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シニア運転手の家族の2割近くは「危険だから運転止めて」と思っている

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 個人差はあるが概して不安視される高齢運転者。家族の想いは…

加齢と共に生じる身体能力の衰えは防ぎようがない。そして瞬時の判断が求められる自動車運転では、その衰えはリスクの底上げを意味する。警察庁が先日発表した「高齢運転者(75歳以上)の交通事故防止に関するアンケート結果」などの調査報告資料によれば、2013年時点において死亡事故に限定しても若年層と比べ約2.5倍もの高い事件比率が出ている。

↑ 2013年の免許保有者10万人当たりの死亡事故件数
↑ 2013年の免許保有者10万人当たりの死亡事故件数

それでは家族に高齢運転者がいる人達は、その高齢運転者にどのような考えを持っているのか。今調査対象母集団では19.5%の人が「自分の家族の中に免許を持つ75歳以上の人」、つまり高齢運転者がいると答えている。

↑ 自分の家族の中に免許を持つ75歳以上の人はいるか
↑ 自分の家族の中に免許を持つ75歳以上の人はいるか

この2割近くの「高齢運転者を家族に持つ運転者」に、具体的な思いを運転面から答えてもらったのが次のグラフ。「今は問題なく運転できている。しかし今後身体が衰え運転に難儀するようになったら、運転を止めてほしい」と、将来は状況次第で運転を止めるべきであると考えている人が45.7%に達していた。

↑ 自分の「75歳以上の家族」が車を運転することについてどう思うか(択一、該当家族がいる人限定)
↑ 自分の「75歳以上の家族」が車を運転することについてどう思うか(択一、該当家族がいる人限定)

見方を変えればこの45.7%の人は「加齢による運転差し止め賛成派」に属することを意味する。一方、すでに家族の高齢運転者が危険な運転を行っているなどの理由から、「運転を止めてほしい」と望んでいる人は16.8%。

ところが「危険だ」と分かっている、運転を止めてほしいと願う一方、運転を止めさせると当人の移動手段が無くなってしまうため、運転を止めさせるわけにはいかない「あきらめ派」がほぼ1/3にも達している。この項目回答者も「加齢による運転差し止め賛成派」には違いないが、現実には差し止めが出来ないという点で、やや立場を異にしていることになる。他方、「加齢で身体能力が衰えようと、危険だとは思わないので運転を止める必要は無い(あるいは加齢で身体能力など衰えない)」との意見は4.1%でしかない。

つまり身内に高齢運転者がいる人のほとんどは、対処結果に多少の違いはあれど、加齢などで身体能力が衰え、判断力などで問題が生じてリスクが上乗せされる状態となれば、運転を止めてほしいと考えていることになる。それが「今では無く今後」なのか「今すぐにでも」なのか「移動手段が確保できれば」なのか、条件の違いでしかない。

表現がやや雑になるが、いわゆる「歩きスマホ」をしながら、何も他にしていないのと同じ状態で行動が出来るかという事例と、加齢による自動車運転リスクは似ている。判断力、注意力が通常より制限された状態で、通常と同じような行動、選択が可能か否かと問われれば、無理と答えざるを得ない。

身体能力の衰えには個人差があり、一律に年齢でざっくりと運転禁止を求めるのには弊害が大きすぎる。また当事者の反発も極めて大きい。現状の「高齢運転者標識(高齢運転者マーク)」ですら、現在のデザインが決定するまでには紆余曲折があり(「高齢者運転の「もみじマーク」、今日から「四つ葉マーク」が仲間入り」参照)、表示義務・罰則規定も無い状態である(一方、初心者マークは道交法違反として反則金や行政処分点数が取られる)。さらに今件該当者の1/3を占める「移動代替手段が確保できないので、リスクがあるのは分かっているが、運転を止めさせられない」事案のように代替移動手段の確保など、高齢者運転問題においてクリアすべき問題は多い。

しかし高齢運転者は今後さらに絶対人数、全体の運転者に占める比率が増加する。早急に何らかの手立てを講じなければならないのは間違いない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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