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電力の自由化や事業分離で、災害時の電気は大丈夫か?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

火力に頼る現状

水力発電施設の新設が困難となり、福島原発以降の全国各地の原発停止もあって、私たちの国の電気は火力発電所に頼っています。平成26年度の発電電力量は、火力が87.8%、水力が9%、水力を除く再生可能エネルギーは3.2%でした。再生可能エネルギーは増えてはいるものの、変動の激しい太陽光発電や風力発電を活用するには、変動分を補う火力発電所が必要となります。現状は、地域の電力会社が、太陽光発電量を監視しつつ、需要量に応じて火力発電所の発電量を調整して、電気を安定供給しています。さて、電力自由化後もうまく調整ができるでしょうか。

災害危険度の高い場所にある火力

火力発電所は主に、石炭、石油、LNGの3種類を燃料に発電をしています。現在は、半分強がLNG、1/3強が石炭、残りが石油になっています。発電には、膨大な燃料と冷却水、広大な敷地を必要とします。このため、沿岸部の埋め立て地に作られることが多くなります。結果として、津波や高潮、揺れや液状化など、災害危険度の高いところに建設されることになります。東日本大震災でも、多くの火力発電所が津波被害を受け、再稼働に1~2年を要しています。このため、被災地では計画停電が実施されました。

火力発電に欠かせない燃料

津波を伴う大規模地震では、タンカーが通る航路が瓦礫などにより閉塞される危険性があります。また、タンカーが接岸する岸壁が損壊すると、燃料の受け入れが困難になります。航路の啓開を速やかにしないと、例え発電所が無傷でも、燃料不足に陥り発電再開ができません。大規模地震では、浚渫船の数も限られ、航路啓開は困難を極めます。また、岸壁は液状化による側方流動対策が必要です。

水が無ければ動かない火力発電

タービンを回した蒸気を水に戻すには冷却水が必要になります。取水口や、取水路・放水路が健全である必要がありますが、これらの設備は液状化しやすい地盤にあります。万全の液状化対策が欠かせません。また、石炭火力発電所では排ガスの脱硫のため大量の工業用水を必要とします。河川から発電所までの工業用水の耐震対策が不可欠です。

発電所から我が家への遠い道のり

発電した電気が我が家に届くには、長い道のりがあります。発電所から、超高圧変電所に送電され、さらに、1次変電所、中間変電所、配電用変電所へと送電されます。そして、変電所から電柱を通して電柱の変圧器に届き、引込線を介して配電されます。これを各家庭で受電してメーターを介して分電盤を通った電気を使います。送電、変電、配電、受電のすべてが健全で、かつ、家庭内も無傷のときに初めて電気が使えるということです。ちょっと心配になります。注意しておく必要があるのは、電力会社が責任を持って直してくれるのは、送電、変電、配電までで、引込線取付点より家庭側の受電は私たちの責任だということです。いざという時には電気屋さんは配電の修理に忙しくて各家庭には来てくれないでしょう。日頃からのメンテナンスが肝心です。

電力自由化で気を付けたいこと

電力の自由化で、電力事業者が、発電事業者、小売事業者、送電網事業者に分離されます。小売事業者は、安価で多様なサービスを提供するため、少しでも安い電力を望むと思われます。このため、発電事業者は、発電コストを抑えることを目指すでしょう。この結果、施設の安全性が低下したり、電力供給力の余力が減ることが懸念されます。電気が無くては成り立たない社会に生きている現在、大規模災害時に、広域で電力供給が滞ることは許されません。どんなことがあっても電気を安定的に届けることができる体制を公的に整えておく必要があります。一方、節電に加え、太陽光発電や燃料電池、蓄電池など創電を加えれば、大規模停電対策にもなります。公と私が適正に役割分担し、より良い社会を作っていくことが望まれます。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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