増える公開本数、減る平均入場者数…映画館のすう勢
映画館数と公開映画本数と
先日「「映画離れ」は「映画そのもの離れ」と「映画館離れ」」で民間調査会社による経年調査の結果から、いわゆる「映画離れ」は「映画そのもの離れ」と「映画館離れ」の2要素で構成されているとの解説をした。今回はそれに連なる形で、映画館そのもののすう勢について、一般社団法人日本映画製作者連盟が年ペースで更新公開している「日本映画産業統計」を基に、確認していくことにする。
まずは映画館そのものの数の流れ。御承知の通り昨今の映画館では、複数のスクリーンが用意されている「シネコン(シネマコンプレックス)」が主流となりつつあり、従来の1スクリーンのみの「通常型映画館」は数を減らしている。カウント数の仕組みの変更で統計において完全には連続性はないものの、映画館数(スクリーン数)は1993年に最小値を示した後、わずかずつだが増加を続けている。
ただし2008年以降は「スクリーン数はほぼ横ばい」「シネコン数は増加」であることから、映画館数そのものは漸減していることになる。「近所の映画館が閉鎖され、足を運ぶ映画館が無くなってしまった」という話を見聞きすることがあるが、それは特異な例ではないのだろう。
映画の公開本数は長らく600本/年前後を維持していたが、2005年前後から増加、減少、そして大幅な増加という動きを示している。
2011年には東日本大地震・震災により物理的な被害を受けた映画館もあり、さらに自粛ムードが吹き荒れたにも関わらず前年比で増加、そして2012年では記録に残っている1955年以降最大の公開本数となる983本(邦画・洋画合わせて)を示している。
その勢いはとどまることを知らず、直近の2013年は再び記録を更新、公開本数は1117本(邦画・洋画合わせて)に達した。年間1000本超えは記録のある1955年以降はじめてのことで、邦画の591本・洋画の526本もそれぞれ過去最大の本数を記録している。
総数は増えつつあるが…映画館の入場者数は!?
スクリーン数は横ばい、映画館数は漸減、しかし公開映画数はここ数年で大幅増。それでは映画館への入場者数はいかなる変化を示しているのか。映画(館)の人気ぶりの動向を一番ダイレクトに確認できる、この値を確認する。
1958年の11.3億人/年をピークに急速に入場者数は減少し、1970年後半以降はほぼ横ばい。この急激な減少の原因は、映画館での映画観賞の代替となる「テレビの普及」によるものに他ならない。特に1959年の皇太子明仁親王(今上天皇)ご成婚の中継が、家庭用テレビの普及に大きなインパクトとなった。
ただしこの数年では1997年の1.41億人を下限とし、わずかずつではあるが、横ばいから持ち直しの動きも見せていた。直近の2013年は1.56億人、前年比で約73万人の増加。前年の震災による影響で1.45億人まで減った状況からは回復しているが、まだ直近の高値である2010年の1.74億人には及ばない。
映画の公開本数が大幅に増加しているにも関わらず、総入場者数にはさほど変化がない。これは映画1本あたりの平均入場者数が減少していることを意味する。実際具体的にその値を試算したのが次のグラフだが、ここ数年は確実に減少を示しており、集客力のある映画が少なくなっていることを示唆している。
単純試算だが、直近の2013年における、1公開映画あたり平均入場者数が14.0万人という値は、記録のある中では過去最低値。直近の高値である2010年の24.4万人から4割強の減少となる。
今後、どうすべきか
各種データから確認する限り、映画館における映画の現状は、「スクリーン数は維持されているが映画館数が減っているため、来館ハードルは上昇」「公開映画数は大きく増加しているが総入場者数に大きな変化はない」「ヒット作は出ているが、それ以外の作品も増加しており、1本あたりの平均入場者数は減少」などとまとめることができる。公開本数の増加だけを見れば「映画離れ」という表現は適切ではないが、その他の要素を合わせ見ると、その表現の方が適切と言わざるを得ない。
ブロードバンド環境の普及、動画配信の浸透と常用化、そして映画もインターネット経由により、自宅観賞でも優れた画質のものを楽しむことができるようになった。さらに地上波テレビの地デジ化で家庭内のテレビも大型化・高画質化し、映画館は競合のパワーアップが進むばかりとなり、厳しい状態におかれている。
映画業界でもシネコンの展開、さらには4DXなど、さまざまな手を打ってはいるが、状況の変化とそれに伴う消費者性向の移り変わりは、映画館側の対応を上回るスピードで進んでいる。時代の流れを見極めた上で、その流れに乗る変化・アイディアの詰め込みをしなければ、映画館が現状維持、さらには発展する形で生き残ることは難しいだろう。
■関連記事: