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パート・アルバイトだけで1320万人…非正規社員の現状

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ コンビニの店員も大部分はアルバイト(写真は駅ナカコンビニのトモニー)

非正規社員は1906万人、前年比93万人増

労働市場の変化の中で、注目を集めている事象の一つが、非正規社員問題。雇用者全体のうち非正規社員の比率が増加し、該当者の生活の安定性が懸念されるのはもちろんのこと、職場では技術や経験の継承が困難となり、企業・業態そのものが脆弱化するとの指摘、報告もある。そこで総務省統計局が2014年2月に発表した、2013年分の労働力調査の結果を基に、日本における非正規社員の現状を確認していくことにする。

単純な数字として現状を示すと、正社員・従業員は2012年の3340万人から2013年には3294万人となり、都合46万人減少している。一方で非正規社員は2012年の1813万人から2013年には1906万人となり、93万人の増加。

最初にグラフ化して取り上げるのは、雇用形態別で区分した、非正規の職員・従業員(非正規社員、非正社員)の人数推移。少々古い話になるが「「派遣叩き」がもたらす現実……企業は「派遣を減らしパートやアルバイトを増やす」意向」で解説した通り、「派遣叩き」が世論、そしてその世論に後押しされる形で成立・施行された各種法規制で行われ、多業種の企業は派遣社員を敬遠する傾向にある。

直近データとなる2013年は、景気が低迷から転換しはじめた一方、企業側はコスト増への懸念や必要な労働力の柔軟化、閑散期と繁盛期の差が大きい第三次産業比率の拡大、雇用される側は主婦をはじめとした就業時間の柔軟性の需要拡大と、正規雇用されることの難易度が上がる現状から、主要な非正規社員の項目すべてで前年から人数は増加している。特にパート・アルバイトの増加が著しい。

↑ 雇用形態別にみた非正規の職員・従業員(万人、2013年)
↑ 雇用形態別にみた非正規の職員・従業員(万人、2013年)
↑ 雇用形態別にみた非正規社員の推移(万人)
↑ 雇用形態別にみた非正規社員の推移(万人)
↑ 雇用形態別にみた非正規の職員・従業員の対前年増減の推移(万人)
↑ 雇用形態別にみた非正規の職員・従業員の対前年増減の推移(万人)

派遣社員の減少は「派遣叩き」の影響が出始め大きく値を減らした2009年、そして2010年と続き、ようやく2011年にはプラスマイナスゼロの領域まで回復した。この期間には同時に「パート・アルバイト」「契約社員・嘱託」が増えているところから、単に労働力が過剰で非正規社員が減らされたのでは無く、「派遣社員がバッシングで雇用しにくくなったのなら、同じような作業はアルバイトや契約社員に任せよう」を企業が実践していたことが分かる。

2013年では労働力そのものの不足に加え、雇用される側・する側双方で非正規化への流れが加速、いずれの様態でも非正規社員は増加している。なお冒頭で触れている通り、雇用者全体数は微増しているが、正規社員は減少し、その分非正規社員は増加していることから、労働の様式そのものの変化(非正規化へのシフト化)が進んでいる現状が改めて見て取れる(非正規社員は男女ともに増加しているので、女性のパート需要のみが拡大したわけでは無い)。

正社員率は63.3%

2013年時点では雇用者全体の63.3%が正社員(・正職員)、残りがパートや派遣、契約などから成る非正規社員。ただし上記グラフにある通り、この値は兼業主婦によるパート・アルバイトが多分に含まれている。

↑ 雇用形態別にみた雇用者の割合推移(役員を除く雇用者に占める割合)
↑ 雇用形態別にみた雇用者の割合推移(役員を除く雇用者に占める割合)

グラフの状態からは、単純に非正規社員の割合が増加の一途をたどっているように見える。しかし先の実数のグラフと照らし合わせると、景気後退の影響が出る2008年までは「正社員数は横ばいか微減」「非正規社員は増大」との構図、言い換えれば企業は「景気拡大期は非正規社員の増加で、業務拡大に対応していった」のが大きな流れであることが分かる。なお「派遣社員制度叩きで正規雇用化を求める動き」と、「不景気で雇用調整が行われ、正規社員が減る時期」「不景気に加えて派遣叩きの世論で派遣市場が縮小する時期」、さらに「パートやアルバイトの増加時期」はほぼ一致する。それぞれ別個の事態に見えるが、少なからぬ連動性があることは容易に想像できる。

現在は景気後退・低迷期からようやく回復期に向かいつつあるが、労働市場の内部構造の変化は続いている。上記に挙げた第三次産業比率の増加もその一要素である。効率的な企業経営が促進される中で正社員が必要とされるポジションが増えることは無く、柔軟性に富んだ非正規社員の需要ばかりが増加している。

また、定年退職者やリストラによる中途解雇者の増加も、昨今の労働市場においては重要な要素の一つ。非正規社員の増加数では、若年層よりはるかに多い中堅層の増加が確認されている。とりわけ中堅層女性の増加が著しく、小売業などでの女性のパート・アルバイトの需要が大幅に増加したものと想像でき、実際その通りの動向が確認できる。

↑ 年齢階層別・非正規社員の前年増減数(2013年)(万人)
↑ 年齢階層別・非正規社員の前年増減数(2013年)(万人)

非正規社員の増加、雇用者全体に占めるシェアの増加は、労働市場の変化の表れの一側面に違いない。非正規社員の生活の不安定さをおもんばかれば、正社員の増加を求める声が増すのも当然の動き。

一方で上記のデータにある通り、非正規社員そのものの構成や増加分の多分が、兼業主婦のパートやアルバイト、定年退職者や中途解雇者による中堅層以降の再雇用から成る事実の認識も欠かせない。正しい状況を把握せずに、全体的な、表面的な数字だけを振りかざして、バッシングの機運を高めれば、数年前の派遣叩きとその結末同様の愚が繰り返されてしまう。

「木を見て森を見ず」的な判断を下さないよう、願いたいものだ。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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