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周辺の建物はどんな構造でしょう? 防災の一歩目は建物構造を知ること! 鉄骨造建物を見てみます

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

色々な形の建築用鉄製品

建築構造に用いられる鉄製品は建築構造用鋼材と呼ばれます。製鉄所で作られた鉄のうち、建築用途に利用されるのは、形鋼、鋼管、鋼矢板、棒鋼などです。良く見るのは形鋼で、圧延された厚板を加工して作ります。また、プレハブの戸建て住宅でよく使われるのは、薄板を加工して作る軽量形鋼です。前者を重量鉄骨、後者を軽量鉄骨とも言います。

鉄骨構造の主役・形鋼

形鋼は、断面の形によって、H形鋼,山形鋼、I形鋼、溝形鋼などがあります。こういった形にするのは、少しでも断面の中心から外側に材料を配することで少ない材料で曲げに対する抵抗を大きくするためです。

例えば、紙を山谷折りにして扇子のように蛇腹状にすると、平らな時よりも曲がりにくくなります。また、円筒状に丸めても曲がりにくくなります。

梁に良く使われるH型鋼

上下に平らなフランジがあり、間をウェブでつなげたH形鋼は、2つの方向で強さが異なり、これを強軸、弱軸と呼びます。「エ」の形で使うと、鉛直荷重を強軸で支えることができ、大きな力を負担できます。このため、鉄骨造の梁に良く使われます。柱に使うときには、弱軸側は強度を補うためブレースを併用します。鉄骨の駐車場では、開口がある方向を強軸、奥行き方向を弱軸にし、奥行き方向にブレースを入れています。

柱や杭に使われる鋼管

鋼管には、板状の鋼板をロール状に巻いて溶接などで接合したものと、棒状のものをくり抜いて作るものが有りますが、建築の構造材料として使われるのは前者です。鋼管は、その形によって角形鋼管と円形鋼管があります。柱によく使われるのは角形鋼管、杭に使われるのは円形鋼管です。最近では、鋼管の中にコンクリートを充填した鋼管コンクリートが高層建築の柱に良く利用されます。

脇役として多用される鋼矢板と棒鋼

鋼矢板は、地盤に打ち込みやすいので、地盤を掘削するときの山留め用の壁に使われます。また、棒鋼は、鉄筋やボルト、ナットなどに利用されていますまた、鉄骨造の筋交い(ブレース)に使われる場合もあります。

強くて変形能力の高い鉄骨部材

鉄は、コンクリートに比べ強度や堅さが10倍、重さが約3倍の高性能材料です。資源が豊富なので、比較的安価で入手でき、圧延などにより加工がしやいという特徴があります。

鉄は、ある歪みまでは、力と変形とが比例する線形弾性状態を保ちますが、それを超えると、抵抗は増えずに変形だけが進む非線形性を示します。これを塑性化と言います。鉄は、塑性変形によって、高い変形性能を示すと共に、振動エネルギーを吸収します。これが鉄骨構造の高い耐震性を生み出します。

塑性変形は、地震後も残ってしまいますので(残留変形)、地震後、建物が傾いたりします。また、繰り返し力を加えると破断します。これを疲労破壊と言います。針金を何度も曲げると折れるのをイメージして下さい。

また、細長い鋼材は、引張には強いのですが、圧縮すると曲がってしまいます。針金を引っ張ったり押したりすると、押すと曲がるのが良くわかります。これを座屈と言います。座屈を防ぐには、途中に座屈止めをつけて、鋼材の長さを短くする必要があります。

鉄骨部材を組み立てる

鉄骨部材は、トラックに乗せられる程度の大きさまで工場で接合して組み立てた後、現場に運ばれ、さらに現場で部材同士を接合して組み立てます。工場接合に比べ現場接合の方が、作業環境が悪いため、接合性能は悪くなりがちです。

部材の接合に用いられる方法には、大別して溶接接合とボルト接合があります。工場接合では溶接が、現場接合ではボルト接合が一般的です。

溶接は、鉄の母材を溶かして融着させる方法で、工場では自動溶接が良く使われ、現場では溶接工が施工を担います。大規模な鉄骨建築物では現場でも溶接が用いられることが多いようです。ただし、優秀な溶接工が必要になりますが熟練工は数が限られています。

一方、ボルト接合は、ボルトにより部材同士を機械的に接合します。最近では高力ボルト接合が使われることが多いようです。

なお、基礎と柱とをつなげるには、柱脚をベースプレートと呼ぶ鉄板を介してアンカーボルトによって鉄筋コンクリート基礎に固定します。また、床スラブは、通常鉄筋コンクリートで作られますが、床スラブと梁はスタッドボルトによって接合されます。

過去の震災では、多くの鉄骨建物が接合部の施工不良によって被害を受けています。素晴らしい性能の鉄骨部材を生かすも殺すも接合部しだいです。

建築物を実現する色々な構造形式

鉄骨造建築の代表的な構造形式には、ラーメン構造、ブレース構造、トラス構造があります。吊り橋に使われるようなテンション構造もあります。ラーメンは柱と梁の四角形、ブレースはラーメンに×印の筋交いを入れた形、トラスは三角形の集合、テンションは塔状の柱からワイヤーで吊るような形と、それぞれ特徴的な形態を持っています。

ちなみに、鉄骨部材は、引っ張りの力に対しては、部材断面の全てを均質に利用できるため、もっとも強度を発揮できます。これに対し、圧縮の力に対して座屈しないようする必要があるため、部材を太短くする必要があります。曲げの力に対しては、断面の周辺のところのみを利用するため、引っ張りに比べて強度が小さくなります。このため、引張を受ける部材を中心に作ると、少ない部材で構造物を作ることができます。即ち、効率の良さは、テンション構造、トラス構造、ブレース構造、ラーメン構造の順になります。

ビルによく使われるラーメン構造

ラーメン構造は柱と梁を剛に接合した構造です。四角の形は横から力を押すと平行四辺形になりますが、ラーメン構造の場合、柱と梁が剛に接合されていて直角を保つので、柱が曲がることで横に変形します。

オフィスビルでは、壁の少ない空間を求めるためラーメン構造が多く使われます。ただし、エレベータ、便所、階段室をコア状に固めてその部分にブレースや鋼板耐震壁を配して、水平抵抗を増すことも良く行われます。

工場、体育館、スーパーマーケットに使われるブレース構造

ブレース構造は柱と梁でできた架構に木造の筋交と同様に×形に斜め材を付けた構造です。三角形は形を変えにくいので、効率よく水平力を受け止めることができます。ブレースは、引っ張りの力だけを負担するのが一般的ですが、圧縮の力にも抵抗できるブレースもあります。少ない部材で作ることができるため、工場や体育館、スーパーマーケットなどの大規模建築によく使われます。また、鉄部材は工業化が容易なため、プレハブの戸建て住宅でも、多くの住宅メーカーがブレース構造(軸組構造)を採用しています。

大きな空間を覆う屋根に良く使われるトラス構造

三角形から構成されたトラス構造は、少ない部材で、大きな無柱空間作る屋根に適しています。このため、野球場や、陸上競技場、体育館の屋根などに使われます。また、東京スカイツリーや東京タワーなどの塔状建築物にも多用されています。できるだけ部材に曲げの力が働かないように、部材同士で曲げの力を伝えないピン(自由に回転できる支点)接合にします。

このように、鉄骨造は、様々な用途の建築物に使われています。一度、周辺の建物がどんな構造でできているのか、見渡してみてはどうでしょうか?

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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