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2日目5位に浮上した松山英樹に 初めて知ってほしいこと

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
首位と3打差の5位に浮上した松山英樹。優勝への可能性が大いに広がった。(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

「可能性をつぶさなくて良かった」

マスターズ初日を1アンダー、13位タイで終えたとき、少し元気のない声でそう言った松山英樹が、2日目は首位と3打差の5位タイへ浮上した。

「可能性は大いに広がりましたね」と声をかけると、「悪くない。いい位置。明日が重要になるかな」と少々控えめに言葉を返した。

今日のプレーは満足?「まあ、どうなんでしょうね。微妙ですね」。

こんなときの控えめで曖昧で、ちょっぴり冗談めかした返答は、シャイな松山ならではの照れ隠し。

本当は、きわめて満足――そう受け取っていいはずだ。

【もはや理屈ではない】

初日を終えたとき、松山が直面していた課題はただ一つ。「まず自分のショットを修正すること」だった。ラウンドを終えたその足で練習場へ直行し、1時間以上、修正に励んだ。それが彼が望みをつなぐことができる唯一の道だったからだ。その練習で「だいぶ良くなったなと思って終わったんです。でも一晩寝たら忘れます」。

そう、どうやら取り戻した感触をベッドに置いてきてしまったらしく、2日目は1番、5番、6番と3つのボギーが先行し、雲行きは怪しかった。

しかし、ずるずる落ちるわけにはいかない、そこで踏みとどまり、巻き返す。その挽回力こそが松山の底力だ。

「7番ぐらいから(ショットがちょっと良くなりました」

そこからはアイアンショットがピンに絡み始め、曲がっていたティショットもフェアウエイばかりを捉えるようになった。7番、8番で連続バーディーを奪うと、11番では短いパーパットがカップに蹴られてボギーを喫したが、12番(パー3)では逆にバーディーパットがカップを1周してコロンと沈んでくれた。

13番(パー5)では2オン2パットで楽々バーディー獲得。この時点で1アンダーとして、ついに松山のスコアはアンダーを示すレッドナンバー(赤い数字)に変わった。14番でもバーディーを奪い、この3連続バーディーで2アンダー、4位タイへ浮上した。

なぜ、7番から突然、ショットが良くなり、流れが好転したのか?

「それがわかっていれば、もっと早い段階で(ショットは)直ってます」

そう、もはや理屈ではないのだろう。ただただ一生懸命に、ただただ一心不乱に、1打でも少ないスコアで上がることを目指していただけ。

そうしたら、なぜだか理由はわからないけれど「7番から良くなった」。風もグリーンも「昨日と同様、難しかった」。ショットは前日より良くなったとはいえ「まだ万全ではない」状態。ミスだって無くなったわけではなかった。

「17番とか、とんでもないミスでしたけど、まあ、それもあるもんだと思って(やっていた)。昨日までのミスよりはマシかな」

1つでも少ないスコアで上がりたい。少しでも前向きになって1つ1つ進んでいこう。そんな地道な姿勢が、松山を13位から5位へ押し上げた。

オーガスタナショナルのクラブハウス。松山はすべてを知っているはず!?
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【初めて知ったこと】

2日目は出場選手の多くが難関のフィニッシングホールでガラガラと崩れていった。首位を独走していたスピースも16番、17番で連続ボギーを喫し、通算4アンダーで18番をプレーしていた。

そのスピースらの組が18番のグリーンに到達したころ、18番ティに立ったのが2つ後ろでプレーしていた松山らの組だった。すぐ前の組は18番のセカンド地点。詰まってしまっていたため、松山らは長いことティグラウンドで待っていた。

そこからは17番グリーン横の大きなリーダーボードが見える。松山はしきりにボードに目をやっていた。

最上段にあるスピースの欄を眺め、彼が崩れたことを知ったはずだ。やがてスピースの18番の欄に赤い「4」の数字が入れられた。スピースは18番でバーディーを奪えず、通算4アンダーでフィニッシュ。18番ティに立っていた松山は、そのとき、スピースと2打差の通算2アンダー。

「ジョーダンが最後をパーで上がったので、(自分もパーで)2打差で上がれればいいなと思ってましたけど、まあ、うまくいかないですね」

松山は18番でフェアウエイを捉えたが、第2打はピン手前2メートルあたりのグリーン面をヒットしたものの、傾斜でグリーン手前まで戻されてしまった。ウエッジで寄せようとした第3打は強く入って1メートル半ほどオーバーし、パーパットはわずかに右に切れた。

「まあ、ショートしたら戻ることはわかっていましたけど、そのあとが下手くそすぎた。ああいうミスを無くしたい。(パーパットのラインは)毎年テレビで見ているラインが正しいのか、実際に見たラインのほうが正しいのか、わからない」

進藤大典キャディに声をかけ、ラインを相談した松山は、「ちょいスラ」という、自分たちのいつも通りの読みを信じて打ったのだが、「やっぱり切れた」。

最後はボギーの締め括りになってしまったが、一気に5位へ浮上したこと、首位との差を5打差から3打差へ縮めたことは、2日目の大いなる前進だった。

「3オーバー(注:3つ落としたの意)から戻したってのは、すごい良かったなと思う。3打差は悪くない。明日が重要になるかなと思います」

そう言えば、開幕前日、「マスターズで初めて知ったことなんて、ないかしら?」と尋ねたら、松山は「無いです」と、きっぱり言い切っていた。オーガスタの土を踏むのは、すでに5度目。一生懸命、隅々まで綿密にチェックし、練習し、戦い、そうやって積み重ねてきた日々を経て、もう「知り尽くしている」「やるべきことは全部やってきた」という気持ちから、「無い」と断言したのかもしれない。

だが、本当は満足感を得て、うれしかったであろう2日目の帰り際、ふいに松山からこんなことを尋ねられた。

「メディアセンターって、どこですか?」

「えっ?メディアセンターは、あそこ!あの建物」

ほらね、知らないこと、初めて気付いたこと、あったではありませんか。

そして、もう1つ。

サンデーアフタヌーンに味わう格別の味が、松山が今年のマスターズで「初めて知ったこと」になってくれたらいい。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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