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新コーチを発表したタイガー・ウッズの目論見と本当の課題

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
6代目コーチを発表したタイガー・ウッズ。メジャー15勝目なるか?(写真/平岡純)

【興奮。炎上】

このところ、タイガー・ウッズとその周辺が妙に騒がしい。「妙に」とあえて書いたのは、かつてのように華々しい優勝で世間を驚かせているのではなく、成績以外のことばかりで話題を提供しているからだ。

つい先日は米ゴルフダイジェスト誌がパロディとして掲載したウッズ架空インタビューを真っ向から批判してゴルフ界にさざ波を起こした。そして今度は新コーチを付けたと発表し、米国のサンクスギビング前の週末に大波をもたらしている。

ウッズには、この4年間、ショーン・フォーリーというコーチがいた。だが、ウッズは8月の全米プロ後、フォーリーと決別。以後はコーチ不在のまま、手術を受けた腰のリハビリに専念する日々を静かに送っていたのだが、11月も終わりに近づいた22日、突然、新コーチをツイッターで発表した。

新しいコーチはクリス・コモ。カリフォルニア州出身で現在はテキサス州在住。大学でサイエンスの修士課程に籍を置く37歳だ。米ツアー選手のアロン・バデリー(豪州)を指導中で、コーチング実績はすでにある。

ウッズが先日、架空インタビュー掲載の件で批判した米ゴルフダイジェスト誌は、毎年、優れたインストラクターを選出し、表彰するアワードを実施しているが、コモはそのアワードでベスト・ヤング・ティーチャーの1人に選ばれたことがあるというあたりが、なんとも因縁めいている。

とはいえ、ウッズとコモを引き合わせたのが米ゴルフダイジェスト誌というわけではなく、キューピット役を務めたのは、ウッズのスタンフォード大学ゴルフ部のチームメイトで米ツアー選手のノタ・ビゲイなのだそうだ。ビゲイが初めて2人を引き合わせたのは今年の夏。つまり、フォーリーとの決別とほぼ前後して、コモが次なるコーチ候補に浮上していたことになる。

ウッズは「これからは僕のスイングの相談や練習にクリス・コモが付いていてくれるのが、とてもうれしい。実戦に戻るのが楽しみでたまらないよ」と、興奮気味のツイート。

ウッズがこの発表をするやいなや、コモ自身のウエブサイトには問い合わせや祝福が殺到し、わずか数分で炎上したという。メジャーに勝てないウッズになって6年超になるが、タイガー・ウッズ効果はいまなお健在だ。

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(写真/平岡純)

【メジャー勝利こそ】

しかし、新コーチの話題は、あくまでも一時的なニュースにすぎない。前任者のフォーリーが“就任”した時期は、ウッズのあの09年に勃発した不倫騒動からの復帰とほぼ同時期だったため、フォーリーへの注目は驚くほど高く、当時はウッズの自宅近くで2人が一緒にランニングする姿がパパラッチされたほどだった。

そうやって始まったウッズ&フォーリーの二人三脚は成果を上げ、2013年は年間5勝。ウッズ完全復活を思わせた。だが、フォーリーがコーチした2010年から今年までの4年間、結局、ウッズはメジャー大会には1つも勝つことができなかった。言い方を変えると、フォーリーはウッズをメジャー大会で1度も勝たせることができなかったことになる。

そもそもウッズは、コーチは絶対不可欠と考える姿勢を、父親アール(故人)の影響で幼少時代から抱いてきた。ウッズが初めてコーチの指導を受けたのは4歳のとき。初代コーチはルディ・デュランだった。ジュニア時代はジョン・アンセルモ。ジュニア時代後半からプロ入り後の2002年まではブッチ・ハーモンで、4代目はハンク・ヘイニー、5代目はフォーリー、そして6代目に選ばれたのがコモだ。

プロ入り後のウッズを指導した歴代コーチの中で、ウッズをメジャーチャンプに1度も導くことができなかったのはフォーリーだけ。もちろん、それがコーチのみの責任かと言えば、そんなはずはない。が、責任問題はさておき、ジャック・ニクラスが記録したメジャー18勝に追い付き追い抜くことがウッズの究極の目標ゆえ、どうしてもウッズはメジャー15勝目を一刻も早く一緒に達成できるコーチを求めたくなるのだろう。

その意味で実績を挙げられなかったフォーリーはウッズから離れる運びになった。新コーチのコモも、ウッズをメジャー大会で勝たせて初めて“本物”と認められることになる。

【筋書き通り!?】

2014年のウッズは故障による棄権、欠場が続き、ようやく復帰した夏以降の4試合もクイッケンローンズ・ナショナルは予選落ち、辛くも予選通過した全英オープンは69位、ブリヂストン招待は途中棄権、全米プロは予選落ちとまるで振るわず、シーズンエンドのプレーオフ4戦への進出も、フェデックスカップが導入された2007年以来、初めて逃した。

以後、試合の場に姿を見せてはいないが、架空インタビューに対するクレーム、新コーチ発表と立て続けで、姿はなくても大きな話題を集めつつある。

そして、間もなく訪れる12月上旬には自らの財団が主宰するヒーロー・ワールド・チャレンジがウッズのかつてのホームコース、アイルワース(フロリダ州オーランド)で開かれ、松山英樹を含む世界の強豪18人が腕を競い合う。

ウッズと彼のマネジメントが描いたビジネス上の筋書きは完璧だ。残る課題、いや本物の課題は、コモとの新たなる二人三脚でメジャー15勝目を挙げるまでの道程が筋書き通りになるかどうかだ。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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