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地震、津波、噴火、台風、火災……災害の多かった2016年 教訓生かし備えを

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

桜島の噴火(2月5日)

2月5日18時56分頃に、桜島の昭和火口で爆発的なマグマ噴火が発生しました。桜島は昨年2015年8月15日に噴火警報が発表され、噴火警戒レベ ルが4に引き上げられました。桜島で噴火警戒レベル4が発表されたのは初めてのことで心配されていましたが、昨年は噴火せずに年を越しました。ですが、年を越して噴火してしまいました。桜島のように観測態勢が整っている火山でも、噴火予測が難しいことが改めて分かります。

三重県南東沖地震(4月1日)

4月1日 11 時 39 分に三重県南東沖で M6.5 の地震が発生し、最大震度は4でした。地震の発生した場所が、1944年昭和東南海地震の震源に近く、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界付近のため、切迫する南海トラフ地震との関連が気になる地震です。突然の緊急地震速報の音、震源の位置を見て、驚いた人も多かったと思います。新年度最初の日で、役所や会社では新入社員を迎え、異動初日の人も多く居ました。防災部局に異動したての担当者が、何をして良いのか分からず戸惑っていたとの話もあちこちから聞こえてきました。災害は時を選ばないことを実感します。

熊本地震(4月14日・前震、4月16日・本震)

4月14日21時26分にマグニチュードM 6.5の地震が、28時間後の4月16日1時25分にM 7.3の地震が発生し、益城町は2度にわたって震度7の揺れに見舞われました。余震活動も活発で、多くの人的・物的被害を出しました。前震は日奈久断層帯の東側の高野―白旗区間が、本震は布田川断層帯の東側の布田川区間が活動しました。内閣府によれば、12月14日時点で、人的被害は、死者161人、重傷1,087人、軽傷1,605人、建物被害は、住宅被害が全壊8,369棟、半壊32,478棟、非住家被害が公共建物325棟、その他4,327棟となっています。同規模の地震だった1995年兵庫県南部地震に比べて被害は少ないものの、耐震性の劣る家屋や庁舎の多くが被害を受け、耐震化の大切さを感じる地震でした。

緊急地震速報の誤報(8月1日)

8月1日17時09分頃、関東地方を震源とするM9.1、最大震度7という緊急地震速報が一部の人に発表されました。情報を受け取った人は、本当にびっくりしたと思いますが、実際には誤報でした。緊急地震速報には、高度利用者向けと一般利用者向けの2種類があるのですが、誤報があったのは、高度利用者向けの情報です。これは、少しでも早く情報を知りたい、震度4以下の地震の情報も知りたい、地震の規模、予測震度、揺れの到達時間なども知りたい、といったニーズを持つ人向けの情報です。情報の早さを重視するため、どこか一カ所の地震計で揺れを感知したら配信されます。当日は、千葉県富津市にあった地震計で、付近の落雷によるノイズを観測し、配信したようです。一方で、一般利用者向けには2か所以上の地震計で揺れを感知しないと配信されませんので誤報は届きませんでした。完全なシステムはありません。技術の限界を理解した上で、便利な情報を活用することが大切です。

台風10号による東北・北海道の豪雨(8月30日前後)

台風第10号は、他の台風との干渉のため、日本の南海上で複雑な動きをし、その間に勢力を拡大し、8月30日夕方に岩手県に上陸しました。気象庁が統計を取り始めて以降初めて東北地方の太平洋側に上陸した台風でした。被害は、死者22名、行方不明者5名、住宅の全壊447棟、半壊2,243棟(10月17日現在)で、とくに、岩手県では岩泉町を中心に甚大な被害となり、高齢者施設に入居者の男女9人が死亡しました。また、北海道でも、多くの河川が堤防決壊・氾濫しました。高齢者など、災害時に避難が困難な方が利用する施設の立地場所のあり方について、課題を残した台風です。

阿蘇山噴火(10月8日)

10月8日の1時46分に、阿蘇山中岳第1火口で爆発的噴火がありました。噴煙は1万1000メートルの高さに達し、九州以外でも火山灰が観測され、広範囲に影響が及びました。爆発的噴火は36年ぶりです。熊本地震の震源域が阿蘇山直下まで及んでいたこと、阿蘇山周辺での余震活動が活発であったことなどから、阿蘇山の噴火を懸念する声は多かったのですが、残念ながら事前の予測はできませんでした。九州の霧島火山帯では、2011年新燃岳、2015年口之永良部島に続いての桜島と阿蘇山が噴火しています。心配ですね。

鳥取県中部地震(10月21日)

10月21日14時7分頃、鳥取県の中部でM6.6の地震が発生し、最大震度6弱の揺れを観測しました。幸い、犠牲者はありませんでしたが、住宅が全半壊しました。鳥取県では、1943年に鳥取地震が県東部で、2000年に鳥取県西部地震が発生しており、空白域を埋めるような場所での地震でした。南海トラフ地震が近づくにつれ、西日本の内陸活断層が活発になるようです。熊本地震・鳥取県中部地震を教訓に備えを進めたいものです。

福島県沖地震(11月22日)

11月22日5時59分に福島県沖でM7.4の地震が発生しました。最大震度は5弱でしたが、仙台港で最大1m40cmの津波を観測しました。大陸プレート内部で発生した正断層型の地震で、2011年東北地方太平洋沖地震の余震と見られています。大震災から5年以上経過しても、大規模な余震があることを肝に銘じておきたいと思います。

糸魚川市での大規模火災(12月22日)

12月22日10時20分頃、糸魚川市の中華料理店で火災が発生し、強風で飛び火して延焼したため150軒を超える家屋が焼失しました。現場が、雁木が連なる古い木造家屋密集地域であったこと、強風、消防力不足などが災いし、大規模火災に拡大しました。木造家屋密集地域の解消や広域消防の大切さが改めて分かった災害です。

茨城県北部での地震(12月28日)

12月28日21時38分頃、茨城県北部を震源とするM6.3、最大震度6弱の地震がありました。震源の深さは浅く、内陸直下の正断層の地震でした。幸い大きな被害は有りませんでしたが、福島県沖の地震に続いて、東北地方太平洋沖地震の震源域の南側で正断層の地震が続くことは気がかりです。400年前、1611年慶長三陸地震の66年後に延宝房総沖地震が起きたことを忘れないでおきたいと思います。

補足:東京の大停電(10月12日)と博多駅前の道路陥没(11月8日)

自然災害ではありませんが、大都市で珍しい事故がありましたので、補足で記しみます。

10月12日午後3時半ごろ、東京都内で58万6千戸が停電し、霞ヶ関の一部の中央省庁でも停電しました。埼玉県新座市の地下電力ケーブルで漏電し、火災が起きたのが原因でした。送電ルートを迂回することで、1時間程度で復旧しましたが、鉄道などの交通機関や、信号機停止による道路交通など、各所に影響が出ました。

また、11月8日午前5時15分頃には、博多駅前の道路で大規模な陥没が発生しました。陥没は、深さ約15m、幅約27m、長さ約30mにも及びます。地下鉄延伸工事が原因でしたが、わずか1週間で埋め戻すことで通行再開することができました。

何れの事故も、大都市の脆さを露呈しました。とくに電力ケーブル火災の問題は、インフラの老朽化に直面する我が国の大きな課題です。

このように、2016年も、地震、津波、噴火、台風、火災、停電・陥没事故と、災いの多い一年でした。これを教訓とし、同じ事を再び繰り返さないよう、備えを進めていきたいと思います。

最後に、新しい年が、皆様にとって幸ある年で、災いのない年であることをお祈りします。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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