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石川遼が強くなったワケ。「もう、あのときの精神状態ではやれない」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
開幕第2戦で2位。それでも石川遼が平常心で“平常顔”に近かったのはなぜか?

米ツアーの2013-2014年シーズン開幕第2戦、シュライナーズホスピタル・オープンで石川遼が2位になった。2位といえば、2012年のプエルトリコ・オープンに並ぶ米ツアー自己最高順位。

だが、ホールアウトした石川を取り巻く囲み取材を始めようとしたとき、ちょっぴり不思議で不安な錯覚に陥った。

「上がりが情けない。悔しい」を、まずテレビ用のインタビューで繰り返した石川。「普通よりちょといいぐらいの調子だった」なんて言葉も聞こえてきた。

その言葉を聞き、その表情を眺めていたら、なんだか石川の最終ラウンドは、2位になったとはいえ、本人的にはまるで満足も納得もいかないものだったのか?まったくうれしくないのか?そんな気にさえなってきた。

この際、そのまんま尋ねてしまえ。そう腹を決めて切り出した。「悔しさの方が強い?」

すると、石川は答えた。

「いや、でも、今日この(優勝争いの)状況で(目標に掲げていた1日)4アンダーをクリアできたので、それに対しては一定の評価や点数を自分にあげてもいいのかな」

それを聞いて、こちらも安堵。ああ良かった。うれしいんだな。喜んではいるのだな。

そう再確認したくなるほど、石川は2位になっても、平常心の平常顔だったのだ。

【両サイドOBを知らなかった!?】

米ツアーの正式メンバーとして初参戦した昨季は、シーズン序盤に予選落ちが続き、調子が上がらないままシーズンエンドに向かい、シード落ちの危機に瀕して下部ツアーのファイナル4戦へ。

その初戦は予選落ちしたものの、残る3戦はすべてトップ10入りを果たし、敗者復活の形で今季の米ツアー出場権を得た石川。

そんな紆余曲折を経て臨んだ今季、開幕2戦で続けざまに優勝の二文字を意識しながらのプレーになり、今週は自己ベストタイの2位。

昨季と今季。何がそんなに違うのか?

「体の状態がすごく違う」。昨季は腰痛悪化で練習が思うようにできず、練習不足が予選落ちへ、成績低迷へ、自信喪失へ。そんな負の連鎖に陥っていった。だが、「今は体がすごくいい」。その差は大きい。

「スイングが、クラブの軌道が、安定してきた。プレーンに沿ってクラブが上がって降りてくる」。だからラウンド中、ちょっとぐらいフェアウエイを外しても、ちょっとぐらいピンチに陥っても、「どんな状況でもショットがぶれない。プレッシャーやゲームの悪い流れがショットに出ない。無心で打てる」。その差も大きい。

だが、今の石川が、昨季のみならず昔と比べて一番違うところは、メンタル面だ。

2位になった石川が、こう言った。

「2009年に(日本で)賞金王になったとき、日本で3、4勝していたとき。今はもうあのときの精神状態ではやれない」

あのときの精神状態とは、どんな精神状態か?

「知らないことが多すぎた。成功体験、失敗体験、どちらの絶対値も少なかった。両サイドにOBがあってもドライバーで打ち終わるまで(OBがあることを)知らなかった……みたいな感じだった。高校2、3年だったから、そういう感じでやっていて、日本でたまたまうまくいった。あれから時間が経って、いろいろ苦しい時期があって、今はメンタル的にリカバリーできているのかな」

米ツアーで「自分の立ち位置がわかってきた」と語る石川。ジオラマの中の小さな存在?
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【テンションは必要以上に上げない】

「初優勝目指して勇んで米ツアーに来たけど……」と肩を落とし、シードも落ちかけ、なんとか下部ツアー・ファイナルを経て這い上がってきた石川は、今では人生でも試合でも、両サイドにOBがあり、池もあり、バンカーもあり、崖もあることを知っている。

だから、舞い上がりすぎず、落ち込みすぎず、平常心を保ちつつ、中庸を心がけ、チャンスを待ち、いざチャンス到来とあらば、そこだけは攻める。そんなゴルファーとしての賢さを身に付けた。

その賢さが最終ラウンドのプレーぶりにはっきりと表れていた。

「9番はイーグルを取りに行った。10番は(攻めずに)待った」

9番(パー5)は2オンしてイーグルパットは外したが、確実にバーディー獲得。10番は「誘ってくるピン位置。でも外すとボギーになるピン位置。だから待って、そこからパットが決まってくれれば……」という作戦で、安全に広い側へ乗せ、6メートルを沈めて、ここでもバーディー。

そんな攻守のバランスを優勝争いの緊張感やプレッシャーの下でも取れるようになった。

スコアを着々と伸ばし、目標にしていた通算16アンダーに達した10番以降、どんどん攻めるぞ、首位に迫るぞとテンションは上がりがちだが、ここでも石川は「テンションは必要以上に上げなかった。上げるとアイアンがどこまでも飛んじゃう。アドレナリンが出てくると、距離感を出すのが難しい。そこは抑えて、冷静に、冷静にと気をつけました」

攻めない攻め、攻めすぎない攻めが、最も強力な攻めになることがある。ことゴルフにおいては――。

そして、もう昔の「あのときの精神状態ではやれない」。

石川遼は、そのぐらい変わった。だからこそ今の彼は強くなった。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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