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アマゾンドットコムのお財布事情を探る

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 米アマゾン。Fire TV Stickの盛況ぶりをアピール。

累乗的に売上は増加するも、営業黒字は2002年から

世界中にその流通網を張り巡らし、多くの人が活用し便宜性を甘受している、通販を中心とした総合ウェブサービス会社、アマゾンドットコム。米国時間で2016年4月28日付で公開された2016年第1四半期決算報告書をはじめ、公開されている各種資料をもとに、財務状況の推移などを確認する。

アマゾンドットコムの公開データは1999年3月5日提出のものが最古。1994年以降のものも掲載されているが、初年度は立ち上げ時期であることから売上がゼロなので、これは省略。1995年以降のものを抽出し、グラフを生成し吟味する。最新のデータは上記の通り年次分は2015年分、四半期単位は2016年第1四半期まで。なお日本の企業と比較する際には、それぞれの年の為替レートを考慮する必要がある。しかし今回はアマゾンドットコムそのものの推移を見るので、ドルベースのままで問題ない。

↑ アマゾンドットコムの売上と営業利益率
↑ アマゾンドットコムの売上と営業利益率
↑ アマゾンドットコムの売上と営業利益率(2002年以降)
↑ アマゾンドットコムの売上と営業利益率(2002年以降)
↑ アマゾンドットコムの売上と営業利益率(2014~2016年、Q単位)
↑ アマゾンドットコムの売上と営業利益率(2014~2016年、Q単位)

「営業利益率」とは「売上高営業利益率」のこと。つまり売上と営業利益(その企業の本業における利益)の関係を示している。計算方法は「総売上を営業損益で割ったもの」。この値で「本業の稼ぎにおける効率の良さ・悪さ」が分かる。高い方が効率よい本業をこなしていることを意味し、マイナスならば本業が赤字を出している。

四半期単位では年末セールを含む第4四半期(Q4)の売上が突出している。アメリカ合衆国の「ブラックフライデー」をはじめとした年末商戦が、いかに大きな稼ぎ時であるかが分かる。

年ベースではグラフの動向からも分かるように、売上高は累乗的に増加する一方、営業利益率は1999年に一度落ち込み(営業費用の大幅な増加が原因)、2001年まではマイナスのまま推移。2002年にはようやくプラスに転じている。しかしそれ以降、大きな上昇を見せることなく、営業利益率は横ばいを続けていた。

2007年以降は4%台、2014年にいたっては0.2%しかなく(第3四半期のマイナス2.6%の主要因となったFire Phoneの販売促進費用の計上などがあり、年ベースでも低迷)、日本の一般小売店とさほど変わりがない、むしろ低い値を示している。アマゾンドットコムが大きな黒字額を計上するニュースを見聞きした記憶がある人は多いはずだが、これは「利益率の高いビジネスをしているから」ではなく、「スケールメリットを活かした」結果、言い換えれば「規模の大きなビジネスをしている・薄利多売だから」得られたものである。

2010年以降営業利益率は減退傾向を続けている。現時点では「電子書籍事業をはじめとする新事業への投資に注力する時期にある」と見た方が納得はしやすい。続々登場するキンドルの新しいバージョンと増加する電子書籍のラインアップを見れば、それも理解できるはず。また昨今ではドローンの積極活用の姿勢を見せるなど、新しい分野への積極参入・開発姿勢も意欲的。この挙動はグーグルやアップルと似た方向性にある。あるいは発想が逆で、新事業を展開して領域を拡大することこそ、つまり成長と拡大がアマゾンの存在目的であり、利益はそのためのエネルギー源でしかないとの認識なのかもしれない。

他方、年ベースでは直近となる2015年では営業利益率は2.1%にまで大きく跳ね上がっている。これは四半期単位の動向を見れば分かる通り、2015年に入ってからは大きな損失を計上することもなく、さらに利益率の高いAWS(Amazon Web Services。アマゾンドットコムから提供されている各種クラウドコンピューティングサービス)のビジネスが順調に成長を示し、全体利益を底上げしていることによるもの。

2015年の年次決算報告書以降強調されているように、同社ではより大きな貢献度が期待できる、有料制会員サービスのプライム会員への投資にも積極的。商品購入時の迅速な配達と手数料の割引、音楽や写真、映画の提供など、多様なサービスを提供し、同社への傾注度を高める「囲い込み戦略」を展開。今後もさらにより多くの便益を会員が得られるように努力していくと言及している。

