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じわりと出生率は減少中…米国の人種別出生率の詳細を探る

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ アメリカ合衆国の象徴、自由の女神。同国では出生率も高い値を示していたが……

多民族国家・移民受け入れ・非嫡出子の容認的社会環境を持ち、先進国でも数少ない人口増加傾向を示しているアメリカ合衆国。しかしながら昨今ではその傾向に変化も見え始めている。その状況を主要人種別の出生率(合計特殊出生率)の動向から確認していく。

「合計特殊出生率」とは「一人の女性が一生のうちに出産する子供の平均数」を意味する。この値が2.0なら、単純計算で夫婦2人から子供が2人生まれるので、その世代の人口は維持される。値は各年齢(世代)の女性の出生率を合計することで算出される。ただし実際には多様なアクシデントによる減少があるため、人口維持のための合計特殊出生率は2.07から2.08といわれている(人口置換水準)。

次に示すのはアメリカ合衆国の疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)内にある人口動態統計レポート(National Vital Statistics Reports)で公開されている各種データを基に、主要の人種につき合計特殊出生率の推移を確認したもの。白人・黒人に関しては非ヒスパニック系の値を適用している。

↑ アメリカの合計特殊出生率(1998年-2013年)
↑ アメリカの合計特殊出生率(1998年-2013年)
↑ アメリカの合計特殊出生率(2009年-2013年)
↑ アメリカの合計特殊出生率(2009年-2013年)

「アメリカ全体の出生率を押し上げているのはヒスパニック系の高値」「ヒスパニック系においては不景気時の出生率の減少ぶりも著しい」などが確認できる。また一方で、主要人種の中で一番低い値を示す白人系においても、日本の値と比べればはるかに高い数字を示している(日本は2013年時点で1.43)。

緩やかな動きを示していたアメリカにおける合計特殊出産率だが、2007年から2008年を境に、どの人種においても明らかに漸減しているのが確認できる(アジア・太平洋諸国はやや持ち直しの機運もあるが、それも大きな戻し方では無く、しかも直近2年ほどで失速している)。2007年から2008年への単年の変化ならば統計手法の変更などによる誤差の可能性もあるが、2008年以降は明らかなトレンド転換を示しており、その理由は該当しにくい。

この減少理由については諸説があり、そしてそのいずれもが単独で断定できるだけの理由とは成りえない。しかし2012年に公開されたブルームバーグのコラム記事「米国での出生率低下、その脅威とジレンマ」は、その主要因として十分納得のいくだけの説得力を持つ内容を記している。

大雑把にまとめると「多くの女性にとって、子どもは最も喜ばしく、最も贅沢な消費財というのが真実。そして子供の養育は時間的にも金銭的にも高くつくため、中高所得社会では少なからぬ寂しさとともに、欲しいだけの子どもを持つ余裕がないとあきらめる女性が増えている」とするもの。金銭的余裕の欠乏から、子供を持つことをあきらめる、見方を変えれば「経済的な理由による少子化が進んでいる」というものである。

つまり出生率低下の原因は、いわゆる「先進諸国病」の症状とするもの。具体的には、経済的・文化的レベルが上がると、養育費は累乗的に増加し、世帯への子供一人あたりの負担も相応に増えるが、世帯所得の増加はそれに追いつかず、経済上まかなえる子供の数は減るとする説である。

この「経済的要因による少子化への動き」は、日本国内でも複数の調査結果から裏付けられている。例えば国立社会保障・人口問題研究所が発表した「第14回出生動向基本調査」では、「欲しいと思う子供の数」まで子供を持たない理由の最上位には「子育てや教育にお金がかかりすぎる」となっている。

↑ 妻の年齢別に見た、理想の子供数を持たない理由(2010年)(予定子供数が理想子供数を下回る夫婦限定、複数回答)
↑ 妻の年齢別に見た、理想の子供数を持たない理由(2010年)(予定子供数が理想子供数を下回る夫婦限定、複数回答)

アメリカでは景気回復感が見られる2013年時点でも合計特殊出生率の下落は止まらず、出生率は上昇に転じていない。どれだけの景気回復が果たせれば、出生率は上向くのだろうか。

日本とは文化的な事由をはじめ諸条件が異なるため、一概に同じとは言い切れない。しかし検証とその結果を施策に活かす意味でも、日本国内の動向と共に、状況分析が求められよう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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