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松山英樹。幸運を運ぶ?掴む?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
同じ21歳だが、松山英樹と石川遼はいろいろな面で対照的だ(写真/平岡純)

いよいよ明日、全米プロが開幕する。巷ではタイガー・ウッズの2週連続優勝に期待を寄せる声が高まっている。

だが、そんな中で、日本人としては思わずクスッと笑いたくなるような、うれしいような恥ずかしいような、ウソのようなホントの話がある。

「マツヤマはフォーチュン(幸運)の運び屋だ」

松山英樹のことをそう呼んでいる選手やキャディが実は結構いることがわかった。

すでにお気づきの方もいることだろう。そう、松山は全英オープンの予選2日間にフィル・ミケルソンと同組で回り、そのミケルソンが全英オープンを制した。

そして、先週のブリヂストン招待では、松山は初日と2日目をタイガー・ウッズと同組で回り、そのウッズが大会を制した。

ビッグ大会で松山と最初の2日間を回った者が優勝する――いや、それはもちろん偶然なのだろうが、こんな不思議現象はそうそう起こらないせいか、あたかも松山が幸運の女神のように見られている向きがある。

今週の全米プロで明日からの予選2日間を松山と同組で回るのはスティーブ・ストリッカーとジェイソン・ダフナーだ。

「マツヤマと同組ですね」と声をかけたら、ストリッカーは悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべながら、こう言った。

「今週、優勝するのは僕かジェイソンのどちらかってことだよね」

優勝は自分だとは言い切らず、「僕 or ジェイソン」と言うところが、温厚な人柄のストリッカーらしい。

それでは、ダフナーは何と言ったか?

「今週、優勝するのはオレだ~」

内容は強気なのだが、口調はまるでやる気がないみたいにダラダラとだれていた。そこがいかにもダフナーらしかった。

【松山らしさ】

松山自身は、ストリッカー、ダフナーと同組で回ることをどう感じているのか。

以前にも書いたが、松山はストリッカーがパットの名手であることをウッズのコメントを通して知っている。

「(ストリッカーは)タイガーが宇宙一上手いって言った人ですからね」

だから、先週のブリヂストン招待の練習グリーンで偶然居合わせたとき、松山はストリッカーのパット練習に何度も目をやり、気にかけていた。が、ストリッカーのほうも、松山に気づかれないように松山を見ていた。

そのストリッカーと翌週に同組になるとは、そのときは思ってもいなかったのだろうが、運命や巡り合わせというものは本当に不思議なものだ。

松山は言った。

「ダフナーはどんな選手なのかも全然知らない。ストリッカーは……打ち方より、グリーンに上がってからの行動を見てみたいっす。でも、そんな余裕があるかどうか」

興味があるのは間違いない。だが、たとえ宇宙一のパットの名手にいかに興味があろうとも、まずは自分のゴルフ。この考え方が、いかにも松山らしい。

全米オープン10位、全英オープン6位と好結果を出してきた。もっと上位に入りたい、優勝争いしたいという気持ちは当然抱いている。だが、きっちり現実を見つめる松山は、あくまでも段階を踏みながら上を目指す重要性を心得ている。

来季の米ツアー出場権を獲得するためには何位に入ればいいか等々、頭に浮かんでくることはいろいろある。だが、そこで気持ちをすぱっと切り替え、明日から試合を迎える現実、プロとしてとにかく賞金を稼ぐ現実だけに集中しようとするところが松山の良さだ。

「シードの問題はあるけど、まずは予選通過。予選通過できないと、優勝争いもできないですから」

そう言い切る姿は、ふわふわした夢追い人ではなく、マスコミに煽られて踊らされる一時のスターでもなく、ゴルフで身を立てる職業ゴルファーらしかった。

【評価より納得】

とはいえ、松山も人間だし、若いし、周囲の評価が気にならないわけではない。とりわけ、欧米のトッププロや往年の名選手が自分をどう見ているか、どう見られたかが気にならないわけではない。

だが、気にはなるにしても、他人の評価なんてものは絶対ではない。自分は自分。自分のゴルフのことは最終的には他人にはわからない。何よりも大事なのは自分の納得。この考え方こそは、松山がプロとして絶対に譲れない彼のプライド、彼のこだわりなのだろう。

あのトム・ワトソンと一緒に練習ラウンドをしていながら、アドバイスは一切「聞かなかったっす」。それは英語で会話ができるかできないかの話ではなく、松山に助言を求める意志が無かったからだ。

リスペクトする。が、卑屈にはならず、自分を見失うことはない(写真/平岡純)
リスペクトする。が、卑屈にはならず、自分を見失うことはない(写真/平岡純)

日本人メディアによる囲み取材の場でも、プロとして譲れない彼のプライドに触れる質問をされると、松山はあからさまにムッとしてピシャリとやる。

たとえば、松山は今、自分のショートゲームの力不足を感じている。試合ごとにグリーン周りで遭遇するさまざまな芝への対応の仕方。打ち分け、手持ちのショットバリエーション、クラブ選択、状況判断……。

「タイガーと回って、自分はまだまだ足りないものがたくさんあると思った」

それを聞いて、ある記者が松山の言葉をフォローするかのように、こう言った。

「でも先週、ニック・プライスだって松山くんの弱点を探すほうが難しいって言って褒めていたぐらいだし、松山くんが自分で自分を力不足と思っている以上に、周りは松山くんの力を評価しているのでは?」

松山への激励の意味さえ込めて言ったこと。だが、こういう言葉が逆に松山のプライドに触れ、逆なでしてしまうようなのだ。

「それは違います。自分のことは自分が一番よくわかってます!」

私自身も、松山の考え方、松山らしさがまだまだよくわからないがゆえに、尋ねたことに対してムッとされてしまった経験が、これまでに幾度かあった。

疲れていないか?疲れは取れたか?そういう質問もタブーのようだ。疲れているかどうかはアピールするものではないし、たとえ疲れていようがいまいが、それでもプレーするのがプロだ。疲れているのなら、どう疲労回復を図ればいいか。どう疲労回復するべきか。それができてこそプロ。それができなければ、ボロボロのプレーでガタガタと崩れ、予選落ちするだけのこと……。

幸運は待つより自力で近づき、掴むもの。

松山がムッとしてピシャリと質問を遮ったとき、その先に隠されているのは彼のそんな気持ちであろうことが、ようやくわかってきた。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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