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アルバイト時給は上昇傾向、三大都市圏では平均1000円に近づく

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 日々時給部分が貼り換えられる求人ポスター。相場は上昇しているように見えるが

雇用市場における需給関係の変化は単なる人手不足の動向に留まらず、その状況を起因とした多様な方面への影響が話題に登る。非正規雇用の中でもメインとなるパート・アルバイトの時給の推移を通し、市場動向を垣間見ることにしよう。

パートやアルバイトの時給動向に係わる定点観測データは、公的機関による公開調査結果では残念ながら見当たらない。国税局では正規・非正規別の賃金動向を収録しているものの、こちらは2012年分以降のもののみで、経年動向を探るのには年数が足りず、また非正規はパートやアルバイト以外にも嘱託、契約社員なども該当するため、データとしては雑なものとなる。そこで今回はリクルートグループが展開している求人情報メディア「TOWNWORK」「TOWNWORK社員」「fromA navi」に掲載された求人情報をベースとして、同社が2007年以降毎月の状況を公開している公開データを用い、その動向を確認していくことにする。

直近データとなる2015年10月分では、業種別では大分類で販売・サービス系、フード系、製造・物流・清掃系、事務系、営業系、専門職系に区分されている。また地域別では主要エリア別、三大都市圏(首都圏・東海・関西)、全国の平均値などが確認できる。このうち長期時系列のデータ取得が容易な三大都市圏の分で、全体値、さらには日常生活で見聞きすることが多くしばしば話題にも登る販売・サービス系(例:レジ、販売、コンビニスタッフ、チラシやパンフ配布など)とフード系(飲食店のホールスタッフ、ファストフードなど)、そして専門職系のうち介護スタッフに焦点を絞り、値を抽出していく。

まずは全体的なパート・アルバイトの募集時における平均時給の推移を確認する。各グラフには直近月の値に加え、描写範囲内の最高額・最低額の月(+α)の具体的値を示しておく。

↑ パート・アルバイト募集時平均時給(円)(三大都市圏、全体)(リクルートジョブズ)
↑ パート・アルバイト募集時平均時給(円)(三大都市圏、全体)(リクルートジョブズ)

最低額は意外にも金融危機ぼっ発前の2007年4月における928円。以降900円台後半にまで上昇し、ほぼ一定額のボックス圏内で推移する。なお毎年特定の時期に大きく跳ねる様子が見られるが、これは年末(12月)におけるかきいれどきの求人で、相場が上昇する様子が表れている。

金融危機やリーマンショック(2008年9月)の影響もほとんど受けておらず、意外な感はある。ただしよく見ると、リーマンショックよりはむしろその後の震災、極度の円高不況による影響をいくぶん受けているような雰囲気を覚える。また2013年以降は年末のピークの後の下げ方も限定的なものとなり、2014年は夏以降高止まりしているのが分かる。そして2015年は踊り場から上昇再開の動き。

最高値は今回月の2015年10月における977円。前月2015年9月分の970円を7円上回る形となった。繁忙期でないこの月における上昇ぶりは、底上げが起きている感が強い。ちなみに前年当月は961円なので16円のプラス、1.7%の上昇。

続いて販売・サービス系。

↑ パート・アルバイト募集時平均時給(円)(三大都市圏、販売・サービス系)(リクルートジョブズ)
↑ パート・アルバイト募集時平均時給(円)(三大都市圏、販売・サービス系)(リクルートジョブズ)

最安値を付けた時期が金融危機ぼっ発前であることは全体値動向と変わりは無し。一方でこれまで最高値は震災のあった2011年の年末につけており、それ以降はむしろ安定の流れにあった。また毎年12月がピークとなる動きも変わりなし。ただしリーマンショック後の数年はその定石が崩れたパターンを示しており、いかにアルバイト市場に大きな打撃を与えていたかが分かる形となっている。

だがこの数か月は毎年ピークになる12月に向けて早くも上昇機運が高まり、9月の時点でこれまでの最高額となる949円を超えた950円を計上。直近の10月はさらにそこから5円上乗せし955円。もちろん値を取得可能な期間内では最高額。前年同月は944円なので、プラス11円、1.2%の上昇。

続いてフード系。景気動向に即した、もっとも典型的な動きを示している。

↑ パート・アルバイト募集時平均時給(円)(三大都市圏、フード系)(リクルートジョブズ)
↑ パート・アルバイト募集時平均時給(円)(三大都市圏、フード系)(リクルートジョブズ)

最安値を付けたのは震災直後の2011年4月で893円。それ以前は金融危機ぼっ発後もあまり変わらず、リーマンショック以降じりじりと下げている。そして震災以降は2012年夏から2013年夏ぐらいまではほぼ横ばい、それ以降は再び上昇カーブを強めながら推移している。

最高値は今回月の2015年10月で949円。前年同月の937円からは12円のプラス、1.3%の上昇。3か月連続の上昇で、やや強めの勢い。このペースでいけば、1000円の大台を超えるのも遠くは無いかもしれない。

最後は介護スタッフ。今項目は2012年7月から調査対象となっているため、グラフの生成期間もそれに従っている。

↑ パート・アルバイト募集時平均時給(円)(三大都市圏、介護スタッフ)(リクルートジョブズ)
↑ パート・アルバイト募集時平均時給(円)(三大都市圏、介護スタッフ)(リクルートジョブズ)

ややばらつきが大きいものの、2014年末まではほぼ960円から980円のボックス圏で推移している。それが今年に入ってから大きな上昇を見せ始め、2015年5月には初めて1000円の大台を突破した。その後少々値を落として再び3ケタ台に戻してしまったが、今回月となる2015年10月では前回月の9月からいくぶん値を落としたものの、1000円台は維持。過去最高値はその9月の1016円。1000円を底値としてさらに上値を目指すか、今後の動向が注目される。

販売・サービス系ではやや異なる動向だが、全体的にパートやアルバイトの時給も少しずつ上昇傾向にある。需給の関係から考察すれば、求職者以上に求人が増え、賃金を引き上げることで求人を充足させようとする動きの中にあると見て良いだろう。少なくともパートやアルバイトの雇用市場では、就業する立場にある人から見て、情勢は好転していると見てよいのではないだろうか。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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