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70年近くに渡るたばこ価格の推移

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 先日もメビウスなど一部銘柄で値上げしたばかりのたばこ

少しずつ上昇していくたばこ価格

2010年10月のたばこ税と2014年4月の消費税、それぞれの引き上げ、さらには2016年4月からの独自の値上げにより、たばこは短期間に3度もの値上げを体験することとなった。それではそれより長い期間を視野した場合、いかなる価格変移が生じているのだろうか。今回は総務省統計局における「小売物価統計調査 調査結果」などを基に、その動向を探ることにする。

日本ではたばこの販売はJT(旧専売公社)の寡占的な事業で、1985年までは専売制だった。現在でも日本国内においては唯一、たばこ製造を許可され、販売している(JT以外の企業では海外からの輸入たばこを販売している)。また地域による価格変動も無い。小売物価統計調査では1950年以降ホープ・ピース・しんせい・ゴールデンバット、そして1960年に発売されたハイライトの計5種類の価格追跡調査が行われていたため、その値が取得できる。その動向をグラフに描き起こしたのが次の図。

↑ たばこ価格の推移(~2009年、円)
↑ たばこ価格の推移(~2009年、円)
↑ 1959年(ハイライトは1961年)と2009年時点における監視対象銘柄の価格(円)
↑ 1959年(ハイライトは1961年)と2009年時点における監視対象銘柄の価格(円)

継続監視対象の5品目では「ピース」が一番価格上昇率は低い。しかしそれでも3倍から4倍程度に値を上げている。また、1980年代後半から1990年代後半までの間はたばこ価格にほとんど変動が無かった、その時期以外はいずれの銘柄も一定期間毎に随時値上げを繰り返しているのが確認できる。「ピース」の初期をのぞき、価格が下がったことは無い。

監視対象銘柄の変更で継続確認はピースのみ

上記グラフはいずれも2009年までのもの。現行では2015年(年次)・2016年5月(月次)までの値を取得できるにも関わらず、なぜ古い値を最新値としたグラフを生成したのか。実は「小売物価統計調査」では紙巻きたばこの監視対象銘柄を、2010年から大幅に切り替えてしまっている。喫煙者の消費性向に従った判断によるものだが、これにより1950年代・60年代から継続データを取得できるのは「ピース」だけとなってしまった。

また2010年以降では冒頭にある通り、たばこ全体では3回もの値上げが実施されている。そこで「ピース」については長期経年価格推移のグラフを、残り4銘柄も含めた「銘柄を特定した調査期間においては最新の」監視対象の銘柄に関しては引上げ前、そして税率引き上げに伴う2回の値上げタイミングにおける値上げ後の動向をグラフ化する。2016年4月の値上げ時には、該当銘柄は対象外となっているため、いずれも「2014年消費税率改定後」の価格が現在まで引き継がれており、現在価格となっている。

↑ たばこ価格の推移(ピース、~2016年、円)(2016年は5月までの平均値)
↑ たばこ価格の推移(ピース、~2016年、円)(2016年は5月までの平均値)
↑ 2010年10月の値上げ前後/2014年4月の消費税率改定後における監視対象銘柄の価格(円)
↑ 2010年10月の値上げ前後/2014年4月の消費税率改定後における監視対象銘柄の価格(円)

2010年10月の値上げ前後の動向を見るに、大幅な値上げが行われている。何しろ監視対象銘柄内ですら、ピース以外はすべて100円以上の値上げがなされているのだから。そして長期時系列グラフを生成できる「ピース」の価格の動きを見ると、その上げ幅がいかに歴史的なものだったかがあらためてわかる。

喫煙率の推移は「世代別成人喫煙率をグラフ化してみる」に掲載されている通り、データが存在する1965年以降男性は一律に減少、女性は若年層に若干上昇・中堅層以降は減少の傾向が見られる。銘柄の好き嫌いもあるので断定はできないが、昔と比べて今は、女性若年層における「可処分所得中のたばこへの出費割合が増加している」のではないかとの推測もできる。

1958年と今と

小売物価統計調査では2015年からたばこの価格調査に関して項目の大規模な変更を実施しており、「9800……フィルター付きたばこ 国産品」「9850……フィルター付きたばこ 輸入品」と銘柄を明記しない形となってしまった。「銘柄指定」と補足説明にはあるが具体的にどの銘柄なのかは記載が無く、これまでの統計値との連続性が確保できない。

そこで今件記事では、2015年以降は実のところ、JTの公式サイトなどから直に各値を取得する形に変更している。上記のピースについても、実はその手法によるもの。全国統一価格で、価格変更の場合は事前にJTから実施期日も合わせてリリースが配されるために、何とか値を追うことが可能となった。

その手法に合わせ、上記の「1959年と2009年時点における監視対象銘柄の価格(円)」のグラフに、直近分の値を反映させたのが次のグラフ。経年変化の折れ線グラフの構築はかなわないが、価格のダイナミックなまでの変移が確認できる。

↑ 1959年と2009年時点における監視対象銘柄の価格(円)(直近分追加)
↑ 1959年と2009年時点における監視対象銘柄の価格(円)(直近分追加)

60年ほどの間にハイライトは6倍近く、しんせいは7倍、ゴールデンバットに至っては9倍近くにまで上昇している。消費者物価指数を加味すれば倍率はかなり下がるが(消費者物価指数は1959年から2016年の間に約5.7倍に上昇)、それでもなおたばこの価格が上昇していることに変わりはない。

たばこの販売価格引き上げは漸次論議の対象として持ち上がっている。そう遠からずのうちに再び価格の変化が生じる可能性は十分にありえよう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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