような24時間配信されるサービスの活性。さらに、スマホでは、若い世代を中心にツイキャスやSnapchat、MixChannelなど、SNSでのコミュニケーションを活性化する動画編集、配信アプリも人気だ。もちろん、LINE LIVEや、YouTube、ニコニコ動画からは面白い人材が誕生しつづけていることも見逃せない。

ひとくちに動画配信サービスといっても様々なスタイルや目的を持っていることがわかるだろう。しかし、どれもテレビの未来、ネットの未来を見据えてのイノベーティヴな試みであることは間違いない。だが、スマホやPCの画面上におけるワンウインドウの奪い合い、可処分時間の取り合いと言われる戦いでもある。大事なのは、ユーザーにとって自分ごととなる価値観の提供、人生を変えるような宝物となる気づきの提示なのかもしれない。

そんななか、マツコ・デラックスが表紙で書店でも目立つカルチャー雑誌『SWITCH 5月号』〈SWITCH PUBLISHING〉にて、17歳から放送作家としてテレビやラジオの番組作りに携わり続ける秋元康と、ライブ動画ストリーミング・プラットフォームSHOWROOMを立ち上げた前田裕二(SHOWROOM 株式会社代表取締役社長)による、30歳近く年の離れた、世代も価値観も異なる対談でのトークが面白かった。

https://www.showroom-live.com/

SHOWROOMのサービスの特徴は、動画インフラとして利用者に場を提供するシステムであり、視聴者が有料のギフトを購入して演者に贈るビジネスモデルが注目を集めている。誰もが思い浮かべ、あったらいいなと考えたことのある投げ銭システムを、演者やユーザーに根付かせたことが興味深い。“いいね”を求め白熱化する承認欲求を、エンタテインメントのビジネスモデルに落とし込んで可視化した試み。動画閲覧自体は無料。しかし、配信者を応援したい気持ちを持つ全体視聴者の上位数パーセントのユーザーによる投げ銭に支えられているという仕組みが面白い。オープンでありフリーミアム。もしかしたら、いまの時代にフィットした健全な形なのかもしれない。

そもそも、昨今“テレビがつまらない時代”という問題定義は多い。しかし、テレビ局が生み出す番組コンテンツのなかには『月曜から夜更かし』、『ドキュメント72時間』、『ワイドナショー』、『家、ついて行ってイイですか?』、『連続テレビ小説・とと姉ちゃん』、『Youは何しに日本へ?』、『おそ松さん』などなど、常に面白い番組が次々と生み出されている。コンテンツが玉石混交なのは、ネットでもどんなメディアでも同じだ。テレビがつまらないという指摘の本質的は、使い勝手などのユーザーインターフェースや、体験としての仕組みの問題だと思う。『SWITCH 5月号』での対談では、そんな本質に触れたコンテンツ議論が興味深かった。

「今がコンテンツの時代だと呼ばれていることは確かで、放送であるテレビと通信であるネットの垣根はもはやなくなっている。 テレビとネットは共存できるし、融合することもできると思う。」(秋元康)

出典:雑誌『SWITCH 5月号』〈SWITCH PUBLISHING〉

ゲーム感覚で、双方向性ある楽しみ方を打ち出せる自由度の高いネット番組では、マスで注目されるであろう新たなスターの誕生を発掘する現場としての価値も求められているのかもしれない。

「ネットは先ほどお話したようにボトムアップで局地でニッチな面白さを生むことに長けている。でもそれを拡張して世の中のあらゆる人達に知ってもらう力は弱いと思うんです。一方でテレビは、基本的にはディレクターさんたちがこれは より多くの人たちに受け入れられるんじゃないかと考えて番組を作り発信して いくトップダウン型だと思っていて。そのやり方では生まれえないものをネットであれは作ることが可能だと思います。互いに足りない部分を補い合いながら共存していく方向性を探っていくべきだと思います。」(前田裕二)

出典:雑誌『SWITCH 5月号』〈SWITCH PUBLISHING〉

世代や考え方の違うプロフェッショナルな2人が、4ページに渡ってテレビとネットの未来について本気で語り合い、各インフラやメディアの適正なポジショニングを考える議論。テクノロジーを用いたITの世界でも、コンテンツやメディアを作るのは人だ。人間力が成せる技だ。ここからまた、新しい熱量の高いプロジェクトが生まれたらと考えるとワクワクする。

音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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