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子供の読書離れなど無い、あるのは雑誌離れ

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ ゲームやスマホ、テレビで子供は本を読まなくなった。良く語られる話だが

むしろ増加している小中高校生の読書冊数

出版業界の低迷理由の一つとして世間でよく語られているのが「子供の読書離れ」。テレビやゲーム、スマートフォンの利用で本を読まなくなったとの話だが、本当に子供達は読書をしなくなったのだろうか。全国学校図書館協議会が公開している資料の中から、同協議会が毎日新聞社と共同で毎年実施している「読書調査」の公開データをもとに、小中高校生の児童生徒における読書状況を確認する。

次以降に示すのは全国学校図書館協議会と毎日新聞社が毎年6月前後に全国小中高校に対して実施している、読書に関する調査結果「学校読書調査」の公開データを元にしたもの。直近2014年分は選定基準により全国から求めた調査対象校に在学する児童・生徒のうち、各学年につき1学級を選定し、6月の第1・2週にクラス毎に集団質問紙法で、先生が説明をしながら生徒が回答を記入する方式を用いている。対象人数は小中高それぞれ4000人強。

次のグラフは該当生徒における一か月間の「書籍の」平均読書冊数。今調査では別項目で電子書籍について尋ねていることから、該当書籍は紙媒体のものに限られる。また雑誌は別項目の問い合わせ項目があるため、今項目は純粋に書籍に限定される。なお平均読書冊数などの平均値は、調査対象母集団全体に対する平均値。読書をした人のみ限定の平均値では無い。

↑ 1か月間の平均読書冊数推移(該当年5月、冊数)
↑ 1か月間の平均読書冊数推移(該当年5月、冊数)
↑ 1か月間の平均読書冊数推移(該当年5月、冊数、直近10年分)
↑ 1か月間の平均読書冊数推移(該当年5月、冊数、直近10年分)

2000年前後までは平均読書冊数ほぼ横ばい。それ以降は本離れどころかむしろ増加の傾向にある。特に小学生において増加は著しい。直近の2014年では小学生が月に11.4冊、中学生は3.9冊、高校生は1.8冊。

2000年前後からの上昇、特に小学生において目覚ましい伸びを示しているのは、いくつかの理由があげられるが、最大の要因は1988年に船橋学園女子高校(現・東葉高校)で実践が始まった「朝の10分間読書」運動であるとする説が有力。これは読書の習慣を身に着けるために毎朝10分間、始業時間前に読書の時間を設けるとするもので、「皆で同時に行う」「毎日行う」「読む本は自由」「読むだけ」の4原則のもとに行われる。対象の本は生徒が持参したものでも、学級文庫などでも良い。

2001年に文部科学省が「21世紀教育新生プラン」を呈し、その中で「朝の読書活動の推進」を具体的に掲げたことから、今件活動は特に小学校の間に浸透することとなった。また教材の文章と並行する形で学校の図書館などが保有する書籍を読書させる「並行読書」などの学習スタイルも推し進められており、これも小さからぬ影響を与えている。

これに伴い読書をしない子供の割合を示す「不読者数率」も2000年前後を区切りとして大きく減少の動きを示している。

↑ 1か月間の不読者数率(該当年5月、冊数でゼロ冊回答者率)
↑ 1か月間の不読者数率(該当年5月、冊数でゼロ冊回答者率)

読書冊数の増加傾向は小学生で著しいが、不読者数率の減少はむしろ中学生の方が目覚ましい成果を出している。直近2014年では小学生は3.8%、中学生は15.0%、そして高校生は48.7%。類似の他の調査同様、高校生は幾分本になじまない傾向がある。

小中高校生で進む雑誌離れ

雑誌は別途調査項目に挙げられているが、書籍とはうってかわり、紙媒体離れが顕著な結果が出ている。なお各グラフは公開データの取得可能領域の関係から、1994年から2003年までは値が存在しない状態でのグラフ生成となっている。実データは存在しており、報告書ではその値を元にしたグラフが形成されている。

↑ 1か月間の平均読書冊数推移(雑誌、該当年5月、冊数)
↑ 1か月間の平均読書冊数推移(雑誌、該当年5月、冊数)
↑ 1か月間の平均読書冊数推移(雑誌、該当年5月、冊数、直近10年)
↑ 1か月間の平均読書冊数推移(雑誌、該当年5月、冊数、直近10年)

幾分凸凹はあるものの、大よそ漸減の形で推移している。直近の2014年では小学生は月3.5冊、中学生は2.3冊、高校生は1.5冊でしかない。

当然のことながら不読者数率は漸増傾向にある。

↑ 1か月間の不読者数率(雑誌、該当年5月、冊数でゼロ冊回答者率)
↑ 1か月間の不読者数率(雑誌、該当年5月、冊数でゼロ冊回答者率)

特に高校生はこの数年、急激に不読者数率が上昇しているのが目に留まる。報告書では解説は無いものの、書籍と比べてお手軽・時間つぶし的な要素の強い雑誌の利用者が、スマートフォンなどのインターネットツールへとシフトしたと考えれば道理は通る。その仮説が確かなら、この数年で似たような傾向を中学生も見せ始めるはずである。

子供の読書離れは起きていない、起きているのは雑誌離れ。そしてそれは……

「子供の読書離れ」なるものは実在せず、実際には教育関係者らの努力なども成果を結び、むしろ以前より「子供」と「書籍を対象とした読書」との距離感が緊密なものになりつつあるのが実態。一方雑誌は元々距離を置く傾向にあったが、携帯電話などの代替手段の登場と浸透に伴い、特にこの数年は急速に読まない人の増加、読む冊数の減少が見受けられる。とりわけ高校生にその傾向が表れている。

「子供の読書離れ」は存在せず、あるのは「子供の雑誌離れ」。そしてそれは子供に限った話では無く、世間全体の傾向に他ならない。

 ↑ 総世帯の書籍・他の印刷物への平均購入頻度(総務省統計局発表・家計調査報告から)(月次)
↑ 総世帯の書籍・他の印刷物への平均購入頻度(総務省統計局発表・家計調査報告から)(月次)

雑誌を読まない慣習は、そのまま大学生、大人へと歳を経て引き継がれる。子供の雑誌離れ傾向が進んでいる状況を鑑みるに、今後さらに雑誌需要が漸減していくことは容易に想像できよう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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