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日本の災害対応を司る災害対策基本法とは

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

災害対策基本法

今から55年前の11月15日に作られた災害対策基本法は、11章で構成されています。この法律は、今でもまったく色褪せておらず、防災の基本を明確に記しています。1章から、総則、防災に関する組織、防災計画、災害予防、災害応急対策、災害復旧、被災者の援護を図るための措置、財政金融措置、災害緊急事態、と続き、これに雑則と罰則がついています。

災害と防災

第1章の総則では、目的、定義、基本理念、各機関の責務が示されています。目的は明快で、「国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護」することです。そして、災害の定義「暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他」と、防災の定義「災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及び災害の復旧を図ること」を明確にしています。このように、自然災害に加え人為的災害も含めた多様な災害に対して、ハード対策を中心とした事前対策と災害対応・早期復旧により被害軽減を図ることを謳っており、防災と減災を包括した概念になっています。

災害対策の基本理念

総則に記されている基本理念は、1)実情を踏まえた災害発生の想定と被害の最小化・迅速な回復。2)国、地方公共団体、その他の公共機関、自主防災組織、住民個人等の役割の明確化。3)一体的な災害への備えと科学的知見や過去の災害教訓の活用。4)災害状況の早期把握と対応資源の最適配分。5)適切な被災者援護。6)早期復旧・復興の6点に要約できます。

各機関の責務と防災組織

総則の中では、国、都道府県、市町村、公共機関、住民等の責務を明確に示すとともに、地方公共団体相互の協力や、行政組織とボランティアとの連携について記しています。中央省庁とその地方出先機関は、指定行政機関・指定地方行政機関と、独立行政法人や電力・ガス・高速道路・鉄道・放送などの公共性のある機関は指定公共機関・指定地方公共機関と位置づけられ、それぞれの責務が定められています

防災に関する組織と計画

第2章と第3章には、防災に関する組織と防災計画について記されています。国は、総理大臣を会長とする中央防災会議を組織し、地方公共団体は地方防災会議として都道府県防災会議や市町村防災会議を組織し、それぞれが、防災基本計画、地域防災計画を策定することを定めています。また、指定行政機関や指定公共機関には防災業務計画の策定を義務付けています。

非常災害が発生した場合には、総理大臣は臨時に内閣府に国務大臣を長とする非常災害対策本部を設置します。また、著しく異常かつ激甚な非常災害の場合には、総理大臣を長とする緊急災害対策本部を設置します。さらに、災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合には、総理大臣は、閣議にかけて「災害緊急事態の布告」を発し、国民への協力の要求や、各種の緊急措置のための政令を定めることができることが第9章に記されています。ちなみに、映画「シン・ゴジラ」でも、総理大臣が緊急災害事態の布告を布告し、緊急災害対策本部である「巨大不明生物特設災害対策本部」を設置していました。

また、地方公共団体も都道府県災害対策本部や市町村災害対策本部を設置します。

災害の予防、応急対策、復旧

第4章には、災害を予防するための防災教育、防災訓練、物資・資材の備蓄、指定緊急避難場所や指定避難所の指定、避難行動要支援者名簿の作成と活用などについて記されています。また、第5章では、災害後の応急対策として、情報の収集・伝達、国民への周知、各種の応急措置、被災者の保護について定めています。さらに、第6では、災害復旧として、実施責任や事業費の決定、国の負担などについて定めています。このように、時系列で災害軽減のための規定を明確化しています。

その他

第7章では、被災者の援護のための罹災証明書や被災者台帳について、第8章では、財政金融措置として、災害予防や災害応急対策、復旧事業等に対する国の負担・補助、地方公共団体の災害対策基金、災害融資など、財政上の措置を定めています。

このように、災害対策基本法では、我が国の災害対策に関する事項を網羅的に記しています。この法律の理念に基づいて、中央防災会議が、政府の防災対策に関する基本的な計画を作成したものが防災基本計画です。そして、映画「シン・ゴジラ」はこの法律に則って、合法的にゴジラ対応をしていました。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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