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環境省から直々にお叱りを受けた報道ステーション

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 現時点に至るも今件放送への抗議に関する反論・解説は見られない

震災から3年目に放送された番組と、その内容への疑惑、反論

折しも震災から3年目を迎えた3月11日に、テレビ朝日系列の(自称)報道番組「報道ステーション」において特集の形で、「甲状腺検査」に関する内容が放送された。それ自身は放送タイミングも合わせ、大いに反響を呼ぶことになったが、その内容のずさんさ、恣意的な解釈、伝え方に関し、各方面から多数の抗議や非難、ツッコミが入っているのも事実である。

放送翌日には早くも番組内で取り上げられた福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センターから、事実誤認や誤解釈などに対する非難声明に近い見解の発表「平成26年3月11日「報道ステーション」の報道内容についての 福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センターの見解」が成されている。内容はといえば、番組内で語られていた「問題点」の数々に対し、事実誤認であること、調査不足であること、そして暗に「煽動だよね、それ? 確定した事実なの?? ちゃんとしたデータはこちらにあるよ?」的な話、さらには情報開示云々とあるが、対象者一人一人のプライバシー保護を最優先事項とする旨を論じている。センターの見解内容には何もおかしいこと、不思議なことは語られていない。

これに加えて先日、3月20日付で、環境省からも今件報道に関して、「平成26年3月11日(火)に放映されたTV朝日の番組「報道ステーション」において、福島県「県民健康管理調査」のうち甲状腺検査(以下単に「甲状腺検査」とします。)について報道がなされましたが、事実関係に誤解を生ずるおそれもあるので、環境省としての見解を以下のようにお示しいたします」と冒頭でわざわざ番組名を特定する形で、ほぼ注意勧告的な情報伝達が成されることとなった(「最近の甲状腺検査をめぐる報道について」)。

↑ 環境省も番組名を明記した上で事実上の「お叱り」となる見解を発した
↑ 環境省も番組名を明記した上で事実上の「お叱り」となる見解を発した

内容的には放射線医学県民健康管理センターのものとほぼ変わらず、また、過去3年に渡り各方面で力説されてきたことの繰り返し的な内容でもある。

これら番組・放送内容を特定した抗議的な声明、意見に対し、今のところ番組や放送局自身から、分かりやすい場での公的な反論、解説は確認されていない。

「報道」とは何だろう

テレビ局側の立場で考えれば、そのままベタな事実を語るよりも「これを語れば注目されて話題を集めて視聴率が期待できる」という商売っ気があることは否定できまい。また、局独自の姿勢や方針もあることから、今件のような内容の番組が編成され放映される事情が存在するのだろう。それが事実でなくとも、煽動的で推測を多分に含み、かつそれを全体的な事実であるかのように語り、視聴者を不安に駆りたてる、それでもなお「報道」という名前を呈した上で放送する、それだけの決意と意図があるのなら。

ただし、それが公共的な立ち位置にあるインフラで行ってよいか否かは、また別の話。そもそもテレビ放送とは(行政機関からの許可を受けた上で展開される)免許事業であることを忘れてはならない。

またこのような事案で問題なのは、テレビが曲がりなりにも権威がある、報じられたことはすべて正しい、確たる事実の証拠足り得る(内容がどれほど偏向した、事実に反するものだとしても)素材として、第三者に使われ、虚実や妄言の後ろ盾として使われてしまう事例が多々存在すること。案の定、今回の放送もYouTube上に該当映像が多数コピーの上、掲載され、その論評の多くが「放送内容はすべて真実。行政は事実を隠ぺいしているッッッ」という煽動的なものばかり。

↑ 「報道ステーション 甲状腺検査」でYouTube内を検索した結果
↑ 「報道ステーション 甲状腺検査」でYouTube内を検索した結果

中には動画から自分達の属する団体への勧誘や寄付に誘導しているものすらある。ブログなどでの紹介に至ると、むしろノイズ的な情報ばかりで検索エンジンがまともに働いていない状態と評しても良いほど。放射線関連の話には、特にこのような情報(動画)ロンダリング的な世論誘導が多く、多数の人が惑わされる(先日の「動画の「慣れ」でトラブるダマシのテクニック」でも解説の通り、動画がその内容如何に寄らず権威あるもの、正しいものという誤認を利用しているといえる)。

ここまで当事者や関係各機関からの反論があるにも関わらず、意図的な内容を公知放映した上で、局・番組側は、何ら反応的な対応をしていない。これは昨今特に科学関連の報道、とりわけ震災や電力、原発関連に見られる傾向で(テレビ朝日に限った話ではないが)、中でも各電力会社に関する「報道」と、その事実誤認について反論を行う電力会社側の抗議声明で繰り返されている。

↑ 例えば中部電力では特設項目を設けて定期的にリリースを発しなければならない状態にある。他電力会社でも大きな違いは無い
↑ 例えば中部電力では特設項目を設けて定期的にリリースを発しなければならない状態にある。他電力会社でも大きな違いは無い

テレビ局をはじめとする報道各部局には、科学的事象に関して精査するセクション、あるいはその筋の「正しい」専門家に問い合わせるだけのリソースが存在しないのだろうか。

抜かない「宝刀」は力を失うもの

そろそろ行政もテレビ局に対して「伝家の宝刀」を用いるべきではないか、その時期に来ている感はある。震災以降、正しい(特に科学的方面での)情報伝達という観点で、その必要性はさらに顕著化しているのは明らか。「伝家の宝刀」は存在だけでも意味があるものの、使われなければ「どうせ抜きっこない」とばかりに軽んじられ、その効力も錆びついてしまうばかり。

どの道、テレビ局の一つや二つ、一定期間停波措置を講じたところで、情報伝達の上で社会的混乱が起きるような状況も無い。むしろそれを成さずして生じている、長期的な弊害の方が問題と言わざるを得ない。今回の件も、その「問題」の一端に過ぎないのだから。

このような話を呈すると、必ず「権力の横暴を許すな」「報道の自由を蔑ろにするのか」「萎縮してしまうではないか」という、声高な反発の意見がある。しかしながら、得てして「歯止めなき力は正邪の別なく暴走する」(詳細な事例は「「自由」と「自由奔放」は別物、そして「歯止めなき力は正邪の別なく暴走する」」参照)。自由という武器を主張するあまり、歯止めも効果を発揮されず、ルールも倫理も守らずに振り回していたら、それは自由という名の暴力でしかなく、権力の横暴と何ら変わりはない。今件報道内容が「報道」という名の権力による横暴、暴力であると、誰が否定できようか。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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