世界諸国の携帯電話の普及率推移を探る
イタリアやドイツなど複数国で100%超な先進諸国編
携帯電話の普及浸透は人類の文化社会史上において大きな影響力を与えている。その普及浸透状況を国際電気通信連合(ITU)の公開データから確認していく。
まずは先進諸国。「先進(諸)国」との言葉には色々な定義、見方がある。そこで今回は明確な基準として「G7対象国」を用い、その各国を対象とする。ロシアを加えてG8でも良いが、ロシアの携帯電話普及率推移は、むしろ新興国のそれに近いので、同国動向は新興国側で取り扱う。
現時点で公開されている最新値、2014年における携帯電話普及率は次の通り。この携帯電話には従来型携帯電話(フィーチャーフォン)以外にスマートフォンなども含む。また、単純に「契約者数÷人口」で普及率を算出していることに注意。100%を超える値を示す国もある。
イタリアの154.3%をはじめ、複数国が100%を超えている。これは「契約数÷人口」から算出しているのに加え、「プリペイドの扱いやSIMカード(契約者情報を記録したICカード)の互換性への対応が各国で異なること」を起因とする。要は一人が複数枚のSIMカードを「契約」し、電話をかける相手によってカードを切り替え、少しでも安い料金で利用しようとする「生活の知恵」的な使い方による。
これを公開値として確認ができる値、2000年以降の動きについてグラフ化したのが次の図。
グラフのスタート時点、つまり2000年の時点ですでに、少なくとも2割強、イタリアやイギリスではすでに8割近い普及率を示している。上昇傾向は各国でさほど大きな違いは無く、先行する形を見せているイタリア・ドイツ・イギリスでは2007年から2008年で早くも頭打ち、上昇率の鈍化を示している。SIMカードの使われ方でやや違いを見せるが、この3国では携帯電話はほぼ飽和したようだ。
一方、フランス・日本などは、引き続き上昇傾向を維持している。この2国は他国と比べてやや大きめな上昇率が2011年から2012年にかけて確認できるが、これはスマートフォンの飛躍によるところが大きい。さらに若年層への普及加速化、そしてシニア層へ携帯電話が浸透し始めたのも一因だろう。イタリアのようなSIMカードの多用スタイルはほとんど無いため、同国のような高い値を示すことは考えにくいが、上昇はまだしばらく続くものと考えられる。
意外(!?)に高い国も…新興国編
続いて「新興国」。すべてを追いかけるのは雑多に過ぎるので、今回はG20各国のうち目に留まった国、具体的にはアジア諸国からは「シンガポール・マレーシア・韓国・インドネシア・中国・インド」、それ以外の国から「サウジアラビア・ロシア・ブラジル・トルコ・メキシコ」を対象とする。
まずは公開されている最新値、2014年における携帯電話普及率。
複数国が100%を超えている。これは前述の通り「契約数÷人口」の計算式で算出していることと、イタリア同様に、「プリペイドの扱いやSIMカード(契約者情報を記録したICカード)の互換性への対応が各国で異なること」を起因としている。
また直近3年間の動きを見ると、サウジアラビアでイレギュラーと思われる減少が起きているが、それ以外の国では押し並べて上昇している。特に東南アジア地域においてマレーシア、インドネシア、中国の上昇ぶりが目に留まる。中でもインドネシアと中国は人口が数億の単位の国にも関わらず10%ポイント前後の上げ幅を示しており、両国で加速度的に携帯電話(多分にスマートフォンだろう)が浸透している状況がうかがえる。
続いて2000年以降における、各国の携帯電話普及率推移。
元々携帯電話、あるいはデジタル方面のインフラ整備に積極的な韓国やシンガポールは2000年時点ですでに60%から70%と高い普及率を示している。これらの国は先進諸国と同様の普及率上昇傾向にあるが、天井感を示す動きはまだ無く、しばらくはこの流れが継続しそう。もっとも上昇スピードはほぼ一定で緩やかなものである。
なおシンガポールで2006年から2007年にかけて大きな上昇がみられるが、これは2006年6月に同国で発表された、10か年情報通信マスタープラン「インテリジェント・ネイション2015」、そしてその一環として構築された「次世代全国ブロードバンド網(NGNBN)」(オープンアクセスの光ファイバー網)が一因だと考えられる。
他の国のほとんどは、2000年の時点では数%から良くて20%程度の値でしかなかった。それが2003年前後から上昇カーブの角度を上向きにし、急速な普及率向上を見せる。とりわけサウジアラビアとロシアの伸び率は著しいが、上記にある「SIMカードの複数契約」がその一端であると考えられる。
それ以外の国でも普及率の伸び方は非常に大きく、各国のインフラ整備が急ピッチで行われ、それと共に携帯電話の普及も進んでいる。見方を変えれば「携帯電話の普及が新興国の発展のバロメーターの一つ」であると同時に「携帯電話の普及により民間・一般市民における情報や経済交流の活性化が促進され、国そのものの活力向上にも寄与した」と考えられる。
他方中国は上昇率もゆるやかなものだが、確実に増加していることには違いない。同国の人口ポテンシャル(と地域性)を考えれば、この伸び率でも驚異的であると認識すべき。また、トルコは2008年の92.8%をピークに普及率が頭打ちとなっているが、これは同国の携帯事情(本体を利用登録しておかないと利用できなくなる)によるようだ。もっと最近では再び上昇を再開している。
携帯電話の普及と共に、「不特定多数」の人たちの意識と情報環境は大きく変化していく。これが各国の社会、そして世界全体にどのような影響を及ぼすことになるのか。慎重な注視が必要ではある。
■関連記事: