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救急車の病院収容時間は39分24秒、前年比で6秒遅延化

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 昼夜を問わず出動する救急車。整備は進むが需要に追い付かず……

増加する需要、遅延化する救急搬送

消防庁発表の消防白書によると、119番通報を受けてから対象患者を病院に搬送するまでの全国平均時間は、2014年中においては39分24秒だった。これは前年2013年と比べて6秒遅い計算となる。この内情を公開データから確認していく。

まずは公開されている白書でさかのぼれる1998年中以降における「救急自動車による現場到着時間平均と病院収納時間平均」をグラフ化する。

↑ 救急自動車による現場到着時間平均と病院収容時間平均
↑ 救急自動車による現場到着時間平均と病院収容時間平均

「現場到着時間」は通報を受けてから現場に着くまで、「病院収容時間」は通報を受けてから現場に到着し、対象患者を収容して病院に収容するまでの時間。いずれも年々増加の傾向にある。

ただし「病院収容時間」には「現場到着時間」も含まれるため、今グラフでは違いは分かりにくい。そこで「現場到着時間」と、「現場到着後・病院収容までの時間」を逆算して積み上げグラフにしたのが次の図。各年の赤と青によって構成された棒全体の長さが「病院収容時間」となる。

↑ 救急自動車による現場到着時間平均と現場到着後病院収容までの時間
↑ 救急自動車による現場到着時間平均と現場到着後病院収容までの時間

現場に到着するまでの時間も、そしてその後病院に収容されるまでの時間双方とも少しずつ、だが確実に伸びている(ただし直近2014年に限れば、「現場到着後病院収容までの時間」は前年比で変わらすの結果が出ている)。ちなみに「現場到着後病院収容までの時間」は「現場到着時間平均」の何倍かを算出したが、大きな変化はない。「現場に到着するまで」「現場に到着してから」のどちらか一方だけに、収容されるまでの時間が伸びている原因があるわけでは無い。

高齢化で増加する搬送要請、オーバーフローの気配

「病院収容時間」などの時間が伸びている原因はいくつか推測でき、白書でも問題点として指摘している。そのうちの大きなものが「軽症患者、あるいは救急搬送が不必要な事例による出動が増え、救急活動がオーバーフロー気味となっている」と「高齢者の呼び出しによる出動回数の増加」。その状況を把握できるデータを確認していく。

まずは傷病程度別運搬人員の状況。もっとも古い1998年から直近の2014年までのデータをもとに算出して比較したもの。軽傷者比率はほぼ横ばいで、中等症者(3週間未満の入院が必要な病症な者)比率が増加、重症者以上が減少している。

↑ 救急自動車による傷病程度別搬送人員の状況(全国、比率)
↑ 救急自動車による傷病程度別搬送人員の状況(全国、比率)

ただしこれは全搬送者数に対する比率。1998年当時は約354万人だった搬送者も10年後の2008年には約468万人、そして直近の2014年では約541万人にまで増加している。その上で比率に変化がないことから、軽傷の搬送者数は大幅に増加していることが分かる。

↑ 救急自動車による傷病程度別搬送人員の状況(人、全国)
↑ 救急自動車による傷病程度別搬送人員の状況(人、全国)

ケガにしても病気にしても本人自身ではその重度が判断しにくい。「軽傷に思えるのなら救急車は呼ぶな」との意見に正当性は無い。しかし同時に、数字の上ではこのようなデータが出ている事実を認識しておく必要はある。

もう一つは年齢階層別区分。消防庁でも年齢階層別構成に係わる問題については近年注視しており、2008年分以降から関連値を公開している。

↑ 救急自動車による年齢区分別事故種別搬送
↑ 救急自動車による年齢区分別事故種別搬送

都合7年分の値が確認できるが、明らかに高齢者の比率が上昇している。また確定値が出ている直近の国勢調査(2010年実施)の人口比も併記したが、高齢者の搬送比率が人口比よりはるかに多いのも一目瞭然。

病状の悪化やケガの発生比率を考えれば、高齢者搬送比率が人口比率より高いのは当然の話。しかし一方で、人口比率の変移と比べても非常に高い上昇率を示しているのが気になるところだ。あるいは「高齢者」(65歳以上)区分の中でもよりリスクの高い年齢層の比率・絶対数の増加によって、必然的に搬送人数が増えていると見た方が妥当かもしれない。

消防庁でも限られたリソースの中で、できる限りの効率運用を成して状況の改善を図るべく、さまざまな施策を打ちだしている。消防本部の拡大(広域化)により管轄区分に伴う問題点(距離的には近いが管轄外のため出動対象とならず、現場に車両が到着する時間が遅れること)、人員配置の効率化と充実、体制の基盤強化などを推し量ったり、複数の消防司令本部の業務を1か所の消防指令センターで共同運用する「消防指令業務の共同運用」などが良い例である。しかし急増する対応事例には応じきれず、病院収容時間などが伸びてしまっているのが現状。状況の改善のためには救急体制の抜本的な改革(例えば論議に挙がっている、救急搬送の一部有料化による、実際には救急車の利用が必要ない病症者の利用減少模索)や、投入リソースの増強が求められよう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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