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2013年のゲーム関連企業をスマートフォンと時価総額の動きから振り返ってみる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 企業の情勢に敏感、時には過敏に反応する市場。時価総額で業界動向が見えてくる?

「パズドラ」で大きく飛躍したガンホー

今年もあと半月を残すばかり。ゲーム業界では時代の躍動を感じさせる動きが多々見られたが、とりわけスマートフォンに絡んで、ゲームアプリが大いに売り上げを伸ばし、販売企業の業績と株価に小さからぬ影響を与えた。今回はスマートフォンに的を絞り、日本国内の主要ゲーム関連企業をピックアップして株式の時価総額の状況を把握していく。

(株式)時価総額とは「株価」×「発行株式総数」で算出されるもので、簡単に言えば「その企業の価値」。時価総額が大きいほど、その企業は規模も大きく、価値が高く、勢いも有している(と市場は判断している)。

今回対象とする企業は、ゲーム業界大手の任天堂、スクウェア・エニックス、そして携帯電話向けゲーム大手のガンホー、GREE、DeNA。さらに先日から「モンスターストライク」で話題を集めているミクシィ。他にも上場ゲーム企業は多数存在するが、時価総額や携帯電話向けソフトをメインにしていないことから、今回は取り上げない。この6社の株式時価総額に、日経平均株価動向をかぶせる形で、今年1年間の値動きを盛り込んだのが次のグラフ。

↑ 主要国内ゲーム関連企業の株式時価総額比較(各社は億円、日経平均株価は円)
↑ 主要国内ゲーム関連企業の株式時価総額比較(各社は億円、日経平均株価は円)

今年一番ゲーム業界、そして株式投資業界をかき回し、大きな動きを見せたのがガンホー。同社が2012年2月にリリースした、スマートフォン向けパズルゲーム『パズル&ドラゴンズ』(パズドラ)が、超ヒットを見せたのが原因。

同社の株式時価総額は4月には大台の1兆円を突破。同業他社のDeNAやGREEをはるかに超え、スマートフォンにおけるソーシャルゲームの成功事例として、国内だけでなく国外でも広く伝えられることとなった。特に株価、時価総額の上昇度合いは目を見張るものがあり、「ガンホーにつづけ」「第二のガンホー銘柄を探せ」とばかりに類似企業への注力も高まり、またその注目ぶりはスマートフォン向け自社開発ゲームアプリ市場を一層活性化させる原動力となった。

そして5月下旬にはほんのわずかな期間ではあるものの、時価総額の上でガンホーは、あの任天堂すら追い超してしまう。同社の興隆を示す印象的な出来事である。

しかし同社の時価総額上の勢いもそこがピーク。主軸タイトルの「パズドラ」は相変わらずダウンロード数を増やし、海外展開や他プラットフォームでの発売決定など勢いを見せるものの、株価は下落。時価総額も落ち着きつつある。過熱感が収まり、あるべき状況に移行しつつあるといえる。とはいえ年末の現時点でも、年初と比べれば5倍以上の勢いを維持している。

一般携帯からの脱却に手間取る各社

一方GREEやDeNAは去年の「コンプガチャ」問題の痛手から回復しきれていないこともあり、株価は横ばい。時価総額も大きな変化は無く推移している。年末にかけてGREEではやや復調の兆しがあるが、かつての勢いは見られない。両社の財務諸表を確認しても、増加する経費、落ち込む売上など、頭の痛い問題が随所で見受けられる。

「コンプガチャ」以外で理由をあえて一つだけ挙げるとすれば、上記ガンホーとは対照的に、一般携帯電話(フィーチャーフォン)からスマートフォンへの開発ラインのシフトが遅滞した、十分でなかったことが挙げられる。ここまで急速に、特にゲーム世代の若年層にスマートフォンが浸透し、注力がスライドするなど、予想するのは難しかったに違いない。また一般携帯電話で大成功をおさめたからこそ、スマートフォンへのシフトが難しかったともいえる。無論両者とも現在では多数のスマートフォン用アプリの展開を始めており、攻勢をかけているものの、時価総額上ではその成果は見えてこない。

スクウェア・エニックスは今夏以降、少しずつだが確実に時価総額は上昇中。同じタイミングで数多くのオンライン系ゲームの展開が成され、それが好評を博していること、スマートフォンなどへの展開を積極化したことなどが評価されている。財務上も11月発表の2014年3月期・第2四半期では純利益で黒字転換を果たしている。

ミクシィはゲームがメイン事業では無いものの、一般携帯からスマートフォンへのシフトが遅れていることで、低迷を続けている。ところが10月10日に配信を開始した「モンスターストライク」が大ヒットの様相を見せ、12月2日には利用者数が30万人を突破したとリリース。スマートフォンのゲームであること、そして元カプコン専務取締役の岡本吉起氏が制作に参加していることから注目が集まり、「第二のガンホー・パズドラか」との連想から株価は沸騰。それと共に時価総額も盛り上がりを見せる。

しかし5日連続ストップ高の後、ストップ安が続く状況が続いており、当然時価総額も下落のさなかにある中で、今に至る次第となっている。

スマホの普及は進むが供給側はそれ以上に増える

今回取り上げた各社に限れば、今年一年は「スマートフォンの急速な普及」を背景に、その流れに乗れた企業が業績を上げ、評価を受け、時価総額を底上げしている。「スマホの波に乗った勝ち組」が時価総額を上昇させたことになる。

来年はさらにスマートフォンの普及が進むことは間違いなく、当然ゲームアプリの受け手となる市場そのものは拡大していく。しかしそれ以上に供給側の参入が増えることから(何しろ家庭用ゲーム機向けソフトと比べれば、参入ハードルは低い)、供給過多に陥る可能性はある。よほどの実力と発想力、そして幸運が無い限り、「第二のガンホー、パズドラ」は登場しないだろう。

もっとも市場が大きくなるほど、多様、様々な可能性を秘めた創作が投入されやすくなる。市場情勢と需要を正しく見極め、創り手が存分に実力を発揮し、幸運の女神に微笑まれるタイトルが、今まさに生まれようとしているのかもしれない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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