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地震に強い鉄筋コンクリート 弱点を補い合う相思相愛の鉄とコンクリート

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

セメント、モルタル、コンクリートの違い

私たちの周辺は、コンクリートでできた建物、道路、橋、防波堤に囲まれています。セメントに砂と水を混ぜて固めたものがモルタルで、これに砂利を加えたものがコンクリートです。

セメントは、水による化学反応で硬化する粉状の材料で、砂や砂利をつなげる接着剤の役割を持っています。セメントの主たる材料は石灰石を焼成したもので、これに、粘土、けい石、酸化鉄原料、石膏などを混ぜて作ります。

モルタルは、レンガやブロックの目地の接着、コンクリート表面の仕上げなどに使われています。これに対し、コンクリートはモルタルに比べて強度が高いので、土木・建築構造物の材料として幅広く使用されています。

セメントは、太平洋セメント、宇部三菱セメント、住友大阪セメント、トクヤマなどのセメント工場で作られています。セメントに砂や砂利などの骨材、水を混ぜたものが、まだ固まらないコンクリート・生コンクリート(生コン、フレッシュコンクリートとも言います)です。生コンは全国に数千ある生コンクリート工場で作ります。生コン材料が分離しないように生コンクリート車でかき回しながら現場まで運び、現場では、ポンプ車で生コンクリートを圧送して打設します。

地震が多い故の豊富な石灰岩

我が国は石油や石炭などのエネルギー資源には恵まれていませんが、石灰岩は豊富にあります。理由はプレート運動にあります。

我が国はユーラシアプレート、北アメリカプレートの2つの陸のプレートと、太平洋プレート、フィリピン海プレートの2つの海のプレートがぶつかり合う場所に位置しています。海のプレートは陸のプレートに比べて重いため、陸のプレートとぶつかると、その下に沈み込みます。その海のプレートの表面、海底にはサンゴや有孔虫など炭酸カルシウムの殻を持つ生物の死骸が大量に堆積しています。

海のプレートが陸のプレートの下に沈み込むときに、この海底堆積物を引っ掻き出すことで、陸のプレートの上にこれらを堆積させます。その結果できるのが付加体です。従って、付加体には、セメントの元となる石灰岩が豊富に含まれています。この結果、付加体が発達する西日本に沢山の石灰石鉱山があります。

石灰岩でできた構造物を壊す地震を引き起こすのはプレート運動、一方で石灰岩を作っているのもプレート運動、不思議な輪廻を感じます。

圧縮には強いが引張に弱いコンクリートを助けてくれる鉄筋

コンクリートは圧縮の力には強いのですが、引張の強度は圧縮の十分の一くらいしかありません。これを助けてくれるのが鉄筋です。一方で、鉄筋は引張には強いのですが、圧縮すると座屈して曲がってしまい、また、空気に触れると腐食して錆びてしまいます。

鉄筋をコンクリートで覆うことによって、鉄筋の座屈や腐食を防ぐことができ、コンクリートと鉄の良さを引き出し合い、欠点を補うことができます。さらに、鉄とコンクリートは熱による膨張率がほぼ同じなので、温度変化しても分離しないというメリットもあります。この結果、鉄筋コンクリートという素晴らしい構造材料が生み出されました。

建物の柱や梁の鉄筋は、柱や梁などの部材の長さ方向に配する主筋と、横方向に配する帯筋を組み合わせて、かご状の形にします。主筋に圧縮や引張の力を負担させ、帯筋に横力(せん断力)を負担させます。鉄筋をかご状にすることで、内部のコンクリートをタガのように拘束しています。

鉄筋かごの外側に適切なかぶり厚さを確保し、その外側に型枠を設置して、中に生コンクリートを打設することで、鉄筋コンクリートの構造物を作ります。そのときに、生コンクリートを隙間無く密実に詰めることが大切になります。また、硬化して十分な強度を持つまで、適切に養生することも大切です。

鉄筋コンクリートの敵は中性化・塩害とクラック

鉄筋コンクリートの弱点は、鉄の腐食による錆びです。コンクリートは本来アルカリ性であり、それにより鉄の腐食を防いでいますが、大気中の二酸化炭素や塩分が進入するとコンクリートの中性化が進行し、鉄筋の腐食の原因となります。鉄筋は腐食すると膨張し、クラックを発生させ、さらに二酸化炭素や雨水、塩分の浸入を助長します。これにより鉄筋が劣化したりコンクリートが剥落したりして、大きな事故の原因になります。

十分に洗浄・脱塩していない海砂を使用したり、寒冷地で凍結防止剤を利用したりすることなどが塩害の原因として考えられます。中性化や塩害を防ぐには、密実なコンクリートにすること、十分なかぶり厚を確保すること、コンクリート表面を塗装することなどが効果的だと言われています。

鉄筋コンクリート構造物の長寿命化のためには、材料の品質確保と、十分な施工管理、養生、維持管理が必要になります。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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