今回の報告書でアマゾン創設者でもあるCEOのジェフ・ベゾス氏は

アマゾン自身が送り出している端末こそが、アマゾンドットコムの中で一番売れている商品である。キンドルFireの売上は前年四半期と比較して2倍売れた。39ドルで発売された「Fire TV Stick」(テレビなどのHDMI端子に差し込む事で動画サービスや音楽サービスを楽しめるアマゾンの新商品)は、今週に至ってアマゾンドットコム内で取り扱う全商品の中で、はじめて10万件のカスタマーレビューを受けることとなった。そのうち6万2000件以上が最上級の星5つの評価。

先日発売された「Amazon Echo」(人工知能搭載の音声認識型スピーカー)も信じられないほどの好評ぶりのため、需要に供給が追い付いていない。これらの新商品の提供に示されるように、アマゾンではプレミア的な商品を通常品のような価格で提供するよう努力しており、多くの顧客が我々のサービスを絶賛している

と語っている。ただしFire TV StickもAmazon Echoも、具体的な販売台数は開示されていない。

↑ Amazon Echoに関する紹介映像(公式)。未来の音楽端末を想起させる。

昨今利用者のさらなる拡大とサービスの拡充のポジティブスパイラルが続くAWSに関する売上推移は次の通り。

↑ Amazon Web Services(AWS)の売上高(四半期単位、億ドル)
↑ Amazon Web Services(AWS)の売上高(四半期単位、億ドル)

前年同期となる2015年第1四半期の売上は15.66億ドル。それと比べて直近四半期はプラス約64%もの成長を示している(事業区分別営業利益は前年同期比で実にプラス170%)。今四半期に限ればその売り上げは、全体の大よそ8.8%に達している。

各種営業指標をグラフで眺めると

次に示すのは、アマゾンドットコムの1995年以降における「総売上」「売上原価」「営業費用」「営業損益」「純損益」の推移。

↑ アマゾンドットコム「総売上」「売上原価」「営業費用」「営業損益」「純損益」推移
↑ アマゾンドットコム「総売上」「売上原価」「営業費用」「営業損益」「純損益」推移

「総売上」と「売上原価」の差、つまり「粗利」が小さく、さらに営業費用が加わることで利益が食いつぶされ、売上と比べれば利益が非常に小さい。ただし割合としては小さくとも、規模そのものが大きいので、結果的に膨大な額の利益を確保できる。

また、2007年から営業費用が急激に上昇しているが、これは2011年提出分から計算様式が少々変わり、売上原価を営業費用に計上したため。提出された書類から、確認可能なものまでさかのぼり、グラフには反映させている。アマゾンの財務体質に根本的な変化が生じたわけではない。

アマゾンのこれまでとこれから

アマゾンでは当初立ち上げ時から5年位の間は、利益が十分にあがらないだろうことを前提に戦略を組んでいたとの話もある。実際には利益を出すまでさらに数年を要したわけだが、赤字の間にも(ご承知のとおりその期間にはいわゆる「ITバブル崩壊」の時期も含まれる)自らの戦略を信じ、売上と規模を拡大し続けた努力と強い意志があったからこそ、今の地位を築くことができた。

現在ではアマゾンは、インターネット上の通販ビジネスで世界ナンバーワンの地位を占めている。そして昨今では電子書籍・リーダーの世界にも乗り出し、関連事業も含め、確実に躍進を続けている。その上プライム会員への独自サービスを次々と打ち出し、ネット通販利用者の囲い込みに惜しみなくリソースを注入している。昨今では、配送ドローンによる商品配送サービス「Prime Air」も模索しているとし、逐次その技術開発の経過報告を行っている。

常に新しく便利なサービスを提供する確固たる意志とそれを体現化するための絶え間ない努力、そして関係者の協力が、今の状況を作り出していることは間違いない。

昨今の電子書籍リーダー「Kindle」への注力ぶりや、Amazon Echoのような未来志向の商品の自主開発と提供、そして「営業利益率を下げてでも注力する価値のあるものへの邁進」「利益を前進と拡大へのためのエネルギー源としての認識」的な同社の方針も、同社の中長期的なかじ取りの一環と見れば、十分理解できる。

なお年次報告書では、主要地域別の年間売上高推移が米ドル単位で記されている。為替レートの問題もあるので単純比較をするのはややリスクが高いが、本社のあるアメリカ合衆国では各販売エリアの売上をどのようにとらえているのかとの解釈で見れば良いだろう。

↑ アマゾンの地域別総売上推移(米億ドル)
↑ アマゾンの地域別総売上推移(米億ドル)

いかに北米(アメリカ合衆国+カナダ)がアマゾンにとって、そしてネット通販市場として巨大なのかがあらためて理解できる数字に違いない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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