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あれから1年。タイガー・ウッズが『田舎の小大会』に出て以降の米ゴルフ界はいかに。

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
2015年のウインダム選手権を最後に試合には1度も出ていないタイガー・ウッズ(写真:ロイター/アフロ)

『恥でもクレイジーでもタイガー・ウッズが田舎の小大会に出るわけ』。そんなタイトルの記事をこの欄に書いたのは、ちょうど1年前だった。

米ツアーのレギュラーシーズン最終戦、ノース・カロライナ州グリーンズボロで開催されたウインダム選手権。あのときウッズは2日目を終えて首位タイへ浮上。「ついにウッズの復活優勝?」「通算80勝目なるか?」

そんな期待を抱かせ、人々を興奮させたあの大会から早1年。しかし、あの大会を最後に、ウッズはただの1度も試合には出ていない。

ウインダム選手権はレギュラーシーズンの最終戦。シード争いの最後の砦の位置付けだ
ウインダム選手権はレギュラーシーズンの最終戦。シード争いの最後の砦の位置付けだ

【ウッズこの1年とこれから?】

すでに、あの大会の興奮も、あのころの状況も、みなさんの記憶から遠ざかり始めているのではないかと思う。

おさらいをすれば、1年前のあの大会直前、ウッズのフェデックスカップランキングは187位。これを125位以内へ一気に上げて、翌週から始まるプレーオフ4戦へ進むためにはウインダム選手権で優勝する以外に道はなかった。

だからウッズは1996年のプロ転向以来、一度も出場したことがなかったこの大会に突然の出場を決めた。とはいえ、昨季のウッズは同大会までに10試合に出場して予選通過が5試合しかなく、4日間プレーできた中での最高位は17位どまり。そんなウッズがいきなり優勝することは小さな可能性だった。

だが、その可能性を実現しそうになったときのファンの興奮ぶりは、まさに狂喜。しかし最終的には10位に終わり、プレーオフ進出の道は閉ざされた。

その翌週、ウッズは腰のヘルニア手術に踏み切り、その後、さらなる再手術へ。以後はリハビリ生活に入り、試合出場は1度も叶っていない。

「ちゃんと前進している」

今年に入ってからは腰の状態が快方へ向かっていることをウッズ自身もマネージャー氏もことあるごとにSNS等でアピールしてきた。

今年のマスターズ後にはオーガスタ近郊の練習場でジュニアクリニックに突然参加。300ヤード超のビッグドライブを披露したときは、「ウッズの復帰は近い」と米メディアは一斉に報じた。

だが、ウッズ財団が主催するクイッケンローンズ・ナショナルのメディアデイでは、池越えの短いパー3で打っても打っても池を越えられず、ウッズ復帰の記事を書こうと意気込んで集まっていたメディアたちが「思わず目を覆った」というほどの惨状を露呈。

それからというもの、ウッズは試合に出ていないどころか、公けの場で球を打つ姿さえ見せてはいない。

今季の試合出場はゼロ。当然ながらプレーオフ出場は叶わず、ウッズの試合復帰となりえる機会は、来季開幕戦となる10月半ばのセイフウエイ・オープン、あるいはウッズ財団が主宰する12月初旬のヒーロー・ワールド・チャレンジあたりになるのかどうか。

最近は米メディアも「ウッズの次戦は?」と目を光らせることはなく、「とりあえずライダーカップで姿が見られることだけは確かだ」と、米国チームの副キャプテンを務めるウッズに近況を尋ねるチャンスを静かに待っている。

ウッズの復帰時期と併せて気になることは、彼の今後のゴルフバッグの中身だ。ウッズが総合契約を結ぶナイキがゴルフ用具ビジネスから撤退を決めたため、復帰する際のウッズは果たして、どこのどんなクラブを握ることになるのか。

そんな興味も涌いてはくるが、米ゴルフ界の広い範囲の大会関係者やゴルフファンは、すっかり気持ちや興味を切り替えている様子だ。

今年は松山英樹、リッキー・ファウラー、ジム・フューリックが「注目組」とされた
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【ウッズ不在のゴルフ界】

ウッズ不在のこの1年。米ツアーの大会もメジャー4大会もリオ五輪のゴルフも、どれもエキサイティングな展開だった。

昨年はウッズを突然迎えてテンヤワンヤの大騒ぎとなり、今年はウッズ不在となったウインダム選手権はどうだったのかと言えば、「そりゃあ去年はタイガーの組に2万人超のギャラリーが付いて大賑わいだったけど、それと今年を比べるのはナンセンス。この大会が2008年にセッジフィールドCCに来て以来7年間、タイガーはここには居なかった。去年はたまたま出たけど、今年からは再びタイガーが居ない時代に戻っただけ。それを忘れてはならない」と大会関係者は現実をクールに見詰めていた。

たった一人のビッグスターの出場を望み続けるより、大勢の選手たちに最高の舞台を提供し、大勢の観衆に楽しんでもらう大会を創り上げたいと口を揃えるウインダム選手権の姿勢は、日本ツアーの参考になるであろう運営努力が多々見られる。

その話はまた別の機会に紹介するつもりだが、ともあれ、この大会が「素晴らしい」と絶賛する選手が増えつつある。

リオ五輪から飛んで帰って出場した選手は多かった。2013年覇者パトリック・リードは「どうしても出たかった」。リッキー・ファウラーは仲良しのジャスティン・トーマスから「いいコースだから毎年の出場ルーティーンに加えるべき」と勧められて初出場。

初優勝を飾ったキム・シウは21歳の新鋭。かつて17歳でQスクールを突破した実力者
初優勝を飾ったキム・シウは21歳の新鋭。かつて17歳でQスクールを突破した実力者

松山英樹にとってこの大会は2013年に翌年からの米ツアー出場権を確定させた思い出の地。「嫌いじゃないですよ、ここ」と言った松山は3位でフィニッシュ。そして初優勝を飾ったのは21歳の韓国の新鋭、キム・シウだった。

若いスターは日に日に着実に増え、ウッズにずっと振り向かれなかった“田舎の小大会”は、ウッズを迎えたただ1度の経験を生かし、米ツアーのレギュラーシーズン最終戦を飾る「素晴らしい大会」へと成長を遂げている。

それもまた“タイガー・ウッズ効果”だとすれば、やっぱりウッズは大したもんだ。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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