学生運動時代、警察の対デモ行動を一般市民はどのように見ていたのか
1950年代から1970年代初頭の学生運動に関し、デモ活動を多くの一般市民は称賛し、警察の制圧行動などを毛嫌いしたとの意見が見受けられる。その実情を1969年(昭和44年)に実施された内閣府の世論調査から確認していく。
今調査は1969年2月6日から2月12日にかけて20歳以上70歳未満の男女に対して調査員による面接聴取方式によって行われたもので、有効回答数は2563人。男女比は1174対1389、世代構成比は20代589、30代727、40代588、50代398、60歳以上261。現在の内閣府の各種調査と比べ、回答率が高く、また人口構成比も合わせ若年層の比率が高めとなっている。
まず当時ピークを迎えていた学生によるデモや乱闘(具体例としては1968年に東大紛争、機動隊員の死者も出した日大闘争、新宿騒乱などが発生、そして1969年1月18日から19日には機動隊の突入による鎮圧(東大安田講堂事件)などがある)などを現場で見たことがあるか否か。これは一部で野次馬的に現場へ顔を出し、騒乱に巻き込まれて実害を受ける事例が少なからず生じていた状況も、設問の背景としてある。
実のところ直に見た人は1割もいない。多くは首都圏、都市部で起きていたこともあり、多くの人にとっては間接的な事案でしかなかったことになる。
それでは多くの人達はどのようなルートで学生運動を知ったのか。現場では見たことがなく、見聞きしたことがある人に聞いた結果が次のグラフ。
多くはテレビや新聞で学生運動を知ったとしている。内閣府の消費動向調査によれば、1969年当時のカラーテレビの世帯普及率は13.9%。ただし当時すでに白黒テレビは世帯普及率で9割強。ほとんどの人はモノクロ画面で学生運動を見知ったことになる。
これらテレビや新聞などで見知った学生運動の中でも、いわゆる破壊的・暴力的活動については否定的。肯定派は1割にも満たない。
他方、対抗する警察、特に機動隊の動向に関しては肯定的な意見が多数を占めている。冒頭でも触れた東大安田講堂事件の場合、機動隊による実力排除に関しては、強度の差はあれど肯定意見が3/4を超えており、否定意見は5.8%に留まっている。
これら警察による警察活動、催涙ガスの使用、装備品の充足度についてもほぼ現状維持・肯定との意味での肯定派が多数で、否定派は少数。また意見留保は2割前後に留まっている。もっとも、さらなる対応強化の意見も少数派でしかない。
ただし取り締まり行為については3割ほどが現状(1969年当時)ではなまぬるい、さらなる強化を求めている点は、その当時の騒乱状況を好んでいないとの社会全般の意見を反映したものと考えられる。
最後は機動隊そのものに対する印象。頼もしさとふがいなさ(あるいは肯定的な意味での「もう少し頑張りましょう」的な声援)が多数で、行き過ぎた行為を否定する意見はあまりない。また学生への印象との比較においては、一概にどちらか片方を持ち上げることはできないとの意見も3割強あるが、5割近くは機動隊員への心理的同情を明らかにしている。
国民の約8割は学生運動を主にテレビや新聞で知っている・知ったことから、当時の印象は多分に報道の切り口で左右されていることになるが、それでもなお警察・機動隊の行動は肯定されていた事実を認識しておく必要があることは言うまでもない。
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