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阿蘇山の噴火から思い起こす阿蘇のカルデラ地形

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

地震、台風、火山で苦しむ被災地

熊本地震から半年が経った10月8日の未明1時46分ごろに、阿蘇山中岳が爆発的に噴火しました。噴煙は高さ1万m以上に達し、風に流されて北東方向に遠くまで噴石が飛び、四国各地にも火山灰が降りました。気象庁は阿蘇山に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルをレベル2からレベル3の「入山規制」に引き上げました。昨年の9月15日、熊本地震の日4月16日に続く中岳の噴火です。熊本地震やその後の度重なる水害に続いて噴火したことにより、観光や農業、畜産業に頼る阿蘇周辺の方々にとって、更なる試練が重なりました。被災地の方々にお見舞いすると共に、早期の回復を願ってやみません。

噴火が続く九州の火山

九州周辺ではこの5年、噴火が続いています。1990年頃から95年頃まで続いた雲仙普賢岳の噴火活動の後、しばらく大きな噴火がなかった中、東日本大震災前後から火山噴火が続いています。東日本大震災直前の2011年1月から2月にかけての霧島山新燃岳の噴火、2015年5月29日の口之永良部島新岳の爆発的噴火、噴火活動が続く桜島での2016年2月5日と7月26日の爆発的噴火、そして今般の阿蘇山中岳の爆発的噴火と、九州の火山が活発に活動しています。阿蘇山、霧島山、桜島、口之永良部島は、開聞岳も含めて、霧島火山帯北部に属する火山です。そこで、火山については素人ですが、九州の火山について調べてみましたのでご報告します。

カルデラを利用した阿蘇の農業・畜産業・観光

阿蘇山は外輪山で囲われたカルデラ地形で有名な場所です。通常、多くのカルデラは水に覆われていて利用ができませんが、阿蘇はカルデラ内の平らな地形を利用した農業や畜産業が有名で、観光地としても人気スポットです。阿蘇ジオパークは、世界ジオパークにも認定されています。そもそも、カルデラとは鍋とか釜という意味のスペイン語に由来した言葉で、火山の破局的噴火によってできた大きな凹地のことを言います。阿蘇山では4回の破局的噴火が知られていて、最後の破局的噴火は約9万年前に起きたそうです。

カルデラを作る破局的噴火

日本では1万年程度の間隔で破局的噴火が起きています。地下の大量のマグマが一気に地上に噴出すると、大規模なカルデラができます。その噴出量は100立方キロとか1000立方キロにも達します。日本での最後の破局的噴火は、7300年前に鬼界カルデラを作った噴火で噴出量は170立方キロ程度だったようです。これは、1707年に起きた富士山の宝永噴火の噴出量の100倍にも及びます。9万年前の阿蘇の噴火での噴出量は400万立方キロにも及んだようで、火砕流は山口県秋吉台にまで達したそうです。破局的噴火の規模は桁違いだということが分かります。

鬼界カルデラ噴火によって九州南部で栄えていた縄文文化が途絶えたことは有名で、国の歴史も簡単に変えることが分かります。このときに日本中に降り積もった火山灰は鬼界アカホヤ火山灰と呼ばれ、縄文時代の早期と前期の地層年代を分ける目印にもなっています。ちなみに、鬼界カルデラは、薩摩半島の南50kmの大隅海峡に位置し、薩摩硫黄島という火山島は鬼界カルデラの北側の外輪山に位置します。また、昨年噴火した口之永良部島は、鬼界カルデラの南側にある火山島です。

霧島火山帯に位置するカルデラ

霧島火山帯の北部には阿蘇カルデラや鬼界カルデラに加えて,桜島の北側の鹿児島湾に位置する姶良(あいら)カルデラや、鹿児島湾の南側半分に位置し開聞岳がある阿多カルデラ、霧島のある加久藤カルデラなどがあります。姶良カルデラでは約2万5千年前に大噴火があり、その噴出量は500立方キロにも及ぶと推定されています。また、阿多カルデラでは、10万年くらい前に300立方キロにも及ぶ噴出量を出した噴火があったようです。

九州の火山での破局的噴火では、噴出物が偏西風に乗って日本全国に運ばれるため、国家存亡の危機になるかもしれませんが、人間の力では何ともしようがありません。ちなみに、加久藤カルデラの霧島の破局的噴火は、石黒耀の小説「死都日本」(講談社)に描かれています。読み応えがある小説で、降臨伝説も含め、日本人としての価値観を再考するきっかけになると思います。

破局的噴火を思い出させる美しい風景のカルデラ湖

日本全国には美しい湖がたくさんあります。摩周湖、支笏湖、洞爺湖、十和田湖など、北海道や東北にある湖は、火山と織りなす美しい景色や温泉の恵みで、海外の人にも人気の観光地になっています。芦ノ湖のある箱根もカルデラの一つでで、その噴火規模は、富士山を遙かに凌ぎます。こういったことを学校で学ぶことはなく、多くの日本人は知らずに観光をエンジョイしています。

日本のカルデラに比べ一回り大きな巨大カルデラが世界にはあります。たとえば、アメリカのイエローストーンの噴火では、アメリカ全土に火山灰が降灰しました。こんな噴火があれば氷河期を招き、人類の存亡にも関わることだと想像されます。

時間スケールが、私たちの人生のスケールと大きく異なるため、想像を絶しますが、近年話題となっている原子力発電施設の放射性廃棄物の処分などの問題を考えるときには、大切なことかもしれません。

地殻変動によって起きる地震と火山噴火、地震の続発や火山の噴火が同時期に起きた事例は過去にもあります。過去最大の南海トラフ地震だった1707年宝永地震の49日後には富士山の宝永噴火がありました。地震や火山噴火によってできた緩んだ地盤が風水害によって土砂崩れや土石流を起こしたこともあります。熊本地震や阿蘇山の噴火を教訓に、我が国の自然災害について改めて学び、日本人の人生観の形成のされ方についても思いを馳せたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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