Yahoo!ニュース

阪神・淡路大震災から22年、震災を契機に新しく始まった防災対策

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:ロイター/アフロ)

大震災から22年が経ちます。震災をきっかけとして始まった地震防災対策を10個取り上げてみます。

1.予知から防災へ:地震防災対策特別措置法の制定

阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震では、直前に地震の発生を予測するような情報は発信されませんでした。大震災前は、直前の地震予知を前提とした東海地震対策が多く取り上げられていました。このため、震災を契機に予知から防災へと軸足が移りました。

震災5か月後の6月16日には、地震防災対策特別措置法が公布されました。法律の目的は、「地震防災対策の実施に関する目標の設定並びに地震防災緊急事業五箇年計画の作成及びこれに基づく事業に係る国の財政上の特別措置について定めるとともに、地震に関する調査研究の推進のための体制の整備等について定める」とされています。地震防災緊急事業については、現在も2016年度からの第5次5箇年計画に基づき推進されています。

2.地震調査推進本部の設置

地震防災対策特別措置法に基づいて、地震に関する調査研究推進のための組織として地震調査研究推進本部(地震本部)が1995年7月18日に総理府に設置されました。地震本部の設置に伴い、科学技術庁にあった「地震予知推進本部」は廃止されました。その後、2001年中央省庁再編と共に、地震本部は文部科学省に移管されました。

地震本部では、1999年に「地震調査研究の推進について-地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策-」を定め、2004年度末までに「全国を概観した地震動予測地図」を作成することを目標に掲げました。そして、これを実現するため、活断層調査や堆積平野地下構造調査、調査観測網の整備を推進してきました。

3.活断層調査と地震の長期評価

兵庫県南部地震では、六甲・淡路島断層帯が活動し、直上に位置する神戸市などでは、震源近傍の強烈な揺れに見舞われ、家屋倒壊など甚大な被害となりました。このため、活断層の調査が全国で精力的に行われました。地震本部ではこの結果に基づいて、97の主要活断層帯について、断層調査により過去の活動履歴を明らかにし、将来の地震発生の可能性や地震規模などについて長期評価をとりまとめています。

4.震災の帯の形成と堆積平野の地下構造調査

兵庫県南部地震では、淡路島から神戸市にかけて帯状に震度7の地域「震災の帯」が現れました。震災後の調査研究により、活断層に近接していることに加え、断層の破壊の仕方や地下の地盤構造による局所的な揺れの増幅などが、特徴的な揺れの生成に関わっていることが分かりました。このため、全国の大規模な堆積平野で、地下構造調査が行われました。その結果、それぞれの平野には固有の揺れやすい周期があることや、周辺が山に囲われた盆地状の平野では揺れが長く続きやすいことも分かってきました。

5.揺れを観測する強震観測網の整備

震源近傍での地震の揺れは衝撃的なパルス的揺れでした。ですが、震災の帯の中には、強震観測点がわずかしかなく、震度7の揺れは2カ所でしか記録されませんでした。震源特性や強震動特性の解明には、観測記録が不可欠ですから、震災後、観測網の整備が精力的に図られました。

気象庁の地震観測網の増強に加え、防災科学技術研究所が中心になって、震源特性の推定のための高感度地震観測網(Hi-net)や広帯域地震観測網(F-net)、強い揺れを観測する全国強震観測網(K-NET)や基盤強震観測網(KiK-net)などが整備されました。また、地殻変動をGPSで観測するGEONET(GNSS連続観測システム)の電子基準点観測データも整備されました。

6.強震動評価と地震動予測地図

地震本部では、強震動の標準的な予測方法を「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(「レシピ」)」としてとりまとめ、活断層調査や堆積平野地下構造調査の結果を用いて、特定の地震に対する強震動評価を行っています。また、合わせて、全国地震動予測地図や長周期地震動予測地図を策定しています。

7.初動対応の体制整備

震度情報の伝達が遅滞したため、これを改善するために、地震観測記録から自動的に震度を推定する計測震度が導入され、全国の自治体に計測震度計が整備されました。

また、初動対応力を強化するため、政府に、内閣危機管理監や危機管理専門チーム、24時間体制の内閣情報集約センター、官邸危機管理センター、緊急参集体制などが整備されました。合わせて、被害情報の早期把握のため、中央防災無線網の充実・強化や、ヘリコプターからの映像伝達システム,地震被害早期評価システムなどが整備されました。

さらに、消火・救出活動強化のために、緊急消防援助隊の発足、ホースなど消防用資機材の統一規格化、自衛隊への派遣要請に関する市町村の権限強化なども行われました。災害医療についても、広域災害・救急医療情報システム、災害拠点病院、災害発生時の緊急医療チームなどの整備が図られました。

8.耐震性能の実証と耐震化の促進:E-Defense

大震災では建物や土木構造物の倒壊によって多くの犠牲者が出ました。震災後の最大の教訓は耐震化で、構造物の耐震性を把握するため、構造物の破壊の仕方を調べることが重視されました。そこで2000年に実物大の構造物を破壊させることができる世界最大の振動台・E-ディフェンスが整備されました。

また、耐震性の劣る建築物の耐震化を進めるため「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が1995年10月に制定されました。さらに、震災での教訓を生かすために耐震基準も2000年に改訂され、性能規定型の耐震基準が導入されました。

さらに、地震直後に建物の安全性を評価するため、被災建築物の応急危険度判定や、罹災証明のための住家の被害認定調査の体制が整備されました。

9.被災者支援:特定非営利活動促進法と被災者生活再建支援法

震災では多くのボランティアが被災者支援に当たりました。1998年には、ボランティア活動などの市民の社会貢献活動を支援するため、特定非営利活動を行う非営利団体に法人格を付与する特定非営利活動促進法が制定されました。

また、被災者が自立した生活を開始できるよう支援するために、1998年に被災者生活再建支援法が制定されました。この法律はその後、2000年鳥取県西部地震や2007年能登半島地震・新潟県中越地震を受けて、2004年と2007年に改訂されています。

10.教訓の伝承と備えの促進:人と防災未来センターと野島断層保存館

震災での教訓を後世に伝えることで、国内外の地震被害軽減に貢献し、生命の尊さ共生の大切さを世界に発信することを目的に設立された施設です。2002年に設立され、震災を伝える展示施設に加え、研究資料の蓄積・公開、研究者育成のための場が併設され、さらに、様々な国際的防災組織が集結しています。入館して最初に見る1.17シアターでは、多くの人が震災を思い出し涙します。淡路島にも、震災で生じた野島断層を保存する野島断層保存館が1998年に建設されました。

今では当たり前と思うことの多くが、阪神・淡路大震災をきっかけに始まったことが分かります。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

福和伸夫の最近の記事