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高齢層と中堅女性で大きなパート・アルバイトの増加…非正規社員の現状を探る

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 軽作業・単純作業が多い非正規社員の仕事だが……

労働市場に関して注目を集めている事象の一つが非正規社員問題。労働形態の変化や高齢者の再雇用問題、女性の就労による共働き世帯の増加など、多様な社会情勢の動きと深い関係がある。総務省統計局が2月に発表した、労働力調査の最新結果などから現状を確認していく。

次に示すのは雇用形態別で区分した、非正規の職員・従業員(非正規社員、非正社員)の人数推移。数年前に「派遣叩き」が世論、そしてそれに後押しされる形で各種法規制によって行われ、多業種の企業は派遣社員を敬遠する傾向にある。

最新調査結果が公開された2015年分においては、景況感の回復基調が高まり企業側による労働リソースの需要が拡大する一方、コスト増への懸念や必要な労働力の柔軟化(、加えて閑散期と繁盛期の差が大きい第三次産業比率の拡大)の動きが見受けられる。また主婦をはじめとした就業時間の柔軟性の高い点を評価した上での需要拡大と、正規雇用が困難な事例が増えている昨今の労働市場の状況が加速中。その上、団塊世代の定年退職者による非正規社員としての再雇用の機会が多数創出されている。これもまた、非正規社員数を大きく底上げしている。

その結果、前年から比べてパート・アルバイトや派遣社員は増加を示した。一方、契約社員・嘱託は前年から大きく減少している。これは昨年、一昨年における大幅増加の反動によるところが大きい。

↑ 雇用形態別にみた非正規の職員・従業員(万人、2015年)
↑ 雇用形態別にみた非正規の職員・従業員(万人、2015年)
↑ 雇用形態別にみた非正規社員の推移(万人)
↑ 雇用形態別にみた非正規社員の推移(万人)
↑ 雇用形態別にみた非正規の職員・従業員の対前年増減の推移(万人)
↑ 雇用形態別にみた非正規の職員・従業員の対前年増減の推移(万人)

派遣社員の減少は「派遣叩き」の影響が出始め大きく値を減らした2009年、そして2010年と続き、ようやく2011年にはプラスマイナスゼロの領域まで回復した。この期間には同時に「パート・アルバイト」「契約社員・嘱託」が増えているので、単に労働力が過剰で非正規社員が減らされたのでは無く、「派遣社員がバッシングで雇用しにくくなったのなら、同じような作業はアルバイトや契約社員に任せよう」との意図を企業が実践していたことが分かる。

直近となる2015年では2014年ほどの大幅増加ではないものの、非正規社員はプラス18万人と増加を示し、雇用者全体の数を底上げしている。他方、正社員はここ数年の動きから転じてプラス26万人となり、非正規社員の増加数を大きく上回る形となった。労働市場の回復ぶりや内部構造の変化に加え、企業側の求人内容の変化が生じている事が分かる。

2015年時点では雇用者全体の62.6%が正社員(・正職員)、残りがパートや派遣、契約などから成る非正規社員との計算になる。前年比では正社員比率が久々にプラスとなった。無論、非正規社員は兼業主婦によるパート・アルバイトが多分に含まれていることに注意しなければならない。各算出値はあくまでも老若男女すべてを合わせた結果である。

↑ 雇用形態別にみた雇用者の割合推移(役員を除く雇用者に占める割合)
↑ 雇用形態別にみた雇用者の割合推移(役員を除く雇用者に占める割合)

グラフからは単純に非正規社員の割合が増加の一途をたどっているように読み取れるが、先の実数のグラフと照らし合わせると、景気後退の影響が出る2008年までは「正社員数は横ばいか微減」「非正規社員は増大」との構図、言い換えれば企業は「景気拡大期は非正規社員の増加で、業務拡大に対応していった」のが大きな流れであることが分かる。ちなみに「派遣社員制度叩きで正規雇用を求める動き」と、「不景気で雇用調整が行われ、正規社員が減る時期」「不景気に加えて派遣叩きの世論で派遣市場が縮小する時期」、さらに「パートやアルバイトの増加時期」はほぼ一致する。

現在は景気後退・低迷期からようやく景況感が回復しつつあるが、労働市場の内部構造の変化は続いており、効率的な企業経営の中で正社員が必要とされるポジションが増えることは無く、柔軟性に富んだ非正規社員の需要が増加している。ただし非正規社員枠ではまかないきれない職務領域の拡大や、非正規の求人では人的リソースを埋めきれない状況が増え、それと共に正社員の求人も増加し、就業できるケースが増えている。労働市場の回復過程は概して「非正規雇用の増加」「正規雇用の増加」の順となるのだが、その動きの最中に他ならない。

また、定年退職者や早期退職制度の適用、リストラによる中途退職者の増加も、昨今の労働市場においては重要な要素の一つ。繰り返しになるが、非正規社員の増加数では若年層よりはるかに多い中堅層以降の増加が確認されている。とりわけ2015年では高齢者と中堅層女性の増加が著しく、小売業などでの女性のパート・アルバイトの需要、定年退職者の再雇用が大幅に増加したものと見れば道理は通る。

↑ 年齢階層別・非正規社員の前年増減数(2015年)(万人)
↑ 年齢階層別・非正規社員の前年増減数(2015年)(万人)

非正規社員の増加、雇用者全体に占めるシェアの増加の実情は上記にある通りで、労働市場の変化の表れの一側面に違いない。一面的な数字のみにとらわれ、非正規社員の生活の不安定さを考えれば、正社員の増加を求める声が増すのも当然の動き。

一方で上記の各種値にある通り、非正規社員そのものの構成や増加分の多分が、兼業主婦のパートやアルバイト、定年退職者や中途解雇者による中堅層以降の再雇用から成る事実も認識する必要がある。正しい状況を把握せずに、全体的な、表面的な数字だけを振りかざして、バッシングの機運を高めれば、数年前の派遣叩きとその結末同様の愚が繰り返されてしまうことになる。

「木を見て森を見ず」的な判断を下さないよう、心から願いたいものだ。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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